【キャンプなタイヤ選び】業界30年のプロが「オールテレーン一択」と断言するワケ。SUVでなくてもアウトドアなクルマに。
キャンプ場でよく見る、ゴツゴツとした「キャンプなタイヤ」。見た目のアウトドア感だけでなく、雨上がりのぬかるみでスタックするリスクを減らす安全性も高めてくれます。SUVだけでなく、ミニバンや軽自動車でも、キャンプなタイヤを選べば、キャンプサイトに合うクルマに大変身。そこで、アウトドアカスタムに強い新車・中古車ディーラー「フレックスドリーム」に、タイヤの選び方と注意点、ブランド別の特徴を教えてもらいました。
意外と知られていない「キャンプなタイヤ」の選び方
キャンプなクルマと言えば、この方!
▲フレックス・ドリームの広報担当で、オールテレーンについて詳しい谷崎秀隆さん
東京・調布をはじめ、全国各地でランクル・ハイエースの専門店を展開する自動車ディーラー「フレックスドリーム」を取材。業界歴約30年、現場からの叩き上げの広報担当、谷崎秀隆さんに「キャンプなタイヤ」の選び方から、メーカー別の違い、意外と知られていない注意点について聞きました。
「革靴でぬかるみに入れはするが、向いてはいない」
──ランドクルーザーなどのSUVのタイヤには、サイドに白文字で「BF Goodrich」と書かれたような「キャンプなタイヤ」をよく見ますよね。そもそも、一般的なものとオフロード系のタイヤは何が違うのでしょうか。
谷崎さん(以下、谷崎):わかりやすく言いますと、人の場合は革靴やハイヒールを履いて走ったり、泥の中に入ったりしないですよね、普通。キャンプ場内で歩けなくはないけど、KEENの定番シューズ「ジャスパー」やダナーの人気ブーツ「マウンテンライト」のようなアウトドア向きなシューズを選びますよね。
──たしかに、人間は靴を使い分けるけど、車のタイヤは場面で履き替えたりはしないですね…。
谷崎:もちろん革靴でも行けることは行けるけど、もう一歩ぬかるみの先にあるサイトに行きたいときは、靴ならゴアテックスだったり、ビブラムのソールのような機能性のある靴がいいわけです。今はキャンプ場も混雑していて、無理してもぬかるみを行くようなシーンも増えています。晴れている時は良いのですが、雨が降るとドロドロになってしまうキャンプサイトも多く存在します。だからこそ、キャンプ好きな人にとって、タイヤの注目度が高まっていますね。
──hinata編集部の撮影でも、社用車のハイエース(FR)が雨上がりのキャンプ場でスタックすることが増えています。泥がみぞに詰まってツルツルになったタイヤをよく見ていて、その重要性は感じていました。
谷崎:一般的なクルマのカスタムでは、パーツ選びは、一番過酷であろう使い方を想定して選ぶことを重視します。かといって、ジャングルの中のドロドロの未舗装を想定したゴリゴリのオフロード仕様がいいかというと、キャンプ好きな皆さんはそこまでは必要ないと思いますが…。
365日のうち、キャンプに行くのは多い人でも30〜40日ほど。クルマは買い物や子どもの送り迎え、通勤に使う人がほとんどなわけです。だからこそ、「乗り心地」「ダート・ロードでのグリップ性能」「燃費」などを多角形のグラフで表現するなら、バランスの良い形にする必要があります。
街乗りも未舗装路もあきらめたくない人へ
日常の街乗りメインなら「オールテレーン」
──とはいえ、やっぱり、未舗装のキャンプ場内でも不安なく走りたい人が多いはずです。
谷崎:キャンプ場や林道のような未舗装路も行け、普段の生活も乗れるオフロードタイヤは、「オールテレーン」と呼ばれる種類です。多くのメーカーでは、A/Tという表記が一般的ですね。
──簡潔にいうと、オールテレーンと普通のタイヤにはどんな違いがあるのでしょうか。
谷崎:まず、オールテレーンは、普通のオンロード用と、泥道を突き進めるように設計されたマッド用のいいとこどり。本当に悪路が大好きな「ザ・四駆乗り」な形から見れば、中途半端ではありますが、日常的に乗る人には、キャンプなタイヤは「オールテレーン」一択といっても過言ではありません。
──キャンプ場では、ぬかるみでスタックするクルマを見るのは日常茶飯事です。弊社の社用車ハイエースなら、大人5〜6人がかりでも動かないことがあります。人が少ないキャンプ場の場合には、助けを呼べないこともありますし、クルマの足元って大事ですよね。
