ホヤの割れた激安骨董ランタンを、趣ある"金継ぎ風"に復活させてみた!【ウイケンタの適温キャンプ】
2021.10.06キャンプ用品
キャンプに慣れてくると欲しくなるのはオイルランタン。光量は大きくありませんが、炎の揺らぎに魅せられる人も多いはずです。しかし、オイルランタンのホヤ(グローブ)はそのほとんどがガラス製。不注意で使用中や運搬中に割ってしまったことがある人もいるのではないでしょうか。割れた部分をあえて生かして修理する"金継ぎ風"の修復方法を紹介します。
ホヤが割れても諦めなくてもいい?!
蚤の市で買ったホヤの割れたランタン
hinataをご覧のみなさま、こんにちは。ウイケンタと申します。本名です。僕が何者であるかは連載一回の記事をご覧ください。
hinataさんで「ウイケンタの適温キャンプ」という連載をさせていただくことになりました。ちなみに連載名の「適温」は「がんばりすぎない、お金をかけすぎない、熱くなりすぎない、自分にとって最適な温度で心地良いキャンプをしてほしい」という意味が込められています。
前回の記事ですがたくさんの方に見ていただけたようで、たいへんありがたいです。ありがとうございました。一回目の記事を終えて、次は何を書こうかなと思っていたところ、編集部より「最近、何か修理したキャンプ用品ありませんか?」の連絡が。そこで思い出したのは、クローゼットのキャンプ用品の一番奥で眠るランタンです。冒頭に貼りつけた青いオイルランタンがそれです。
ホヤとボディのブランドがちぐはぐに組み合わさった珍品
拡大するとこうです。ランタンの命ともいえる、炎を守るためのグローブ(通称"ホヤ")が割れているのです。画像では見にくいですが、ホヤ全体に何かで擦ったような細かい傷もたくさんついています。
このランタンは新宿の神社で定期的に行われている蚤の市で買ったものです。ホヤをよく見ると【DIETZ(デイツ)】の文字が見えます。オイルランタンが好きな方の中ではメジャーなアメリカのブランドです。
しかし、ボディは【GLOBE BRAND(グローブブランド)】という香港製のもの。おそらくグローブブランドのジャンク品にたまたまデイツのホヤがはまったのでしょう。珍品です。いずれにせよ年代は不明ですがその風貌からヴィンテージ品だと思われます。
青の発色も良く、値段も激安だし(確か500円しなかったと思います)、ホヤは割れているけど、何かしら使い道あるかなと思い買った記憶があります。しかし、ホヤの割れたランタンに使い道などなく、他にもランタンは複数所有しているため、結果、数年間クローゼットの奥で眠ることになっていたのです。
余談ですが、中古のオイルランタンを購入する際は「オイル漏れがないか」を必ず確認してください。
動作確認ができず、売り手から「分からない」と言われたら目視で可能な限り穴が開いていないかを確かめるしかないのですが、その際にタンクのふたを外して、明るい場所で中をしっかり覗き込んでください。タンクの中にサビがある場合は黄色信号です。外側のサビは落とすことができますが、タンクの中のサビを全てきれいにするのは素人には至難の業なので、なるべく内側がサビていないものを選ぶようにしましょう。
脱線しましたが、今回はこのランタンを「金継ぎ風」に直していきたいと思います。
修理に取り掛かりましょう
そもそも「金継ぎ」とは?
