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日本の「アウトドアの始まり」を担ったレジェンドキャンパー、油井昌由樹さんにインタビュー!

業界人連載

90年代に起こった第一次ブームを経て、今再び、第二次ブームとして盛り上がりを見せているキャンプシーン。そんな「日本のアウトドア」が本格的に始まったのは1970年代とだいぶ遡ります。そして、その起点となるショップ「SPORTS TRAIN(スポーツトレイン)」を作ったのが、油井昌由樹さん。常にアウトドアに身を置き続け、実際に体験してきたレジェンドだからこそ語れる、シーンの移り変わりやキャンプの楽しみ、展望について話を聞きました。

「スポーツトレイン」オーナー、油井昌由樹さん

油井さん
プロフィール ゆい・まさゆき。1947年生まれ。神奈川県出身。大学卒業後、世界一周の旅に出て、数々のアウトドアグッズを日本に持ち帰る。その後アウトドアショップ「スポーツトレイン」をオープンし、その道の先駆者として有名に。また俳優として黒澤明監督作品『影武者』『乱』などに出演。2021年からは自身のキャンプ場を開業。

世界を一周して、アウトドアライフに魅了される

昔の油井さん
動物とともに、これまで世界のさまざまな場所でアウトドアに触れてきた油井さん
――大学を卒業して突然世界一周に出たきっかけは何だったのでしょうか? 油井昌由樹さん(以下「油井」):その頃、東京の赤坂のクラブというかディスコで、毎晩踊っていたんです。当時はベトナム戦争の真っ最中だったから、出撃拠点だった日本には米兵がたくさんいたんですよ。彼らは遊び方もカッコよくてね。ただ、戦争が終息に向かうと、米兵が撤退するんです。そうすると赤坂に外国人がいなくなり、スイッチを切ったみたいにつまらなくなってしまって。それで「外国に行けば会えるかな」という思いで、1971年に世界一周の旅に出たんです。 ――その1年後にはアウトドアショップ「スポーツトレイン」をオープンしますが、旅の中にその理由があったのでしょうか? 油井:そうですね。最初に着いたのがアメリカのアラスカ州、アンカレッジという街なんですが、ホテルの隣がたまたまアウトドアショップだったんです。そこにはコールマンのランタンがあって、ワークブーツがあって、バンダナがあって…。僕がまったく知らない世界がそこに広がっていた。そこで、赤坂で踊っていたときのペラペラのパンタロンとテロッとしたシャツ姿から、リーバイス501とダンガリーシャツなんかに着替えて、ワークブーツを履いて。そのショップで買ったいろいろなものを持って、バックパッカーになるわけです。 デニムジャケットなんか着ていると、ヨーロッパあたりで「かっこいい」って褒めてくれるんですよ。「僕はセンスいいのかな」なんて思ってしまって、どんどん愛着が湧くわけですよね(笑)。 オピネルのナイフとか、旅する中で気に入ったものに出会うと、それを日本に持って帰っていたりもしました。そうするとみんなが興味津々なんですよ。サンフランシスコで買った『ホールアースカタログ』もそうでした。そこに見たこともないアウトドア用品がたくさん載っていて、みんなが欲しがるわけです。でも僕からすれば「こういうの、アメリカでタダみたいな値段で売ってるよ」というわけで、簡単だから輸入してあげるよと。それで輸入代理業として「スポーツトレイン」をオープンしました。1972年ですから、ちょうど50年前ですね。 たまたまアウトドアショップとして広まっただけで、当時から今に至るまで、実は一度も「ショップをやるんだ」と意気込んだことはないんですよ(笑)。
インタビュー中の油井さん
――ここから日本のアウトドアシーンが盛り上がっていくわけですよね。 油井:オープンから1年ぐらいは誰も来ないようなものでしたけど(笑)。そのあと1974、5年ですかね。のちに一緒に『POPEYE』という雑誌を立ち上げる木滑良久さんと石川次郎さんが僕がセレクトしているものに興味を持ってくれて、よく来られるようになったんですね。 信頼してもらえたのか、僕が目利き担当として加わりながら、彼らと『SKI LIFE』という雑誌も作りました。そういった本に「こんなカッコいいものがスポーツトレインにあるよ」って記事が載るようになってから、お客さんがたくさん来てくれるようになったんです。その頃、アウトドア用品といえば、うちにしか置いてないものばかりでしたから。なにせ「L.L.ビーン」も「エディー・バウアー」も最初に日本に持ってきたのは僕ですからね。何なら日本で「OUTDOOR」って初めて店の看板に書いたのも僕かもしれません。それくらいどこにもなかったんですよ。そうしてたくさんのお客さんに来ていただいたんですが、1979年には飽きてしまって…(笑)、お店はスタッフに任せることにしました。「1年間、抜けるね」って。その後、黒澤明監督の作品に出演が決まり、映画俳優をしていくことになるんです。
油井さん
――キャンプやアウトドアから完全に離れてしまったのですか? 油井:いえ、役者をしていても、変わらずキャンプはしていました。その頃は車に乗って出掛けていましたね。僕にとって車は「乗れるトートバッグ」と言うんでしょうか。ガバッと開いて何でも突っ込んでおけるような、そんな使い勝手のいいツール。キャンプ道具を積んだままにしておけば、すぐ出掛けられるというわけです。今もキャンプシーンで人気がある「ランドクルーザー」に乗っている時代もありましたよ。 仲がよかったアーティストのキース・ヘリングが日本に来たときに、そのランクルに絵を描いてくれたことがありましてね。当時でどのくらいの値段がつくのか検討もつかないですが、僕にとってはそんなことどうでもよくて。青山のスエンセンズに行って、アイスクリームを買って「ギャラだよ」って渡したら、「今までもらった一番いいギャラだ」って(笑)。80年代だったと思います。自由な時代ですよね。

