キャンプ車の絶対王者ランドクルーザー。専門ディーラーが今も20年前の80を推す理由とは?【hinataガレージ】
国内アウトドア車の絶対的王者、トヨタ・ランドクルーザー。なぜ「ランクル」はアウトドア好きをこれほどまでに魅了し続けるのか─。ランクル専門店を展開する自動車ディーラー「フレックスドリーム」に、ランクル選びの初歩と各モデルごとの魅力を取材。分かったのは、約40年前に生まれた60(ロクマル)の伝説的な人気と、その後継である80(ハチマル)の完成度の高さでした!
ランドクルーザー。それはアウトドアギアの頂点
▲ランドクルーザー60 VX「2020flexdreamデモカー」
キャンプ場でよく見かける代表的な車種と言えば、トヨタ・ランドクルーザー(ランクル)。世界の過酷な環境下でも、人とモノを安全に届ける使命を帯びた大型SUVは、国内のアウトドア用途でも活躍が約束された一台です。キャンプサイトのギアの脇に停められていても、にじみ出るのはキャンプ車の王者の品格。すべてのギアの頂点にある車に憧れるキャンパーはまだまだ多くいるはずです。
そこで、東京・調布などでランクル専門店を展開する自動車ディーラー「フレックスドリーム」を取材。広報担当の谷崎秀隆さんに、ランクルの車種別の解説から、中古車選びの注意点、意外と知られていない弱点について聞きました。
60と80が不変の人気を誇るワケ
──ランドクルーザーで、ロクマル、ハチマルとよく聞きますが、そもそもなぜこの2モデルが今も人気なのでしょうか。
谷崎:それに答える前に、まずランクルの歴史から解説させてください。そもそも、ランクルが国内のアウトドア好きの間にその名をとどろかせるきっかけとなったのが、60系(ロクマル)。1980年〜89年に販売されたワゴン系のモデルです。
古い物(ヴィンテージ)がカッコいいという感覚はクルマもファッションと全く同じと感じます。ランクル専門店である私たちスタッフも60の魅力に取りつかれた者は多く、社内での所有率は高いモデルです。
当初はヘッドライトが丸形2灯でしたが、1987年のマイナーチェンジで角型4灯に変更されています。ガソリンとディーゼルのタイプが併売され、当時はディーゼルが主流でした。今は大気汚染に関する法律(NoxPm法)や、首都圏のディーゼルを規制する条例の影響で、都市部での所有は不可能ではないのですが、これをクリアするにはコストがかかるため、基本的にはガソリン車でないとほぼ入手できないのが現状です。
──人気とはいえ、最近では状態のいい60にお目にかかるのも、なかなか難しいようですね…。
谷崎:今走れるガソリン車はかなり貴重なモデルで、日本での「タマ数」はもうかなり限られています。人気の電子制御式(インジェクション)のエンジンで、ガソリン車、オートマとなると最終モデルしかありません。我々が車体番号で追いかけた限りでは、日本国内では1,300台ほどしか流通していなかったことが分かっています。
ちなみに、手前味噌で恐縮ですが、その半数以上はここ、都内のランクル専門店、フレックスドリーム調布店を通っています。もちろん、解体や海外への流出で1,300台すべてが国内に生き残っているわけではないことを考慮すると、かなりの割合を当社が取り扱ってきたと言えます。私どもも国内外で常にアンテナを張って入手に向け努力しています。
▲ランクル60VX「flexdreamカスタムデモカー 」の丸目、ナローボディ仕様
──皆があこがれる60ですが、規制をクリアしているモデルは、そもそも生産していた台数が少なかったという希少性も、今の人気を後押ししている理由なのですね。
谷崎:正直、専門店をやっているからこそ断言できるのですが、「何が何でも60がほしい」という人以外はおすすめしません。デザインや希少性だけで選んでしまうと、古い車≒旧車ですから、維持をしていくにはそれなりの苦労も伴います。
車に絶対的に必要な性能である「走る」「曲がる」「止まる」は問題ないのですが、パワーウインドウやエアコンといった電子系統の故障やオイル類の漏れなど、いくら丈夫な車種とはいえ、間違ってもメンテナンスフリーなんて言えません。四駆のコアな愛好者で、「それも所有する楽しみの一つ」とおっしゃる方がいるのも事実ですが…(笑)。
アウトドア好きでスタイルから入りたい場合には、維持の手間とコストはそれなりの覚悟が必要です。
