アウトドアとファッションを融合させたブランド「アンドワンダー」デザイナーが語る、ソト遊びとものづくり
「道具」という視点でアウトドアシーンを黎明期から支える「A&F」会長にインタビュー!
2024.03.22ライフスタイル
キャンプに必要なギアはほとんど揃うショップ「A&Fカントリー」。その質の高さから上級者のリピーターも多く、初キャンプやフェス前なんかの駆け込み寺として訪れたという人もいるでしょう。そんな頼れるショップを運営する「A&F」を45年前に創業したのが赤津孝夫さん。今もフィールドへ出かけ「日曜日が足りません(笑)。先週は長野でシカを30頭ぐらい見ましたよ」と楽しげに話す赤津さんに、アウトドアにまつわるエトセトラを聞きました。
制作者
池上隆太
月刊男性ライフスタイル誌編集長を経て、フリーランス。川と滝と海が好き。キャンプで作る無水カレーがカレーのゴールだと信じています。忘れられないキャンプ場は野呂ロッジ、好きな飲み物はお酒、ベストジブリは「海がきこえる」、摂りたい栄養はスルフォラファン。きゅうりが苦手。
もっと見る
もくじ
A&F 会長 赤津孝夫さん
あかつ・たかお。1947年生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。1977年に「A&F」をスタート。2013年に出版部門A&FBOOKS設立。同年、A&F 本店をリニューアル。著書に『スポーツナイフ大研究』(講談社)、『アウトドア200の常識』(ソニーマガジン)、『アウトドア・サバイバル・テクニック』(地球丸)など。
山に囲まれた土地で、小さな頃から自然に親しむ
「昔は臨海学校とか林間学校とか必ずありましたよね。私のときも中学で槍ケ岳や乗鞍岳へ登ったりしていました。今はそういうのが減って自然に親しむ機会が少なくなっている分、お子さんを自然に親しませるファミリーキャンプが多いんじゃないでしょうか」
――アウトドアに目覚めたきっかけはなんだったのでしょうか?
赤津孝夫さん(以下「赤津」):生まれが長野の松本平で、360度山に囲まれたような場所なんですよ。父が釣りや狩猟とか、山歩きが好きで。その影響でいつのまにか山野に親しんでいたんです。父がどこか行くときは必ずついていきましたね。学校に行くよりも「一緒についてこい」と言う父でしたから。当たり前のように自然の中で遊んでいましたよ。キャンプもしていましたし、山も登っていました。高校時代なんてもう、ほとんど友達と登山ばかりしていましたね。
――写真の仕事をされていた時期もあったそうですね。
赤津:高校時代に登山しているとき、写真を撮るようになっていて。それをきっかけに写真で身を立てようと思ったんです。有名な人をたくさん輩出していた日芸(日本大学芸術学部)の写真学科に入りました。4年間、いろいろなアルバイトもして、ファッションカメラマンの吉田大朋さんの助手もやらせてもらいましてね。その後、フリーで仕事をしていたんです。
ただ、親友の報道写真家、一ノ瀬泰造がベトナムに行ったときに「地雷を踏んだらサヨウナラ」って僕に手紙くれた後、消息不明になって。実際には処刑されてしまったんです。そんな悲しいことがあってから、なんとなく写真への希望を失うといいますか、目指すものや勢いがなくなってしまって…写真の仕事からは離れました。
「A&F」を立ち上げてから45年を経て
「今もなおボイジャーは飛んでいて、地球外生命体に出会ったときのために、こんなレコードを積んでいるんですよ。もちろん、これは複製ですけどね」
――その後、A&Fを創業するに至った経緯を教えてください。
赤津:写真から離れた後、ダイビングをしていたんです。海がない土地で生まれたので憧れが強かったんでしょうね。山の自然は知っていたけど、海の中には知らなかった自然があるなと思って、夢中になりました。そのとき出入りしてたショップが道具を輸入して売っていたんですよ。ダイビング用品だけでなく、狩猟用の鉄砲なんかまで。父が狩猟をしていたこともあり、どちらも興味津々で通っているうちに、道具を輸入するということに面白さを感じて、起業しました。A&Fというのは、僕の「A」ともう1人の藤田という相棒の「F」。29歳のときです。
――1977年の4月が創業ですね。
赤津:そうですね。2023年4月までが45周年イヤーです。
ちなみに1977年は無人宇宙探査機のボイジャー1号が打ち上げられた年なんですよ。今も電波を飛ばし続けていて、人間が飛ばした飛翔物で一番遠くにいるそうです。いろいろな言語の「こんにちは」や音楽を収録したレコード積んでいて。地球人以外の人に発見されたときに聞いてもらいたいってことなんでしょうね。宇宙は究極の自然ですし、原点はやっぱりこの「宇宙船地球号」だと思いますから、アウトドアで過ごしていれば、やはり宇宙に興味を持ってしまいますよね。
「バックパッキング」から始まったA&F
スティーブ・ジョブズのスピーチで有名な「Stay hungry Stay foolish」という言葉も『ホールアース エピローグ』(1974年発行)に載っていたもの。「彼も同じバックパッキングをして、自然なる地球を大切にしなくちゃいけないっていう世代なんですよ」
――創業当時からアウトドアをテーマにしていたんでしょうか?