先ほどから何度か出している「金継ぎ」について簡単に説明させていただきます。金継ぎとは、割れやヒビなど、破損した陶磁器の修復方法の一種で、破損部分をうるしなどで接着し、金粉などの金属粉で装飾して仕上げることを言います。
割れた部分を隠さずに、あえて目立たせることで「個性」に変える。不完全なままの状態を「OK」とする精神は日本独自の美意識だと思います。僕は、この趣のある金継ぎに以前から興味を持っており、コロナ禍を利用して金継ぎのワークショップに通っています。
ワークショップでの講義でガラスも金継ぎで修理できることを知るのですが、色々と調べるとランタンのホヤは金継ぎでの修理には不向きなことも分かりました。ランタンとして使用する際、ホヤに熱が加わるためです。金継ぎは熱に強くありません。そこで、今回はお手軽にできて熱にも強い「金継ぎ"風"」の補修方法で修理してみたいと思います。
まずは割れた部分の接着
まずは割れている部分を補修しているテープを外していきます。マスキングテープだと思っていたテープは、何やら強度の強い粘着テープで剥がすのに苦労しました。しかも、長年テープが貼られていたせいか、粘着面がホヤにべっとりとくっつき完全に取るのが大変でした。
テープをきれいに剥がすだけで1時間かかりました。とんだ誤算に出鼻をくじかれます。
テープが取れたら慎重に全体を洗い、しっかり乾燥させます。大きな破片は3つです。割れたパーツがそろっていることは不幸中の幸いです。割れた部分が紛失していると、そこを埋める作業が発生してしまいます。この作業があるか無いかで作業の難易度が大きく変わってきてしまうのです。
今回、漆の代わりに使用するのは「ボンド クイック5」という、金属・ガラス・陶磁器用の接着剤。シンプルながらも頼もしい名前です。ホームセンターやAmazonで手に入ります。
クイック5のA剤とB剤を同量出して混ぜ合わせます。作業台に直接出しているように見えますが、クリアファイルの上に出しています。「A剤とB剤を混ぜる」という行為、普通に生活していたらそうそうあることではありません。混ぜるだけなのにワクワクします。子供の頃、粉とかを混ぜ合わせるケミカルなお菓子があったのを思い出します。
ここからは少しスピードアップします。と言うのは混ぜ合わせたら硬化がスタートするのです。これは後から知ったのですが「クイック5」の「5」は「5分で固まる」という意味なのです。とにかくスピーディーに、破片の断面に接着剤を塗って貼りつける作業を繰り返していきます。
破片を全て貼り付けました。途中経過の写真がないあたり、いかに僕が焦っていたかをよく表しています。
接着剤がはみ出ていますが現時点ではこれでOKです。ただ、注意点がありまして、接着剤がたくさんはみ出ていいのはホヤ外側だけです。ホヤの内側にはできるだけ接着剤がはみ出ないようにします。理由は後術します。
急いで作業を進めたのですが、貼り付けている途中から硬化がどんどん進み、全て貼り付ける前にクリアファイル上に出した接着剤が固まってしまいました。クイック5は一度にたっぷり出して混ぜ合わせるよりも、少しずつ出して混ぜ合わせたほうが無駄が出なくてよいかと思います。
接着剤が完全に硬化したらはみ出ている部分をカッターで削いでいきます。完全に硬化してもカチカチにはなりません。カッターで少し強めに力を入れれば削げるくらいの硬さです。コツをつかむとスーッと削ぐことができて非常に気持ちが良いです。
ホヤの外側にはみ出るほど接着剤を塗るのは強度を優先したいためですが、はみ出た接着剤を後からきれいに削ぐことができるということも大きいです。また、内側にあまりはみ出したくないのは「外側よりもカッターで削ぐことが難しいから」という理由。
はみ出している接着剤をきれいに削いだ状態です。割れた部分の跡は目視できますが、ピタリと接着され、危うさを感じません。触ったり持ったりした感覚ですが、強度には問題なさそうです。
一般的にガラス用の接着剤は硬化すると真っ白になって接着跡が目立ちますが、それもありません。ここで思いました。「補修跡はきれいだし、修理だけならこれで完了だな…」。
しかし、今回は「金継ぎ風」に直すことが最終ゴール。ここから装飾を施していきます。
合成うるしと真ちゅう粉による「金継ぎ風」の装飾