ロクマルより現実的なランクルが「ハチマル」
──60の後の80も、すでに生産が終了して約20年はたつと思いますが、なお人気がありますね。
谷崎:バブル絶頂の1989年に登場し、1998年まで販売されたのが80系(ハチマル)です。60の無骨な顔から、80で柔和な顔になり、高級化が進みました。
さらに、足回りは、トラックと同じような「板バネ」から、一般的な乗用車と同じコイルスプリングとなり、乗り心地が大きく向上し、乗用車感覚で乗れるモデルとなっています。
▲フレックスドリームが提案するパッと見はレトロな丸目フェイスの「ロクマル」。中身はモデルチェンジ後の「ハチマル」のカスタムコンプリートカー。その名も「FD-classic86」
──新型ジムニーも丸目になっていたりと、今のアウトドア好きにとっては、シンプルでレトロな丸目のほうが人気がありますね。
谷崎:そうなんです。そこでフレックスドリームでは乗り心地も向上し、快適装備も充実している80をベースに、ルックスはレトロな丸目フェイスの60へとカスタムした「FD-classic86」をコンプリートカーとして製作し、販売しています。
故障などトラブルを回避する意味では80を選ぶ方がベターですが、60のレトロ感、クラシック感は譲れない!という方から絶大な人気をいただいております。余談ですが、FD-classic86にお乗りいただいて、「やっぱり本物の60に乗りたい!」との思いを強められ、60にお乗り換えになった方も、お一人お二人ではありません(笑)。
ちなみに、営業トークみたいになってしまいますが、80もどんどんタマ数が減ってきています。相場も上昇傾向にあります。もしご購入を検討されてるのあれば早い方が良いです!
全てに共通した悪路走破性
▲フレックスドリームのランクル100の丸目フェイスカスタム。ワンオフのサイドウッド仕様
──80以降のモデルはどうなのでしょうか。
谷崎:100は1998年〜2007年に販売されたモデル。高級車路線に舵を切ったモデルとなりますが、もちろん悪路走破性、堅牢性は健在。車高調整機能など電子制御装置も追加されました。フロントサスペンションが左右独立タイプとなりオンロードでの快適性が向上。パワフルなV8エンジンが搭載され、まさにプレミアムSUVと呼べるモデルへと進化しました。
▲フレックスドリームが正規輸入元となるオーストラリアの人気ブランド、ARBのパーツを多数装着したランクル200(現行モデル)。高級志向の強くなったモデルでも、カスタムスタイルによって印象は随分と変わる
──最近は各自動車メディアでも、新型モデルの噂がいろいろと出ていますね。
谷崎:ランクルはだいたい10年周期でフルモデルチェンジが行われます。現行モデルが200で、次の新モデルとして300が近々発売されていようとしています。
しかし、最近のモデルはオプションを加えたら1千万円を超えるようになってしまい、正直、高級車になってしまっていて、昔からの「ザ4WD」愛好家の方々は、少し寂しい気持ちでいるかもしれませんね。ただ、悪路走破性という点で、圧倒的なアドバンテージがあるのが、ランドクルーザーの歴史が始まってから一貫している部分です。
──そういえば、70系もよく聞く人気モデルなんですが、これは60の後継、80の先代の車種というわけではないのですよね…。
谷崎:1984年に発表されたヘビーデューティー系ランクルが70(ナナマル)。日本で2004年に販売が一旦終了した後にも、需要のある海外では国内向けモデルと異なる仕様で販売され続けました。
実は世界でランドクルーザーの名を知らしめたのは、60以前の40(ヨンマル)という存在です。1960年から24年にわたって製造され、圧倒的な悪路走破性に徹底した実用モデルこそ40であり、それを引き継いだのが70。国内では60、80、100とともに併売されていました。
その人気から誕生30周年にあたる2014年には期間限定で復活。状態のいいものは当時の新車価格以上で取引されています。ただ、国内にはその走破性を活かせるような場所はあまりないと思います(笑)。
「必ず帰ってこられるクルマ」を合言葉に、オーストラリアや南アフリカなどの世界の荒野で人と荷物の運搬に活躍しているモデルで、世界中にファンが多く存在します。
ランクルを買うときの注意点とは?