谷崎:キャンプを始めてから、舗装路でないところに入ることが増えた場合に、保険というと大げさですが、オールテレーンを装着しておいて損はありません。ただ見た目のアウトドア感を高めるだけでなく、その機能は2WDのミニバンや軽自動車でも発揮できますよ。
気になる実際の乗り心地
──日常でも使うとなると、実際のオフロードタイヤの乗り心地が気になります。
谷崎:本格的なオフロードタイヤ、ぬかるみなどの悪路に特化した「マッドタイヤ」というのがあるのですが、見た目からわかるように、あのゴツゴツとしたブロックがロードノイズを生みます。数百メートル先でも聞こえるほど「ブーン」と独特の大きな音がするタイヤもあります。新品のころはまだ丸いからいいのですが、摩耗してくると、止まるときにゴロゴロと振動を感じるものも。四駆乗りの方が普通のタイヤに履き替えると、「あの音、振動がないと四駆に乗っている気がしない」とおっしゃる人もいるほど、独特といえば、独特な乗り心地です…。
もちろん悪路での走破性は抜群ですが、その代わりにノイズと振動を我慢しなければならないわけです。決して一般的とは言い難いですね。
「家族も乗るならオールテレーン」
──やはり、乗り心地という点では、ファミリーで乗るなら、マッドタイヤは諦めなければいけないのですね…。
谷崎:運転するご本人はともかく、同乗するご家族に、あの音や振動を強要するのはさすがに…。ただ、音については、一昔前と比べれば、ほとんどのメーカーのものが現在は静かになってきています。しかし、銘柄でその差はあるにしても、大きなブロックパターンを持つマッドテレーン特有のゴロゴロとした振動は「乗り心地」という観点から見ればナシでしょうね(笑)。そこでオールテレーンのタイヤの出番というわけです。オンロード用並みの快適性と未舗装の道路でのそこそこの走破性。この両立が各タイヤメーカーの腕の見せどころなわけです。
オフロードタイヤ選びの素朴な疑問
SUV以外でもつけられる?
──オフロードなタイヤといえば、ランクルとかJeepとかの大型SUVのイメージがありますが、一般的なクルマにもつけられるのでしょうか。
谷崎:昔はそんなにサイズの選択肢がなかったのですが、ここのところの世界的なSUVブームで、ほとんどのクルマに装着できるようになりました。軽自動車やミニバンに履かせるのも一般的になってきましたよ。
そもそもゴツゴツしている意味は?
──そもそも、なぜこのようにゴツゴツとしたタイヤなのでしょうか?
谷崎:ちょっと地面の悪い雨上がりのキャンプ場で、スタックする理由の一つに。タイヤの溝の中に泥が詰まってツルツルになってしまうことがあります。みぞが細く、浅いパターンのタイヤによく起こる現象です。これがみぞが太く、深いオフロード用タイヤには、泥が詰まりにくく、詰まったとしても回転することで、みぞに詰まった泥を吐き出す「セルフクリーニング」という機能があります。
F1などのオンロードでのレースシーンで見たことがあると思いますが、全くミゾの無いスリックタイヤってありますよね。滑る要素のない固い乾燥したアスファルトの上、舗装路なら「面」での「摩擦」によってグリップが確保されます。対照的に滑る要素だらけのオフロードでは、タイヤの各ブロックの角である「エッジ」によって引っ掛かるものを探しながら進みます。やわらかい地面にブロックを差しながら進む、スパイクシューズをイメージしていただくと分かりやすいかもしれませんね。
──ゴツゴツしたオールテレーンタイヤは、実際に見た目だけでなく、悪路の走破性もかわってくるのですか?
谷崎:はい。泥のつまらない大きな溝で、スパイクのようにしっかりと地面をつかむことができれば、タイヤが空転することなく脱出しやすくなります。
スポーツカー向けのタイヤでコーナリング性能の限界点が上がった、下がったと言われても、一般的にはなかなか違いなんてわかりませんよね。ただ、ぬかるみの中をいける、いけないは誰でも実感できる明白なことなので、舗装されたロード用よりも実力の差がわかりやすいと思います。
ゴリゴリのマッドタイヤはオーバースペック?