キャリア50年越えでも飽きない、キャンプの魅力とは?

自分のキャンプ場も西湖の森の中に

油井さん
「バブアー」のボディにオリジナルのプリントを施した、自身の運営するキャンプ場のアウター
――生活が変わってもキャンプだけはずっと続けているということですが、あらためてキャンプのどんなところに魅力を感じていますか? 油井:そもそも僕にとってのキャンプは、西部劇のイメージだったんですよ。焚き火して、鉄のお皿で豆みたいなものをパンとかにつけて食べて。ダッチオーブンがあったりね。そばに犬がいて、馬に乗って…。僕は乗馬が趣味なので、馬と旅をしながらキャンプを始めたんです。それこそタスマニアでキャンプしていたときは、ずっと馬と一緒だったのを覚えています。 他に思い入れがあるキャンプといえば、タンザニアのセレンゲティでのこと。サックス奏者の渡辺貞夫さんと行ったんですが、貞夫さんが道端で、お土産用の笛みたいなものを買うんですよ。それをナイフで削って調整して吹いてくれるんです。世界的サックス奏者の笛の音を聴きながら、僕はビール飲んでいるだけのぜいたくな時間。あの渡辺貞夫を独り占めですよ(笑)。それから今でも一番好きなのは森でのキャンプですね。自分が作ったキャンプ場も『スポーツトレイン・イン・フォレスト キャンプ』という名前のとおり、森の中にあるくらい。かつてはパリの「ブローニュの森」やドイツの「黒い森」でもキャンプをしました。 森でするキャンプの何がいいって、暗い森の中に入っていくと、朽ちた木が倒れたりしていたりしていて、そこにだけ太陽の光が差しているのが、遠くからでもはっきりと見えるんです。光が当たっている部分だけに草が生えていて、見上げれば、空がドーンと抜けている。まさに「オープンエアー」です。空、つまり宇宙と自分がつながっているような気分になれるんですよね。あの感覚はキャンプを始めて50年以上経っても飽きないです。
タスマニアでのキャンプの様子
タスマニアでのキャンプの様子。馬と犬を連れ、オープンエアーを楽しむ油井さん
――森の中ではどんな過ごし方をしているんですか? 油井:焚き火をしながら何日か暮らすんですが、初日は静かなんですよ。僕がいることで、昔からそこに住んでいる小鳥や動物も来なくなりますし。ところが2日目、3日目くらい経って安全だなってわかると戻ってくるんです。だから、キャンプは2泊以上するのがオススメ。本来の自然の姿を味わうことができるから。 そこで特別な何かをしなくても、生活するだけで貴重な体験ができるんです。持っていくものだって何だっていいんですよ。キャンプだからと気負わなくていい。家の台所で普段使っているものでも、近代的な電化製品でも。もちろん、プリミティブにして楽しむのもいいですけどね。100円ライターを持ってるのに、あえて面倒な火おこしをしたり。僕ももう何十年も使っているマグネシウムの棒がありますが、それとナイフで火をおこしています。キャンプ道具の中に必ずラップにくるんだ木の粉を入れていて、それにフーフー吹くんです。桜の木のチップなんかもいいですね。火種にもなるし、燻製をするのにも役立ちますから。

