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新富士バーナー山本社長

「SOTO」でキャンプシーンを席巻する、新富士バーナー社長が語るアウトドア。

バーナーといえば、まず思いつくのが「SOTO」。アウトドアブランドの中でも燃焼器具に特化したブランドで、初心者も上級者も、とりあえず例のシングルバーナーを持っている人は多いでしょう。今回はそんな「SOTO」ブランドを世に送り出す新富士バーナーの2代目代表取締役社長、山本晃さんにインタビュー。ギアに興味を持ったことからフィールドに出かけ始めたという山本さん。これまで歩んできた道のりに迫ります。

新富士バーナー 代表取締役 社長 山本 晃さん

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1978年に山本始が創業し、工業用バーナーのメーカーとして名高い、新富士バーナーの2代目代表取締役 社長。2007年に社長職を引き継ぎ、現在に至る。1992年に「SOTO」ブランドを立ち上げ、アウトドアギア業界に参入。現在ではアウトドアバーナーの売上が総売上の約6割を占めるように。登山や釣りが趣味で、最近はゴルフも楽しんでいるという。

ギアに興味を持ったことから、いつのまにかアウトドアフィールドに。

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ギアへの興味からアウトドアシーンへ入っていった山本さん。少年時代よりも、子どもや孫たちと出かける今の方がフィールドへ向かう機会は多い
――小さい頃からキャンプやアウトドアは身近な存在だったのでしょうか? 山本 晃さん(以下「山本」):父親に連れられて夏は釣りに行ったり、冬はスキーに行ったりということはよくしていました。少年時代のアウトドアらしい体験で言うと、本社のある愛知御津(愛知県豊川市)のあたりは海に面しているので、近くの無人島に水と飯ごうと米と缶詰だけ持って、釣りをしにいったことがワクワクした思い出として心に残っていますね。 ――テント泊などのキャンプを経験したのはその頃ですか? 山本:いえ、テント泊は中学校に入ったぐらいでしょうか。特にアウトドアにすごく興味があったわけではないんですが、テントに泊まりたいという気持ちはとても強くて。小遣いをためて小さなテントを買い、家の庭に張ったりしていましたよ。キャンプをしたくても、交通手段がなかったり、自転車なんかで行ける距離のキャンプ場もなかったので…。バスを乗り継いで比較的近くにある湖のキャンプ場に、友人を誘って行ったのが当時唯一の経験ですかね。 ーー年齢を重ねてからのほうがフィールドに出かける機会が増えているのしょうか? 山本:そうですね。一番よく行ったのは30代の頃、子どもたちを連れてオートキャンプ場へ。最近は、山に登ってテント泊するみたいな形ですね。そんなに高い山に登るわけではなく、孫を連れて上高地から徳沢まで行ったり、ちょっと足を伸ばしても涸沢ぐらいのイメージです。それでも、コロナ禍に入ってからはだいぶ減りましたよ。もともとアウトドアやキャンプが好きというところから始まったのではなくて、ギアが好きだったんですよね。仕事柄ということもあるんでしょうけど、世界中のいろいろな燃焼器具を買い求めて、燃焼構造に興味を持って。その中に、コールマンのガソリンバーナーがあったり、ヨーロッパだと「ホエーブス」とか「プリムス」とか。そういったものを使うことがおもしろくて、気がついたらアウトドアに引き込まれていたという。

日本に合わせた燃焼器具作りを目指して「SOTO」をスタート

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「SOTO」ブランドの立ち上げ当初から、日本のインフラに合うカセットボンベを燃料にした燃焼器具を発表し続けています。現在では、当時よりもかなりミニマルなデザインへと進化
――ギアへの興味から、「SOTO」ブランドの立ち上げにつながるわけですね。 山本:海外の燃焼器具を使っていくうちに、それに対するリスペクトも高まっていくのですが、使うほどに日本になじまないところも見えてきて。そもそも燃料が手に入りにくいだとか。海外のバーナーで使うボンベは、とても高額だったりするんですよね。また、日本は高温多湿。誰もがしょっちゅうキャンプに行くわけではないので、しまっておくと、次に行くときには錆びていたり。 そんな経験から、自分たちだったら日本に合わせた製品を作れるのでは、というところがきっかけだったと思います。最初に作った調理用バーナーは、カセットボンベを使用するものにしたり、錆びにくいステンレスを使ったり。そんなところからSOTOは始まりました。 ――ご家族ともフィールドに出かけるとのことですが、そのきっかけは何でしたか? 山本:はっきりとした理由はありませんが…、会社で研究用にいろいろ燃焼器具を試していると、やっぱりフィールドで使いたくなるんですよね。そうするうちに、いつのまにか家族を連れて行っていました(笑)。ただ、私たちが今、掲げているテーマの1つに「火育」というのがあります。その一環として、少しでも安全に火を覚えてもらい、火の怖さも知ってもらおうっていう試みで、子どもたちを連れて行っているというのもありますね。
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「いわゆる折り畳み式のアルミ製のホットサンドメーカーです。うちの孫は、薄焼きにした卵の中にチキンライスを入れて、これだけでオムライスを作ったりしていますね」
――山に行かれたときは、どんな過ごし方をしていますかか? 山本:何もせずにのんびりしていたり、本を読んでいたり、そのくらいですよ。食事は孫が当番。小学校2年生ぐらいからシングルバーナーとちょっとしたコッヘル、SOTOのミニマルホットサンドメーカーなんかを使って、いろいろな料理を作ってくれます。 このミニマルホットサンドメーカーはとても便利で、フライパンとしても使える万能調理器なんですよ。コンビニで買ってきたおにぎりを挟んで焼きおにぎりにしたり、肉まんやファーストフードのハンバーガーを挟んで焼いてもおいしい。それ以外にも、ギョーザやステーキを焼いても最高ですよ。お湯を沸かす以外はこれ1つで大体できてしまいます。私自身もよく使う製品ですね。 ーー最近では、テントを発売したことでかなり話題になりましたね。 山本:2023年の5月21日ですね。「HORUS(ホルス)」という名前です。自分の原体験からか、中学生の頃にテントを買ったことを何十年かぶりに思い出しまして。やっぱりテントへの思いがあったんでしょうね。ただ、燃焼器具に特化したSOTOというブランドがテントを発売する意義がどこにあるか、というところで当初、製作を悩みました。そこで、テントの中でSOTOの燃焼器具を使うことができるものを目指したわけです。 燃焼器具をテント内で使用することは、火災や一酸化炭素中毒の危険があるため、行ってはいけない行為ですが、「ホルス」は、上幕を開けた状態なら「テント内で燃焼器具の使用ができる」と、取扱説明書にはっきり明記できるものに仕上げました。

