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新潟県が聖地とされる理由とは?実力派メーカーに見る、愛される逸品をうむための「譲れない想い」

「新潟」と聞いて思い浮かぶのは、燕三条の金物や刃物、魚沼の米や長岡の鉄などの「つくる」もの。気が付けば、お気に入りギアが新潟のものだった、なんていうキャンパーも多いはずです。そうやって自然と手にしているわりに、「なぜすごいのか」を知らないかもしれません。そこで今回は、新潟でものづくりに携わるメーカーの「5人のキーパーソン」をフィーチャー。イイ理由がわかれば、あの定番品がもっと味わい深く感じるはずです。

数百年も遡る、新潟の「ものづくり」の歴史

新潟の街並み

出典:PIXTA

多くのアウトドアギアメーカーも拠点に置く「新潟県」。 特に金属加工で知られる燕三条の「ものづくり」は、江戸時代初期に和釘をつくることから始まったともされる、長い歴史をもつことも特徴です。農作物の収穫ができないときに副業的に携わっていたなんていう話も。その和釘や金属製品を全国に売りに出かけたのが三条の商人とも言われていて、そこから全国区になっていったのだとか。 このように、つくる人も売る人もいたというのが「ものづくり」が発展していった大きな理由なのかもしれません。
酒蔵
また、新発田は江戸時代には十万石の米どころとして栄えた城下町で、恵まれた風土を利用し、しょうゆや味噌、酒づくりも盛んになったといわれています。 新潟の「ものづくり」のキーワードはやはり、歴史・人・土地柄。そのあたりの事情に精通する地元メーカーの話から、ものづくりの地・新潟を紐解いていきましょう。

地元5メーカーのキーパーソンが語る、この街でつくる「思い」と「こだわり」

今回は新潟に拠点を置く「BABACHO」「山人」「菊水」「ユニロイ」「ユニフレーム」のキーパーソンに集まってもらい、新潟でものづくりを続ける理由と各社の思いを聞いてみました。
新潟5メーカーのキーパーソン
左から 【BABACHO】馬場眞樹さん/馬場長金物 代表取締役社長 1890年創業。2020年に自社ブランド「BABACHO」を 立ち上げる。「やっぱりこれいいね」と思わず声に出るような道具が人気を博す。 【山人】涌井 敏さん/ワクイ 代表取締役社長 園芸や防災用品など幅広い金物を扱い、自社ブランド「山人」も立ち上げる。地域と職人の思いを大切にしながら商品企画・製作を続ける。 【菊水】髙澤大介さん/菊水酒造 代表取締役社長 1881年創業。2001年に5代目蔵元として現職に就任。業界の常識にとらわれない視点でいち早くコトづくりを追求し、日本酒をおもしろくする価値を創造する。 【ユニロイ】田口圭一さん/三条特殊鋳工所 取締役 技術・企画部 部長 1997年入社。鋳物の生産技術を担当。2020年より広報と企画部も兼任。鋳造技士、鋳造1級技能士の資格をもつ鋳物のスペシャリスト。 【ユニフレーム】田瀬明彦さん/新越ワークス ユニフレーム事業部 事業部長 1995年に入社し、2007年から事業部長代理を経て、2014年に現職。オリジナリティあふれる製品を世に送り続けるアイデアマン。

新潟で「ものづくり」を始めたきっかけ

新潟5メーカーのキーパーソン
BABACHO・馬場(以下 馬場):焚き火で使っていた鉈が割るにも削るにもうまくいかず。他にいいものがないかと探したのですが、見つからなくて。「だったら自分でつくろう」と思い自社ブランド(BABACHO)を始めました。 山人・涌井(以下 涌井):私はもともと金物卸の会社で仕入れてものを売る仕事ですが、たくさんの企業さんがアウトドアブームを受けてブランドを立ち上げている中、金物卸でも自社ブランドをもつべきだと思いまして。あと、私のいとこが包丁鍛冶をしていることもあって、ものをつくる方々のすごい技術や地場のいいものもっと広めたいという思いもあります。 菊水・髙澤(以下 髙澤):私の場合は5代目で、生まれたときにはすでに酒をつくっていました。初代は15歳で酒づくりを始めて、集落を歩きながら、どんなお酒を飲みたいかと聞いてまわったそうです。その「お客様の声を聴こう」という姿勢は今も受け継がれています。 ユニロイ・田口(以下 田口):私は県外出身なんです。大学が新潟でそのまま就職しました。入社してからは鋳物の技術を担当しています。キャンプブームがやってきて、自社ブランドをつくろうとなったときに、私自身キャンプ好きでしたので「ぜひ企画からやらせてください」と。 ユニフレーム・田瀬(以下 田瀬):子どものころからキャンプしていたこともあって、この世界に。新潟弁で「はつめ」という言葉があって、意味はアイデアマンっていうんですかね。小さいときからそんなふうに言われていたので、ものづくりと相性がいいなとは思っています。