▲起伏のある未舗装が多いキャンプ場。そんなときに履いておくと、リスクを減らせるのがオールテレーンのタイヤ
──ゴリゴリのオフロードタイヤは、日本で普通に乗る分にはオーバースペックかもしれませんね。
谷崎:私の知り合いに豪州人がいるのですが、彼は「日本はクルマで旅がしやすい』とよく言っています。たしかに、北海道から九州までの主要道がすべて舗装され、コンビニや道の駅など休憩するところも多くあります。豪州のクルマ旅では何日にも渡り道なき道を行き、もしクルマが立ち往生することがあれば、助けを求めることもできず…それは命取り。なので、最悪の場面を想定する必要があるわけです。
日本では未舗装路(オフロード)にそこまで重きを置く必要もなく「オールテレーン」のタイヤで十分。アウトドア好きが求めるだいたいの機能を満たしてくれるはずです。
「キャンプなタイヤ」の見せ方とは?
ポイントは肉厚感
──タイヤの見せ方のトレンドは、どのようになっているのでしょうか。
谷崎:アウトドア系のクルマのいじり方=オフロード的な考え方の中にあります。特に重要なのが「タイヤをいかに肉厚にするか」です。地面からの衝撃を吸収する機能的な意味もあります。車種にもよりますが、そのまま肉厚なタイヤを装着するだけだと、直径が大きくなってしまうため、足回りの各部へタイヤが干渉するなど支障がでる場合があります。そんな時は直径の変わらないタイヤサイズでホイールを小さく(インチダウン)すれば、タイヤの厚さがその分増し、いかにもアウトドアな印象が出ますよ。
ホイールでも「ギア感」を演出
──キャンプなタイヤに合う、「キャンプなホイール」はどのようなものがいいのでしょうか。
谷崎:10年ぐらい前は、ギラリとしたアルミが流行りでしたが、アウトドア系の今のクルマのカスタムのキーワードは「ギア感」です。例えば、足元をオーソドックスなデザインの黒いホイールにすることで、見た目にも道具のようなイメージを出せます。
以前は、商用車についているような、デザイン感のない純正の鉄のホイール(鉄チン)を使っている人が多かったですね。今もつや消しブラックにした鉄チンは定番のカスタム。ただ、軽量なアルミのほうがホイールの性能としては上なので、鉄チン風のシンプルなアルミが主流になっています。
ホワイトレターがあった方がいい?
──やっぱりゴツゴツしたタイヤに「Goodrich」とか「OPEN COUNTRY」とか白地でブランド名やモデル名が入っていると、キャンプのクルマぽい感じになります。そもそも、やっぱりホワイトレターのほうが正解なのでしょうか?
谷崎:ATのタイヤのブランドを決めて、最後に選択を迫られるのがホワイトレターです(笑)。ただ、これは完全に好み。
アウトドア界隈では、「あり」がかっこいいとされています。ホイールも黒にすると、足元が全部黒っぽくなってしまうんですよね。そこにホワイトレターが入ると、写真で映えるわけです。モータースポーツに使うタイヤのアピールからきていると思うのですが、各ブランドも喜びますしね(笑)。
もちろん、嫌いな人もいます。悪路に好んで行く本気の四駆乗りでは、ホワイトレターの人気はそこまで高くありません。そもそも岩でこすれてサイドの文字はすぐ消えてしまいます。
裏技としては、ホワイトレターが嫌であれば、裏履きといって、左右のタイヤを入れ替える、片面のホワイトレターが書かれていない面を外側に装着する方法がありますので、あまり気にしないでいいかもしれません。
キャンパー必見!独断と偏見のブランド別タイヤイメージ!