相場より安いのにはそれなりの理由が…
──人気の80は、20万km超で300万円台は当たり前にありますが、なかには200万円を切る車があったりしますよね。
谷崎:もちろんカスタムの内容によるところも大きいですが…。これは80に限らず、すべての中古車に言えることかもしれませんが、中古車の価格(相場)は業者向けのオートオークションでの取引価格が基準になります。そして「相場」よりもあきらかに安い車は、「たまたまお得」なのではなく「何かしらの理由」があるから安いのです。
その理由とは、いわゆる「修復歴」だったりするわけですが…。ただ、ランクルの場合、「修復歴」があったとしても即敬遠するのは早計です。
歴代ランクルシリーズが他車と決定的に違うのは車体の構造にあります。ランクルは頑丈なハシゴ状のフレームの上にボディが載っています。ボディの四つ角先端をぶつけて凹ませた程度なんて、走行上トラブルを招くようなダメージでは全くありません。とはいえ「修復歴の定義」に当てはまってしまう事は事実です。
その修復歴について「どの部分を、どのように修理しているか?」をキチンと説明できるスタッフがいる中古車ディーラーで選ぶことをお勧めします。
ランクルで走行距離は気にしない!
──やはり、時間がたっているモデルだと、走行距離も気になるところです。
谷崎:約30年前の80が年間1万kmを走っていたとして、単純計算、30万kmになっていますからね。ただ、旧モデルで距離が少ないということは、逆にいうと「あまり乗られずに放置されていた車」と言えます。
適度に乗られていない車は、保管状況にもよりますが、「サビ」との戦いになります。春夏秋冬、梅雨がある日本は決していい環境とは言えません。アメリカ西海岸で古い車が多く生き残っているのは気候が乾燥しているからです。
よく自動車の買取や販売で、普通の乗用車の走行距離は10万kmがひとつのめやすとされています。これはタイミングベルトの交換のめやすが一昔は10万km前後だったからにすぎません。ランドクルーザーが想定しているのは、クルマが故障したら乗っている人も命を落とす危険があるような荒野。それだけに頑丈に作られているのは言うまでもなく、世界中で最もタフな車種と言っても過言ではありません。距離はあまり気にする必要はないです。
走行距離が50万kmでも、それなりに愛着を持って乗っている人なら、意外とメンテナンスが行き届いて安心して購入できる場合もあります。極論ですが、走行距離が少なくても「ダメなクルマはダメ!」「多くても良い物は良い!」です。ただし、オーバーホールをしているかなど、よほどクルマに詳しい方でなければその見極めは難しいので、専門店で遠慮なく聞いてほしいと思います。
燃費の悪さ=堅牢性
──ランクルというと、どうしても燃費が良くないイメージがありますよね。
谷崎:80の実燃費は4~5キロ位(4500㏄ガソリン車の場合)。その後、モデルチェンジしても徐々に良くはなってきていますが、劇的に向上するものではありません。それにはランクルシリーズに求めてはいけない理由があるからです。
燃費を良くするのに効果的なのは、車体重量を軽くすることなのですが…。
先ほども少し触れましたが、ランクルのボディ構造は、ハシゴ状の骨格(ラダーフレーム)の上にボディが載っています。これはトラックや大型バスと同様の構造で、きわめて堅牢性の高い構造です。
一方、現在の一般車は、シャーシ(フレーム部)とボディが一体となった「モノコックボディ」が主流。軽量化という面ではメリットは大きいですが、堅牢性ではラダーフレーム車とは比べ物になりません。世界の悪路を走らなければならないランクルは「ラダーフレーム構造」がマストであり、また4WDの装備も加わることで、車体重量はどうしても重くなってしまうのです。
日本生まれのランクルですが、世界規模で見ればランクルの日本マーケットなんてほんの少し。海外需要が圧倒的なんです。アメリカをはじめ、オーストラリアや中東などの悪路が多い場所で求められるのは、頑丈さ。人と貨物を安全かつ確実に運び、間違いなく帰ってこれることです。これがランクルに課せられた使命。海外がランクルに求める性能は「燃費性能<堅牢性」ということなんです。
燃費より気にすべきこととは?