なぜ、新潟は「ものづくり」の地と呼ばれるのか

ふなぐち
酒蔵を訪れた人の「おいしい」という言葉から開発された生原酒「菊水ふなぐち」。「2022年に、発売50周年を迎えました。と言うと、大体拍手が起こります(笑)」(髙澤)
田瀬:僕の印象では「燕三条」は手先の器用な人が多くて、今も昔も職人さんの町というか。 涌井:職人さんもですけど、企業の数も人口の割にはかなり多いと思いますね。 馬場:つくったものを売りに行く卸さんも多くて、売り先での「こういうもの、つくれない?」という話を持ち帰り、またつくってもらう。その繰り返しで醸成されたのではないでしょうか。

「ものづくり」への思いとこだわり

新潟5社対談
馬場:私は卸売りなので、自分たちの手でつくるわけではなく、企画を地場の刃物メーカーさんに託します。木を切るだけの鉈をキャンプの薪割りに使えるようにするとか、新たなものに既存の技術を使う提案をすることで、地域や鍛冶職人を潤したいというこだわりがあります。 涌井:今のお話に少しかぶりますが、優れた技術でつくったいいものが、ネットなどで安売りをされることがあるじゃないですか。でもいいものは適正価格であるべきで、再びいいものをつくってもらうためには、自分たちだけでなく、仕入れ元さんにも利益がないと。技術やいいものを継承していくためにも、自社だけでなく、周りと一緒に上がっていくべきだと思います。 髙澤:新潟の蔵元はみんな仲が良いので、県全体で盛り上げていこうという意識は高いと思いますよ。他県だと工業試験場の中に醸造部門があるんですが、新潟県は醸造だけで独立した試験場があるんです。そのおかげで、酒の技術は格段に上がりました。 髙澤:だからみんなレベルが高くなり、品質は優劣つけ難くなっています。ものづくりのこだわりや質の高さは、もうみんな持っているんですが、“コトづくり”が追いついていないですね。酒をつくることで完結していて、その先の世界が表現されていないんです。だから私たちは、酒を通して“どう暮らしをおもしろくするか”を考えています。その意味でいうと、キャンプとの掛け合わせはぴったりな気がしますね。
新潟5社対談
田口:私たちも鉄の鋳物をずっとつくってきたメーカーで、たしかにいいものはつくれていると思うんです。でも、それだけだと道具でしかないですから。それを使って料理やキャンプをして初めて、みんなが笑顔になれるわけで。私たちは“薄くて軽い鉄の鋳物”をつくる技術を持っていまして、「重いから」という理由で鋳物のキャンプ用品を避けていた人に、鋳物だからこそできる料理やおいしさの体験を提案していきたいです。 田瀬:うちは38年、アウトドア用品をつくっていますが、いろいろな商品をつくり、失敗もしてきました。自己満足の商品で売れないものをたくさん見てきたんですよ。売れるものといいものは違うこともありますから田瀬:それを踏まえて、ここ数年は“品質・価格・供給”という3本柱でやっています。職人さんの話もありましたが、彼らができる数と私たちが求める数が数年前から逆転してしまいまして、できる限り工業化しています。協力工場さんは130社ほどで、部品点数の少ないものはコピーされやすいのであまりつくりません。オリジナリティで負けないように、そういうところを工夫しています。

新潟の「ものづくり」今後の課題、そして展望

ソロキャスト16
女性ソロキャンパーに向けてつくった、ユニロイ・SSCamp!の「ソロキャスト16」。鋳物らしい武骨さは残しつつ、丸みのある「かわいい」フォルム。「持ってみてもそんなに重いって思わないような重量に仕上げました」(田口)
田瀬:今はできるだけ燕三条地域から部品を買うようにしていますが、新潟全体がものづくりをしているので、情報収集して県全体から買いたいとは思っています。 馬場:三条市は鍛冶業者さんが多く、いいものがつくれますが、量ができないところをなんとかしたいです。ユニフレームさんのように工業化できたらいいなと。 田口:私はメーカーなので、自社商品を始めたときに「どうやって売るの?」という壁があって。まず、知ってもらわないといけない。そこが一番、難しいです。 涌井:ほんと、そうですよね。有名じゃないけどいい商品をもつ企業さんは新潟に山ほどあって。でも、情報発信がうまくないとお客様に届かない。なので、今回のようにいろんな所に新潟のいいものを発信している方たちとつながって、常にうまく発信できる体制をつくれたらなと思います。 髙澤:私たちもお客様の開発が課題ですね。今、若い人はアルコール飲料を飲まなくなってきています。「うちの酒はうまいから飲めば分かる」と言っても、そもそも飲まないわけですから、入り口を整えて、入ってきやすくしないと。私たちがつくったものがあれば、少し世界が変わるよということを、きちんと伝わるようにしないといけない。自分たちで新しいお客様を“つくる”ことも、ジャンルを問わず、大切なことですよね。