──オールテレーンのタイヤは各メーカーでいろいろ出ていますが、谷崎さんの独断と偏見で、メーカーごとの特徴を教えてください。
谷崎:くれぐれも個人的な意見ですよ(笑)。実は…、今は機能的には、あまりを大差を感じていません…。靴をナイキ、アディダス、アシックスなどから選ぶぐらいの違いというのが本音です。独断と偏見ですが、アウトドア好きな人たちの間でのざっくりとしたイメージは次の通りです。
【グッドリッチ】オールテレーンT/A KO2
谷崎:オールテレーンタイヤのベンチマーク的な存在。うちでもオーダーがもっとも多い定番モデルです。「いかにもキャンプなクルマにしたい!」という見た目重視な人は、これを基準に考えてください。過去のモデルでは「ヒビ割れしやすい」との指摘もありましたが、今は質も改善し、国産メーカーとの差は感じません。一般的には、大型の王道のSUVやスズキ・ジムニー、日産・Xトレイル、スバル・フォレスターなどで合わせている人が多い印象です。
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グッドリッチの公式ページを見る 【トーヨータイヤ】オープンカントリー R/T
谷崎:本日撮影していただいたハイエースにも装着しているタイヤです。実はトーヨータイヤには「オールテレーン(A/T)」が存在します。このR/Tは、A/TとM/Tの間くらいのポジションを担うタイヤです。オフロード性能とオンロードタイヤ性能を両立する新カテゴリーのタイヤとして、オールテレーンでなく、英語で起伏の多い場所を意味するラギットテレーン(R/T)という表記にしています。
SUVだけでなく、ミニバンから軽自動車サイズまで対応できるバリエーションの豊富さが人気の理由。特に軽自動車向けでは、グッドリッチにはないけど、オープンカントリーにはある、という場合も。1ナンバー、4ナンバーといった貨物車規格にも対応しています。私も仕事柄やや険しい路面にトライすることも多いのですが、装着していて安心のできるタイヤです。
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トーヨータイヤ公式ページを見る 【ブリジストン】デューラー
谷崎:オフロードをちょっとだけ走るけど、基本は一般道や高速で静音を求める人向き。国産の大手メーカーだけあって、ロードでの静音性は高いです。新車での装着が多く、それだけ信頼と実績があります。よくいえば優秀だけど、四駆乗りな人にとっては、外見や機能におもしろみはない、と言われることも。
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ブリヂストン公式ページを見る 【ヨコハマ】ジオランダー A/T G015
谷崎:ジオランダーのマッドに対応したM/Tはブロックが大きめで、発売された当初にかなり話題になった実力派のタイヤブランド。四駆好きの中には、ジオランダーを評価する声も。コアな人にも「分かっている」と思われたいならジオランダーでしょうか。
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横浜ゴム公式ページを見る 【ダンロップ】GRANDTREK AT5
谷崎:癖がなく、マジメな全天候型のタイヤ。オールテレーンのタイヤの中では、なんとなく、地味なイメージを持たれがち。M(泥)+S(雪)で、降り出しの新雪ぐらいならなんとか走れます。ほかブランドにもM+Sのタイヤはあるので、この表記を確認しましょう。ただ、万が一の保険程度に考えておいてください。
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ダンロップの公式ページを見る 【ファルケン】FALKEN WILDPEAK A/T3W
谷崎:グッドリッチ、トーヨータイヤと比較すると、見かけることが少ないファルケンのオールテレーン。タイヤサイドの作り込みなどにこだわりを感じますね。バランスの良いとても良いタイヤだと認識しています。ロードレースでの知名度は高いブランドですが、アウトドアシーンでの存在感が薄く、今後のプロモーションでの挽回に期待したいです。もっと人気があってしかるべき性能を有していると思います。
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ファルケンの公式ページを見る 【ナンカン】マッドスター ラジアル A/T
谷崎:台湾メーカー・ナンカンのオールテレーン。以前は日本メーカー以外のアジアンタイヤに対してアンチな方が多かったのも事実ですが、ナンカンもめきめきと実力をつけています。ほかブランドより圧倒的に価格が安いので、コスパで決めたい人向け。軽自動車や商用車につけるアウトドア好きが増えています。「新品のときは我慢できるが、減ってくるとそれなりのノイズが出る」という評判を聞くこともあります。
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ナンカンの公式ページはこちら タイヤ選びの注意点
── オールテレーンのタイヤを選ぶ上で、注意する点を教えてください。
谷崎:同じインチの表記でも、商品ごとに外周のサイズは微妙に違うので、気をつけましょう。特に古いクルマより、新しいクルマになるほどタイヤハウスが狭く、ワンサイズ大きなタイヤにしたりするとインナーフェンダーにあたる場合もあるので、なるべくお店で相談しながら買うのが確実です。肉厚感を出すためにホイールをインチダウンする場合には、ブレーキキャリパーに干渉してしまうなどの限界があるので留意してください。
── 最近はフリマアプリでも中古のタイヤがよく出ていますよね。
谷崎:「タイヤ」は命にかかわる重要なパーツですから、新品の現行モデルを買うことを強くおすすめします。未使用品であってもタイヤはゴム製品である以上、経年劣化はあります。特に、日本は真夏のアスファルト上での超高温や冬の氷点下、雨があり、ゴム製品には大敵の気候。その点、国産ブランドならハズレはないと思うのと、中古はできるだけ避けた方がベターかと思います。
タイヤ選びでクルマのギア感を高めよう
アウトドア感をすぐに演出してくれるキャンプなタイヤ。単にキャンプサイトに合う「ギア感」を高めてくれるだけでなく、キャンプ場内の未舗装の道路を安心して走れるようになる機能性こそ、その最大の恩恵です。キャンプに行く頻度が増えたときに、「クルマの買い替えまでは…」と考えているキャンパーは、タイヤ交換から考えてみてはいかがでしょうか。
撮影協力:
フレックス・ドリーム