キャンパルジャパンが発信する100年超えの老舗テントブランド「ogawa」の魅力
100年の歴史を誇る「ogawa」の代表に聞く、キャンプシーンのあの頃と今、そしてこれから。
2024.03.22ライフスタイル
キャンプ場に行けば、洗練されたサイトが並ぶ最近。機能性だけでなくルックスも含めて、ギアにこだわりを持っているキャンパーは多くいるはず。そんなサイトの軸となるのは、やっぱりテントですよね。そこで、もはや知らない人はいないであろうテントブランド「ogawa」を展開するキャンパルジャパンのCEO、伊川良雄さんに話を聞かせてもらいました。90年代から今に至るまで、ギアづくりに携わりながら見てきた、キャンプシーンの今昔とは?
制作者
池上隆太
月刊男性ライフスタイル誌編集長を経て、フリーランス。川と滝と海が好き。キャンプで作る無水カレーがカレーのゴールだと信じています。忘れられないキャンプ場は野呂ロッジ、好きな飲み物はお酒、ベストジブリは「海がきこえる」、摂りたい栄養はスルフォラファン。きゅうりが苦手。
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もくじ
「キャンパルジャパン」CEO、伊川良雄さん
プロフィール
いがわ・よしお。1967年生まれ。東京都出身。1992年に小川テント株式会社に入社。品質管理や営業職を経験し、2000年に分社した小川キャンパル株式会社、2015年設立のキャンパルジャパン株式会社へ。2年後、CEOに就任する。100年以上続くギアブランド「ogawa」を展開し、2022年7月には直営キャンプ場もオープン。
ツーリングキャンパーから、テントメーカーへ
「ogawa」は1914年にスタート。その深い歴史がハイクオリティを裏付ける、信頼のギアブランドだ
――もともとキャンプ好きだったのでしょうか?
伊川良雄さん(以下「伊川」):20代の前半ですかね。椎名誠さんの『わしらはあやしい探検隊』という本や、バイカーとして知られる寺崎勉さんが創刊したツーリング雑誌『アウトライダー』を読んでいて。僕もバイクに乗っていたんですよ。当時はキャンプを楽しむというより、ツーリングの宿泊費を抑えるためにキャンプしていたという感じでした。若かったですから、旅館やホテルが高いと感じてしまって。必然的にキャンプになってしまったわけですね。
それも今みたいなおしゃれな感じは一切ないですよ。キャンプ場だけじゃなく、野営というか野宿のようなこともしましたから。北海道へツーリングに行ったときは、函館公園というところでテントを張ったり、サッポロビール工場近くの野球場の隅っこに泊まったり…。今は禁止されていたり、制限があるかもしれないですが。本当に「仮の宿」という感じです。その言い方を変えたら、キャンプになるのかなというくらいですかね(笑)。
――小川テントに入社した頃のキャンプシーンはどんな感じでしたか?
伊川:第1次アウトドアブームと言われているのが1990年から2000年ぐらいまでだと思うんですけど、入社したのがまさに1992年。ファミリーキャンプが流行っていましたね。その頃は3万円前後のリーズナブルなテントが非常に売れている時代でした。小川テントもそこに合わせたモデルを作ったりしていて、得意先に量販店さんも多かったんですよ。土日は販売にも出て、「すごく売れるものなんだな」と思っていました。
今はいろいろなアウトドアブランドがあって選択肢がありますし、丁寧というか、スタイリッシュにキャンプ楽しむ方が増えてきましたよね。でも、当時は買いやすい価格の商品を買って、とりあえずキャンプしてみようという雰囲気でした。家で遊んでる延長のような感じで、ギアにこだわる人が少なかったような気がします。キャンプ場も公園みたいなところが多くて、整えすぎてしまっているような場所が多かった印象ですね。
1990年代と2020年台、キャンプの楽しみ方に違いは
「90年代よりも圧倒的にお洒落で、ギアにもこだわったサイトをたくさん見かけますよね」
――ご自身はその頃どんなキャンプをしていたんですか?
伊川:よく八丈島でキャンプをしていました。でも、ローカルの方がバーベキューしたりするスペースや、今はダイビングスポットになっていたりするような、キャンプ場ではないところでやっていまして。当時流行りのオートキャンプとはほど遠いものでしたね。1人、2人用の小型テントにタープを張って、という感じです。だから20代の時のツーリングキャンプと、バイクがあるかないかぐらいの違いしかありませんでしたよ(笑)。
楽しみ方は少し変わったかもしれませんね。バイクのときは本当に寝るだけでしたけど、焚き火をしたり、少し料理をしたりするようになりました。そういえば、初めての八丈島キャンプは、飛行機で行ったんですよ。ただ、ガスやオイルを飛行機に乗せられないということを当時は知らず、全部没収されてしまって。「これは着いても何もできないな」とがっかりしたものです。でも結局、焚き火で灯りをとりつつ、料理をしたり…、工夫すれば意外となんとかなるもので。プリミティブなキャンプの醍醐味を知れたのも、八丈島のいい思い出ですね。
――それから今に至るまで、変わらずキャンプに行かれてるんですね。
伊川:最近は仕事のイベントでキャンプすることが多くなりましたね。コロナ禍になってからそういったイベントはなかったんですけど、今年の5月には無印良品さんとイベントをやらせてもらいましたし、7月には、直営キャンプ場「ogawa GRAND lodge FIELD」をオープンしました。もちろん、仕事じゃないキャンプも行きますよ。休みが取れたときには、ソロで本栖湖なんていいですね。以前はカヌーをやっていたんですが、今はまあ、焚き火して帰ってくるぐらいです。 せわしない現代社会だと、そんな"ほぼ何もしない"という時間がぜいたくだったりしますよね。
2022年7月にオープンした直営キャンプ場「ogawa GRAND lodge FIELD」(千葉県柏市)
――なぜ今また、みんなキャンプに夢中になっているんだと思いますか?