「技」と「思い」で磨きあげる、注目の逸品

新潟の「ものづくり」を語り尽くした5社が手がける、自慢の製品がこちら。なぜ、つくったのか、どうつくったのか、それぞれのストーリーから、こだわりや熱意を感じてみてください。

【ユニロイ】SSCamp! ソロキャスト16 5点フルセット

ソロキャスト16
スキレット・グリル・プレート・和鍋・ハンドルの5点で合計2.4kgという、薄くて軽い鋳物をつくる技術をもつユニロイならではのキャンプ飯ギア。 開発に携わった田口さんは「鋳物というと武骨なイメージがありますが、この商品は女性社員にも開発に参加してもらい、かわいい感じを目指しました。サイズも女性1人が一晩かけてちょっとずつ食べるのにちょうどいい量になっているんですよ」と語ります。 丸みを帯びたシンプルなデザインは、女性キャンパーにもぴったり。もちろん、黒くて鋳物らしい雰囲気もあるので、男性だって手に取りやすそうです。最近では家庭用炊飯ジャーでも鋳物が使われることがあり、おいしいお米を炊くなら鋳物という流れもあります。同セットに含まれる和鍋も、そんなシーンを汲んでつくられたもの。キャンプ場に持っていけば、ワンランク上のおいしいキャンプ飯が楽しめるはずです。
ソロキャスト16
セットのスキレット・グリル・プレートに共用できる取り外し式ハンドルも付属。横からスライドしてセットするので、器やプレート、鍋を傾けても外れたりすることがないので安心です。
【基本情報】 サイズ:[スキレット]16.8×20.5×4.9(h)cm(底面径11.8cm) [グリル]16.8×20.5×3.4(h)cm(底面径12.6cm) [プレート]16.8×20.5×1.3(h)cm(底面径15.8cm) [和鍋]20.5×17.4×9.1(h)cm(底面径10cm) [ハンドル]13.5×4.5cm(持ち手幅2.0cm) 重さ:[スキレット]0.6kg [グリル]0.56kg [プレート]0.46kg [和鍋]0.68kg [ハンドル]0.1kg 価格:30,800円(税込)

ソロのキャンプ飯がもっとおいしく!

【ユニフレーム】ツインバーナー US-1900

ツインバーナー
「2008年から4〜5回の改良を加えています」と事業部長の田瀬さんが話すように、「バーナーといえばこれ」と言うキャンパーも多いはずの定番モデル。 スタイリッシュなアルミボディで3.9kgという軽さを実現し、火力は専用のプレミアムガスを使うことで最大3,900kcal/h。微妙な火力調整も可能でトロ火での調理も可能です。サイドにも風防をあしらうことで、防風性能もしっかり完備。これなら風で火が流れてしまって、調理の効率が悪くなるようなことも少なくなるはずです。 ファミリーキャンプやグルキャンではもちろん、キャンプ飯にこだわるソロキャンパーにとっても、つくれる料理の幅がグッと広がるお役立ちギア。フタは取り外し可能なので、鉄板をおいて大人数で囲みながらバーベキュー的な楽しみ方も可能です。
ツインバーナー
コンロの熱をガス缶に伝えてガスの気化を促進する、銅製のパワーブースターも装備。寒い日などでも出力ダウンを防止してくれるのがうれしいところです。
【基本情報】 使用サイズ:約54×32.5×29cm(ゴトク面) 収納サイズ:約54×32.5×11.5cm 重さ:約3.9kg 価格:24,750円(税込)

グループキャンプの必須ギア!