第二次アウトドアブームの今、感じていること

何も考えず気楽に。楽しめたらそれでいい!

油井さん
――第一次ブームも経験している油井さんは今回の第二次ブームについてどう思われていますか? 油井:「みんなキャンプすればいいのに」と思って、ショップを始めたわけですから、僕がなってほしい世の中に向かっているなあと思っています。実は、都会暮らしの人の平均焦点距離って5メートルくらいだという話があって。部屋の中はすぐに壁、電車に乗ればガラス窓、会社に行けばコンピューター、人に会うにしても1〜2mの距離でしょう。そんな所だけで生きていくのは明らかに心身に良くなさそうじゃないですか。だから、意識してでも森や海へ行ったほうがいいと思っていて。もちろん、今の都会生活を捨てることは簡単にできることではないでしょうけど、だから、キャンプをすればいいわけですよ。カナダのブリティッシュ・コロンビアあたりの街に行くと2軒に1軒はカヌーが置いてあったりして、アウトドアを当たり前に楽しんでいるんです。日本も立地的にはそうなれるはずなんですよね。海は近いし、川もあるし、7割くらいは山でしょう?身近にキャンプを楽しめる条件がそろっているんだから、特別なものじゃなく、日常として楽しめるようになってほしいですよね。 ――油井さん自身は、今と昔でキャンプの楽しみ方は変わりましたか? 油井:僕自身は変わっていないですよ。ただ、道具がもう、知らないものが多いですよね(笑)。僕が最初に買ったランタンはコールマンの「200A」なんですけど、初めて見たときは「こんなに明るいランタンがあるんだ」ってびっくりしたんです。その時みたいに、最近も自分のキャンプ場に来ている人たちが使っている道具を見て「こんな便利なものがあるのか!」とか「こんな遊び方があるのか!」と新しい発見ばかり。今は教わることのほうが多いんですよね。でもそれが新鮮で楽しい。この年齢になったって、僕もまだまだ驚きたいんですから。

「スポーツトレイン・イン・フォレスト・キャンプ」で森キャンプをしよう!

自分がしたいキャンプができる場所を作りました

スポーツトレインインフォレストキャンプ
「スポーツトレイン・イン・フォレスト キャンプ」受付
「気負わず気楽に都会と大自然を行き来できるようになると、また違う世界観が生まれるはず」と語っていた油井さん。自身が西湖で運営するキャンプ場も、都心から車で約2時間という、気軽に訪れられる場所に。 油井さんがインタビュー中に話してくれたような素敵な森キャンプが体験できるかも…ということで、キャンプ慣れしている人も、これから始めようという人も、一度は訪れておきたいところです!
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「アウトドア(キャンプ)」という、遊び領域で長年走り続ける注目の人物に「なぜそと遊びが好きか」を問いかけるインタビュー連載。

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