▲ランクルの魅力について語ってくれたフレックス・ドリームの谷崎さん
──最近は、ランクルの中古車価格がどんどん上がっているような気もします。
谷崎:むしろ、燃費よりも、見るべきはリセールバリューです!ランクルの価値は国内で流通する車の中でも特に下がりません。このまま下がる気配もまったくありません。世界的にガソリン車の新車が将来的に販売されないとありますが、そうした動きが、さらにランクルの価格を高めるとさえ、みられています。
ランドクルーザーの相場は、日本人の好き嫌いに左右されるわけではありません。前回のハイエースのときにも述べましたが、世界のマーケットでの需要が大きく影響しています。普通乗用車では走るのがままならない地域が世界には多くあり、その地域こそ、圧倒的な走破性を誇るランドクルーザーを必要としているのです。そして、それをほしがるお金持ちもたくさんいらっしゃるようで…。
それだけに、買っておいて「資産」になるクルマでもあります。モデルによっては「5年前に買ったときと変わらない金額で売れた」なんてこともよく聞くようになりました。
意外なランクルの弱点とは
ランクルはそれほど大きくない?
──ランクルというと、とても大きいイメージですが、普通に運転できるものなのでしょうか。
谷崎:まあ「弱点」と言うかどうかはわかりませんが、ランクルは、実は皆さんが思うほど大きくありません。
タイヤも大きく、背も高いので大きく見えるのですが、背面タイヤ無しのランクル80の長さは482cm。例えば、現行モデルのクラウンの長さは491cm。クラウンの方が長いくらいなんです。
ランクルは決して特別に大きな車ではありません。運転についても目線が高く、遠くまで見渡せるので、むしろすごく運転のしやすい車種ではないかと思っています。今まで販売してきたお客様からも「運転がしづらい、難しい」と言われたことはありません。
──車内は一見広そうには見えますが、この80のデモカーに乗ってみると、後部座席の隙間がけっこうぎりぎりですね。
谷崎:我々は流行のミニバンで慣れてしまったしまったせいかもしれませんが…。確かに80の後部座席は広いとは言い難いですね。大柄な方ですと長時間はなかなかの苦痛かも知れません。後部座席の快適性は、よりラグジュアリー志向が強まった100から随分改善されてはいます。
また荷室についても、それこそハイエースのような広大なスペースではなく、キャンプ道具の多い方は工夫が必要になるかと…。そんな時には、とっておきの提案もあるので、ご相談ください。
ペンドルトンの内装であたたかみを
▲フレックスドリームが手掛けるオリジナルの「ペンドルトン」コラボシートカバー。さまざまなカラー、柄をラインアップ
▲最近よくみられるようになったルーフトップテントをうまく活用したスタイル
──無骨なランドクルーザーですが、奥さんに受け入れられやすい、かわいい内装にする人も増えているそうですね。
谷崎:フレックスドリームは、米国の老舗ウール製品ブランド「ペンドルトン」から正規のライセンスを得て、シートカバーなどの内装を手掛けています。キャンプシーンで人気のペンドルトンのウール生地をクルマのインテリアに取り入れることで、だいぶ雰囲気に暖かみが出ますよね!アウトドアではもちろん、日常のドライブでも気分を盛り上げてくれる人気のアイテムです!
▲インテリアのカスタムも多種多様。使い方に合わせたスタイルに仕立てることも可能
最後の足りないギアこそ「ランクル」
国内アウトドア車の絶対的王者、トヨタ・ランドクルーザー。世界の過酷な道で養ってきたタフさは、旧モデルでこそ感じられる魅力です。昨今のアウトドア人気もあり、ギア類にこだわりを持つ方は多くいます。「実は『クルマ』こそアウトドアシーンではマストアイテム。一番大きなギアと言えないでしょうか?」。谷崎さんがこういう通りなのかもしれません。
撮影協力:
フレックス・ドリーム(ハイエース・ランクル専門店)▼ランクルの次に人気のキャンプ車「ハイエース」についてはこちら