伊川:直営店第1号の「ogawa GRAND lodge SHINKIBA」のオープンが2016年だったので、今につながるキャンプ人気がじわじわ高まっていった感じはよく覚えていますよ。ちょっと前に山ガールとか、山ブームがあって、そこで「自然」が少し注目されたんですよね。それから音楽フェス人気が高まって、そこに絡めたキャンプだとかが増えてきて…という盛り上がり方でした。
ただ、まだその時はここまでたくさんの人たちがキャンプをするという感じではなかったんですよね。その後、芸能人の方がキャンプをされたりとか、キャンパーの皆さんがSNSで発信するようになったことが、「キャンプ」というレジャーの楽しさが広まった1つの理由でしょうね。あとは世界のデジタル化というのもありますよね。デジタルと対極にある自然での癒しが必要になってくると思っています。
――第1次ブームと第2次ブームは何か違いはありましたか?
伊川:キャンプ場でいえば、最近は整えすぎた所より少し自然を残したキャンプ場が多くなっていますよね。スタイリッシュなギアも増えてきましたし、当時と今だと求めているものが少し違うという印象ですかね。ただ外にテントを持って遊びに行くというよりは、自然を感じたいという目的を持っていたり。
昔はファミリーキャンプが主流でしたけど、今はソロとかデュオとか、皆さんそれぞれの楽しみ方をするようになりました。僕自身も、バーナーは昔からプリムスさんだとか、使っている道具はそれほど変わらない割に、格好は気にするようになりました。例えば昔はブルーシートを広げたりもしていましたが、さすがに今は使いません(笑)。昔との違いが一番顕著に出ているのは、キャンプ場に来ている方々のサイトですよね。今はすごく洗練されていて、僕もキャンプ場で見たり、SNSで発信されているものを参考にさせてもらっています。シンプルに整えていたり、逆にデコレーションしていたり。そうした人がどういう商品を使って、どんなブランドを使ってるのかというのも見ながら、いちキャンパーとしての自分にも、メーカーとしての開発にも生かしています。
人と地球の距離をぐっと近づけるのがテント
伊川さんにいちキャンパーとして買うならどのテント?と尋ねたところ、答えは写真のヴィガス2。
「前室の高さが190cmで余裕がありますし、前室張り出し部分に付けたサイドウォールを広げることでリビングが拡大します」
――ogawaのテントがこだわっていることはなんですか?
伊川:通気性や寒さ・暑さ対策、また風対策など、日本の四季に適用できるような仕様にしていることです。あとは、当たり前ですが「お客様が欲しいと思う商品」を作りたい。キャンプ好きな社員が欲しいと思うものを作れば、お客様にも響くだろうという考え方もあると思うんですけど、うちの場合は社員が欲しいものを作ろうとすると、てんこ盛りな仕様になっちゃったりするんですよね(笑)。そうすると必然的に価格が上がってしまう。だから、お客様の「ここだけは欲しい」というものを、ショップなどの現場からフィードバックしてもらい、取り入れることを大事にしています。あまりわからないようにはしてますけど、実はお客様の意見を反映して作った商品というのがうちにはよくあるんですよ。
――では、いちキャンパーとしての伊川さんにとって、テントはどんなものですか?
伊川:最初は「仮の宿」でしたけど…。大袈裟な言い方になってしまうかも知れませんが、今ベッドとかコットとかもありますよね。でも本当はキャンプって大地に、言ってしまえば地球に背をつけて眠ることだと思うんですよ。建物の中に入ってると、自然と遮断されてしまいますが、それがテントの生地1枚になれば、風が吹いている音や生地を叩く雨の音が聞こえたり、土の温もりや冷たさを感じられたり。そうやって、一枚中にいながら、ダイレクトに自然と向き合えるのがテントの良さなんです。建物の中にいるよりもかなり自然に近い。地球をちゃんと感じられるっていうのが「テント」…といいますか、それこそが「キャンプ」なんですよね。
「ogawa GRAND lodge SHINKIBA」でテントを吟味
「袋の状態から一体どうやってテントが立つのか心配なお客様が多いんです」というところから、自社のテントを張った状態で展示、かつ設営のレクチャーもできるショップを作ったのだという
「まずはバーベキューから少し足を伸ばすくらいでいいと思うんです。そこから気軽に国立公園でキャンプするアメリカのように、日本でもキャンプが文化として根付くといいなと思いますね」とシーンの展望を語る伊川さんは「これだけキャンプをやる人が増えていても、実はまだまだその楽しみを知らない人が多いと思うんです。だから我々メーカーやブランドがもっと知ってもらう努力をしなきゃいけないですね」とも話します。
その言葉を最前線で実践しているのは、やはり直営店舗「ogawa GRAND lodge」。第1号店である新木場店(東京都江東区)をはじめ、全国に19店舗を展開しています。まずはそこに訪れ、ogawaの想いに触れてみてはいかがでしょうか。
撮影:薮内 努(TAKIBI)
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