【BABACHO】多喜火鉈 110mm ウォルナット

BABACHO
1890年創業の金物卸問屋「馬場長金物」がオリジナルブランド「BABACHO」を始めたのは馬場社長の体験から。「インドア派の妻と共通の趣味を持ちたくて、外へ連れ出しているうちに焚き火もしようと。ただ、納得がいく薪をつくれる鉈が見つからなくて。ないなら自分でつくろうと」。 三条市という土地柄もあり、地元の刃物メーカーに相談したところ、「できますよ」という快い返事をいただいたそうです。 刃渡りは約110mmで一見、短いようにも感じますが、実際に使ってみると割るにしても、削るにしても、ちょうどよい長さ。これ1本で薪の太さを調整したり、フェザースティックをつくったりするのもなんのその。小まわりが利いて重さも240g程度と、女性キャンパーにも扱いやすいのも魅力の一つ。べルトに付けられる革ケースが付属するのも気が利いているポイントです。
BABACHO
刃幅は26mmで板厚は5mm。フルタング構造なので、力を込めて薪を割ったり長く使っていても、刀身が折れる心配はありません。
【基本情報】 サイズ:[全長]約245mm [刃渡り]約110mm 重さ:[鉈]約240g [革ケース]約60g 価格:9,350円(税込)

焚き火シーンで活躍する万能な相棒!

【山人】槌目両刃鉈

山人
「武骨でカッコイイがコンセプト」という涌井社長の言葉どおり、凹凸のある「槌目」と全体の黒っぽさで「ザ・男の鉈」といった趣の存在感ある1本。 刃は職人の手仕事によって丹念に仕上げられていて、表面のニュアンスを出す打ち込み模様に、同じものは2つとありません。その1点モノ感に愛着が湧いて、丁寧にメンテナンスしながら長く使っている人も多いはず。握りやすさを考えて太く刻んだハンドルのグリップも豪快さを後押しして、なんとも男ゴコロをくすぐります。 重厚感漂う刃は、硬度が高くて切れ味が良い昔ながらの炭素鋼を使用。厚みは9mmもあり、765gというしっかりとした重さと相まって、ゆるく落とすだけである程度薪が割れるほどです。自重で薪が割りやすくなるなら、力の弱い女性にも便利かもしれません。
山人
飛び出したり、落下したりすることを防ぐスナップボタンを備えた本革ケース付き。リベットが効いていて、さらに無骨さがアップ。ベルトに通して運べるのも便利なところです。
【基本情報】 サイズ:[全長]約285mm [刃渡り]約135mm 重さ:約765g 価格:14,300円(税込)

ワイルドさあふれるキャンプの相棒!

【菊水】生原酒「菊水ふなぐちスマートパウチ」1500ml

ふなぐち
生原酒「菊水ふなぐち」は、菊水酒造が日本で初めてアルミ缶入り生原酒として発売した、搾りたての「ほとばしる」うまさが味わえる酒。 「蔵にやってきた見学者が搾ったばかりの酒のうまさに感動したそうです。その見学者が当時の蔵元にこういうお酒がまた飲みたいと伝えたことで、開発に至りました」と5代目蔵元の髙澤さん。搾りたての生の酒は腐敗しやすく、当時の技術では生産販売が難しかったそうですが、粘り強く試行錯誤を重ねることで、1972年11月についに完成。アルミ缶入りの200mlが2022年には発売50周年を迎えています。 中でも、注ぎ口がついた1500mlスマートパウチはグルキャンにぴったり。キャンプ場でこれを囲み、みんなでワイワイ注いでいる様子が想像できますよね。生ならではの酵素による熟成も楽しみ。6カ月ほど経つとまろやかになり、搾りたてのフレッシュさとはまた違った味わいになるので、飲み比べするのも盛り上がるはずです。
ふなぐち
こちらは、180ml規格の缶に200ml入れることで開けたときにこぼれるようなシズル感を再現した「缶タイプ」。なみなみと酒が注がれるシーンを想像しながら計算してつくったという人気商品です。片手に収まるサイズなので、キャンプへの携行もストレスなし。
【基本情報】 サイズ:[パウチ]1,500ml [缶]200ml 価格:オープン

キャンプで盛り上がるおすすめ日本酒!

知るほどに手にしたくなる、新潟の本物たち

今回は、新潟でものづくりを続ける5社のキーパーソンに、その思いと情熱を教えてもらいました。 積み重ねた歴史や試行錯誤してきた技術、つくり手のこだわり。それらを知って商品を手にすると、楽しみ方にも深みが増すはずです。ただ便利に使う、おいしくいただくだけでなく、背景にあるストーリーを感じながら過ごすキャンプは、いつもよりきっと新鮮で、豊かな時間になるのではないでしょうか。
文/池上隆太 撮影/渡辺昌彦 取材協力/やひこ YYパーク