加熱するだけでなく、「火」自体が主役になる製品開発にも力を入れたい

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――テントのように、燃焼器具以外でこれから製作を考えているものはありますか? 山本:実は、東京2020オリンピックで使用した聖火リレートーチの燃焼機構の製造を私たちが担当したんです。聖火は風が吹いても雨が降っても消えてはならないので、大変苦労したのですが、SOTOの主力になっているバーナーやランタンの技術が生かされています。私たちは火を加熱するための道具として作ってきたのですが、この聖火というのは、火自体が主役。火がそこに灯り続けてることが大切なものです。今までそういったものは手がけたことがなかったので、非常に新鮮でした。 それを踏まえて、新しいものを作るとすれば、火自体が主役なものにも挑戦していきたいです。火はたくさんの付加価値を持っています。熱や温もり、明かり、煙も薫製なんかで生かせます。あと「癒やし」というのも最近増えてきました。照明としてはそんなに機能はしないけれども、火の揺らぎで「癒やし」を与えられるという。私たちの製品では「Hinoto(ひのと)」というものがありますが、そういった分野ももっと伸ばしていければと思っています。

アウトドアが文化として、日本に浸透する時代に

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「以前は、子どもたち自身がバーナーでお湯を沸かし、そこにろうを湯煎で溶かしてオリジナルキャンドルを作る、なんてイベントもよく催していました。今年からはそんなイベントも“火育”の1つとして、またできたら、と思っています」
――現在の山本さんが自然の中で遊ぶ醍醐味はなんでしょうか? 山本:子どもたちのさまざまな初体験に立ち会うことができることでしょうか。そういったときは本当に子どもたちの目が輝くんですよ。また自然の脅威を知ることができることも。4年前でしたかね。ちょうどコロナ禍になる前年に、当時小学校2年生の孫と徳沢に泊まり、次の日は涸沢まで進む予定だったのですが、台風が来てしまいまして。慌てて下山しましたけど、かなりの雨と風で大変でした。 それまで快晴で芝生のきれいな徳沢のキャンプ地で快適に過ごしていたのが、急に暗雲立ち込めて、牙をむくという。雷がなかったのでまだよかったですが、子どもを見ていると、やっぱり恐怖も味わっているんだなということがわかりました。 私たち大人だとそういう経験はしたことあって、対処の仕方もありますが、子どもとしては初めての経験。そういう学びの場に立ち会えることが醍醐味と言えるかもしれませんね。そうやってこの子たちが一人前のアウトドアズマンに育っていく様子を見れたらうれしいと思います。 ――ここ数年のアウトドアブームについて感じていることを教えてください。 山本:コロナを境に急にブームとなったと言われますが、私たちにその感覚はないんです。それよりも少し前からアウトドアは注目を浴びていた。2005年ぐらいの日本国内のシングルバーナーの登録実績は20万台ぐらいだったのですが、2019年には30万台ぐらいまで上がってきているんですよね。つまり、そこでもうすでにアウトドアシーンの盛り上がりは始まっていたわけです。そしてコロナ禍を経て、去年75万台ぐらいまでに上昇。コロナ禍で遊びの選択肢がなくなっていく中、アウトドア人口が増えたことは間違いないと思いますが、その前からも、実際に伸びてきていることを考えると、すでにアウトドアの裾野が広がっていたと考えられます。 昔あったようなブームというよりも、皆さんが生活のスタイルの中にアウトドアを取り込むようになったというところがこれまでと違うところでしょうか。今まではアウトドアで異次元の体験をすることが楽しみだったと思うのですが、「おうちキャンプ」などの新しいスタイルが出てきていますよね。身近に楽しめるようになったということは、文化としてアウトドアを捉えられるところまで来ているのかなと期待しています。

フィールドへ出たくなる「使いたい」製品を目指して。

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新富士バーナー本社近くにある工場では、燃焼器具をすべて火をつけて検査。どこかでガスが漏れていないかなど繊細な検査の上で出荷されています。商品でたまに燃焼部分が黒くなっていることもありますが、それはきちんと検査されている証。ベテランになると、燃焼している音でどの商品かわかる人もいるのだとか
ーー今後目指す「ものづくり」について教えてください。 山本:私たちはアウトドアのすべてのものを作っているわけではなくて、燃焼器具を中心としたほんの一部だけのものしか作っていません。燃焼器具以外のアウトドアギアというのは未知のものが多いですが、私自身は「おもしろいもの」「使いたくなるもの」という視点でもの選びをしています。 それと同じように、SOTOの製品に「使いたくなる」気持ちを見出していただき、少しでもフィールドに出たくなるような、そんなものづくりをしていかなければならないと思っています。

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