赤津:アウトドアの中でも「バックパッキング」ですね。キャンプだけでなく、自然に親しむこと自体を目指しているので、ライフスタイル的なものも含め、アウトドア全般の商品を仕入れていました。ちょうど日本で「バックパッキング」が紹介され始めたときだったんですよ。雑誌でいうと『Made in USA』とか『POPEYE』とか。当時の編集者の芦沢一洋さんと仲良くさせていただいて、いろいろな情報をやり取りしていくうちに、これから日本でアウトドアが盛り上がっていくだろうと考えて、会社を作ったんです。
――「バックパッキング」とは、どんなことなのでしょうか?
赤津:自然と親しむための1つのスタイルですが、『ホールアース カタログ』という本が大きな影響を与えました。この『ホールアース エピローグ』はその最終号ですね。表紙は月から地球を見ている写真。1968年にアポロ11号で行ったときのものでしょう。これを見た若者たちが地球って真ん丸で、きれいだと感じたと思うんです。それで「もっと地球を大切にしなくちゃいけない」という気持ちになる。そんな人たちが、大量生産や大量消費することを否定して、自給自足するような生活をしようとするのが「バックパッキング」だったんですよ。ですから、生活に必要なあらゆる知識がこの本の中に入っています。
今、アメリカのアウトドアブランドはたくさんありますが、ザ・ノース・フェイスは『ホールアース カタログ』初号の発行と同時期に創業していますし、パタゴニアもその数年後。私たちが扱っているミステリーランチの創業者が初めてアウトドアショップを開いたのも1972年。みんなそのときの背景として「バックパッキング」があるんですよね。
人を守るために、ギアのセレクトには責任がある
「今、私たちが扱っている中で、バックナイフというブランドがあるんですが、それは刃が壊れたりするとちゃんと直してくれますし、交換もしてくれます」
「これは100年前のものですよ」と出してくれたのは、A&Fで扱っているロッジのスキレット。年代物ながら今も普通に使えるもので、丈夫に作られていることが伝わってきます。「こういうのがやっぱりアウトドア道具の本質だと思うんですよね」
――アウトドアシーンの今と昔で違いは感じますか?
赤津:昔は山に入るというとストイックな人が多かったんですよ。登山靴店でごつい靴を作って、身構えていくような。でも今はもうスニーカーでも行きますよね。トレイルランニングする人もいるし、マウンテンバイクで走る人もいます。電動自転車もありますから、自分の体力がなくても遊べるんですよね。とらわれていたことから解放されたという感じは受けます。着るものも装備もすごく自由になりましたよね。
ただ、自然はひとたび牙をむくと非常に厳しいものですから、それは絶対に意識しておくべきだと思います。昔は冬にキャンプする人はほとんどいなかったんですが、今は初心者でもストーブを持って簡単に行けるようになりましたよね。それでもスキーに行って亡くなってしまう人もいるわけで、自然の中で過ごす厳しい一面については、忘れてはいけないことだと思いますね。
――自然の厳しさに備えるためにも、ギアは大事ですよね。
赤津:中途半端な道具は人を危険にさらしますから。ですから、安いとか高いとかではなく、「道具は絶対に信頼のおけるものを扱う」という責任があると考えています。A&Fで扱っているものの大体は、私自身が使ってみて、大丈夫だと思った物ですよ。
道具のことで言うと、アメリカだと「ライフタイムギャランティ」という考え方があるんですよ。簡単に言うと「生涯保証」ですね。たとえばナイフなんかは使っていくうちに消耗しますけど、荒っぽく使ってもいいように、もともと頑丈に作ってありますし、修理したり交換したり、ちゃんと保証をしてくれるものもありますよ。
そんなふうに、売りっぱなしにしないというのが大事なことだと思うんです。愛着があるものって、長く使っていると、新しくすることに抵抗がありますよね。手になじんでいたり、自分の体の一部になっているような気がして。だから傷んでも直して、ずっと使いたいのが本音でしょう。アメリカでは、そうやって大切に使ってきた道具を、自分の子どもに受け継いでいくのが当たり前になっていますよね。
日本という類まれな自然豊かな国にいるからこそ
「印象深い体験はいろいろありますが、キャンプしながらカリフォルニアのジョン・ミューア・トレイルを歩いているときに、クマに襲われたことがパッと思い浮かびますね」
――アウトドアシーンがこれからどうなっていってほしいと思いますか?
赤津:自然って人間にとっては絶対必要なものだと思うんです。癒やされたり、インスピレーションを受けたり。自然に接して学んで…得ることがたくさんあると思いますよ。そうやって、自然に親しんで自然が好きになると、それは大事にするでしょうし、また行こうと思えば、その気持ちが続いていくはずです。私たちがやっていることが、そういうきっかけになればいいなと思っています。
キャンプ場でキャンプをするのも、いいトレーニングですよね。次のステップとして、キャンプを手段としたアクティビティにもチャレンジしていってほしいと思います。日本は海に囲まれていて、川も多いから釣りもできますし、植物も豊かです。鳥に興味を持ったらバードウォッチングも楽しいかもしれません。南にサンゴ礁があって、北には流氷が流れてくる。そういう場所って世界中に日本しかないと思うんですよ。
アラスカを外せば、南北の長さはアメリカとあまり変わらないんです。なんなら海岸線はアメリカより長いそうですから。国土は狭くても、自然が多岐にわたっているんですよね。都会から1時間も行けばスキー場なんて国、なかなかないですよ。すごく恵まれている環境なので、たくさんの人が、大いに自然と親しんでもらいたいですね。
撮影/薮内 努(TAKIBI)
これだから、そと遊びはやめられない。
「アウトドア(キャンプ)」という、遊び領域で長年走り続ける注目の人物に「なぜそと遊びが好きか」を問いかけるインタビュー連載。