まず、用意するのは合成うるしです。「うるし」という表記がありますがうるしとは別物です。うるしとほぼ一緒の役割を果たしながらも、カブレにくいという特性があります。本来の金継ぎでは使用されることは無いようですが、一日体験やワークショップなどでは使われることもあります。
次に用意するのは金の粉です。今回は真ちゅうの粉を用意しました。真ちゅうはアウトドアギアで多用される金属なのでなじみ深い人もいらっしゃると思います。
本来、「金継ぎ」は「金で継ぐ」ものなので「金の粉末」を使用しますが、今回は「金継ぎ"風"」なので、金よりも渋い発色で価格の安い真ちゅう粉を使いました。銀色に仕上げたい人は錫(すず)の粉でもいいと思います。いずれもホームセンターや東急ハンズやAmazonで購入できます。
合成うるしに真ちゅう粉を出します。細かい粉末なので、吸い込まないようにマスクをしましょう。合成うるしも容器から出した瞬間からゆっくり硬化が始まります。クイック5ほどではありませんが、なるべくスピーディーに作業を進めたほうが良さそうです。
ピンぼけしているし、きれいではない画像で恐縮です。合成うるしと真ちゅう紛の分量で迷子になっているところです。撮影もしないといけないし、硬化は始まっているしでパニックです。
画像は真ちゅうの粉が多すぎるのか、混ぜても混ぜても"粉っぽさ"がある状態です。うるしを足しながら混ぜ合わせ「完全になめらかな金色の液体になったかな」でOKにしました。ものすごくアバウトで申し訳ないのですが、合成うるし大さじ1使用すると仮定した場合、真ちゅう粉は耳かき1~2杯で十分かと思います。
最後の作業です。竹串などに真ちゅう紛を混ぜた合成うるしをつけてホヤの補修した部分にのせていきます。ここからは装飾なので好みです。補修跡をあえて目立たせるように太めにのせてもいいし、シャープに細く乗せても良いと思います。全ての補修跡をなぞるように合成うるしをのせ、乾燥させたら完成です。
ようやく完成!出来栄えやいかに…?
完全に乾燥したものを本体に戻しました。引きの画像だとよく分かりませんね。寄ってみましょう。
金継ぎ部分です。はじめは細めに乗せていたのですが、「これだと画像で見にくいかな…分かりやすく太くしようかな…」と思い、最終的には少し太めにしました。
ムラもあるし、完全に補修跡が隠れていませんが、不完全なものを良しとする精神で"味"とします。色はまさに真ちゅうの金色です。渋めの金とランタン本体の青の相性が良く、大満足です。
実際に使用してみました。結果やいかに…?
いくら外観は修理できたと言っても、ランタンは使えなければただのオブジェなので、実際に使用できるかどうかキャンプ場で試してみます。
点火してみます。ホヤが炎の熱で温まったとたんにバラバラと崩れる可能性もあるわけで、そうなるとhinataに掲載もできないし、補修した時間も無駄になるし、僕も「夜中にランタンを直して翌日壊した人」になってしまいます。ものすごく緊張しました。
8時間以上火を灯していましたが、壊れたり補修部分がバラバラになることなく使用できました。火を灯すと補修した部分が影になり、趣を感じます。大満足です。修理が完了してからも何度かキャンプに持って行っていますが、今のところまったく壊れることなく使用できています。初めてランタンのホヤを修理しましたが、今回は大成功と言ってもいいと思います。
自分のギアに「愛着を持つ」こと
僕は、キャンプを楽しむためにはギアに「愛着を持つ」ことが重要だと思っています。愛着は、お金をかけるか時間をかけることで生まれます。今回、こうやって手間と時間をかけて修理したランタンには愛着を持つことができますし、長年止まっていたランタンの時間を自分の手でまた動かせたことにも喜びを感じます。
これからもどんどん修理して自分のギアに愛着を持っていこうと思います。
前回の記事はこちら!
ウイケンタの適温キャンプ
ライター、コラムニストとして活躍する39最独身男性・ウイケンタが「がんばりすぎない、お金をかけすぎない、熱くなりすぎない、自分にとって最適な温度で心地良いキャンプ」を語る連載企画。野営のソロキャンプからグランピングまで年間40泊ほどキャンプを楽しむ筆者が、キャンプ料理やギアへのこだわりを紹介します。