「18kg500円」の薪で福島を変える!“林業×キャンプ”で未来をつなぐ、郡山「ロガーズギアサプライ」
全国の人気アウトドアショップのリアルな魅力にせまる「愛せるお店に出会おう」。第4回は、福島県郡山市にある「LOGGERS Gear Supply(ロガーズギアサプライ)」。オーナーの鈴木優作さんは林業とキャンプを掛け合わせることで、福島の自然を守り、新しいコミュニティの場として存在感を放っています。林業に携わっているからこそ見えてくるキャンプの価値や楽しみ方を語ってもらいました。
林業を知れば、キャンプはもっと楽しくなるはず
焚き火に薪をくべる時間こそ、キャンプの醍醐味と言っても過言ではないでしょう。そんなキャンプに必要不可欠な「薪」ですが、それがどのようにつくられているかを知る機会はあまりありません。より焚き火を楽しむためにも、薪を取り巻く環境に目を向けてみるのはどうでしょうか。
今回訪れたのは「LOGGERS Gear Supply(ロガーズギアサプライ)」。JR郡山駅(福島県郡山市)よりクルマで15分ほどのところに位置するお店は、キャンプと林業をかけ合わせたアウトドアショップとして話題を呼んでいます。
オーナーの鈴木優作さんは、林業のプロフェッショナルであり、自らつくった高品質な薪を販売するなど、キャンプに林業の要素を組み入れて新たな価値を提供しています。「薪を燃やすことが、森を生き返らせる」という鈴木さんの言葉には、キャンプを通して福島を活気づけるための想いが詰まっていました。
水害から立ち直り「林業」×「キャンプ」で新しい価値を
ーー「ロガーズギアサプライ」を開いたきっかけを教えてください。
鈴木優作さん(以下「鈴木」):大きなきっかけは「水害」でした。2019年の台風の影響で郡山一帯が大きな浸水被害を受けてしまったんです。このお店はもともとチェーンソーなど林業関係の商品を置いていたんですが、浸水で膝の上くらいまで水が入ってきて商品もお店自体も全部使い物にならなくなってしまった…。
一から立て直さなくちゃいけないとなったときに、ちょうどキャンプブームの時期とも重なり、キャンプ×林業で何かできないかと思い立って2020年10月にオープンしました。
ーーそれは大変でしたね…。そもそもは、林業関係のお店だったんですね!
鈴木:はい、もともと僕は林業に携わっていました。僕の家は、祖父の代から木材や炭の生産などの会社を営んでおり、今は父親が代表を務めています。僕もその会社に勤めていて、一家そろって林業一筋だったんです。
水害で大きな被害を受けたことは間違いありませんが、ある意味でいいきっかけにもなったと思っています。林業を次の世代へつないでいくためにも、新しいイメージをつくっていく必要性を感じていたので、林業とキャンプを組み合わせる挑戦ができたことはポジティブにとらえています!
ーー林業をやっていたということは、アウトドアも身近だったんですか?
鈴木:作業は基本的に山の中ですから、仕事=アウトドアみたいなものですね(笑)。仕事でもキャンプギアを使うことが多いですよ。例えば、冬は薪ストーブを持って行き、暖をとったり、テントを張ってその中でご飯を食べたりもします。
アパートを改築した店内は、林業を思わせるウッディな雰囲気。ショーケースには多種多様なナイフ類が並び、さらに野性味を醸し出しています
「僕は、キャンプで救われた」
ーーもともとプライベートでもキャンプをやっていたんですか?
鈴木:ソロキャンプをよくやっていました。きっかけは、「キャンプに救われた」という経験です。そこから長年続けています。
鈴木:2012年に初めてソロキャンプをしたときのことです。当時、僕は建設会社の新卒1年目でした。リフォーム関係の仕事をしており、東日本大震災の直後ということもあって、復興のために毎日とてつもない量の仕事をこなしていたんです。
ただ、慣れない社会人生活も相まって、「このままでは心身ともに限界」というくらい疲弊してしまいました…。そんなときに“キャンプに行こう”という考えが頭に浮かんできたんです。
ーーなぜそこで「キャンプに行く」という選択をしたんですか?
鈴木:正直、いまだになぜだかわかりません。学生時代に何度か友だちとやった程度でしたし。でも直感的に「キャンプに行かなきゃ!」と思ったんです。たまたま持っていた安物のワンポールテントと寝袋だけかつぎ、23時から同じ福島県内の猪苗代湖のキャンプ場に向かいました。
初めてのソロキャンプで何をしていいかわからず、ただテントの中でマンガを読んで過ごしていただけなのですが、そこで全てがリセットされたように感じたんです。
仕事で忙殺されて、長いあいだ自分と向き合うことができていなかった。でもソロキャンプをしたことで自分だけの時間を取り戻せたような気がしました。そのときキャンプをしていなかったら、今の僕があるかどうかわからない…それくらい僕にとっては重要な経験でした。
鈴木さんが特に思い出深いと紹介してくれたのは、ノルウェー発のポータブル薪ストーブ「Gストーブ」(税込59,400円)。本体はステンレス製で錆に強く、耐熱温度は約1,000℃を誇る
ーー本能的に体がキャンプを求めていたんですね!キャンプのもつ力を強く感じるエピソードです。
鈴木:それ以来、キャンプにハマってしまい、ギアもいろいろとそろえるようになりました。
鈴木:ストーブですね。キャンプでは、火をいじっている時間が大好きで、夏以外は常にストーブを持って行きます。僕が愛用しているのは「Gストーブ」。2016年に購入して、ずっと使い続けています。
脚を折りたたんでコンパクトに持ち運べるのがとても便利。コンパクトではあるんですが、使われている鉄の容積が大きいので蓄熱性はピカイチです!もちろん焚き火も好きですが、ストーブの小窓から見える炎も雰囲気があっていいんですよ。
Gストーブにはさまざまなオプションがそろっているのも魅力。天板で調理をすることも可能です
薪を燃やすと森が“蘇る”
ーー林業もされているので、薪へのこだわりも強いのではないですか?
鈴木:もちろんです!僕のお店で扱っている薪は、全て福島県産のナラを使っています。広葉樹のナラは密度が高く、熱量があって火持ちがいい。そして煙も少ないのでストーブの薪として使うにはぴったりなんです。
意外と知られていませんが、郡山市は薪を乾かすのに適した場所でもあります。日照量が多く、風も強いため薪を早く乾燥させることができるんです。都市別でみると全国2位の乾燥率(乾燥のさせやすさの指標)を誇っています!
ロガーズの「オリジナル薪バッグ」(税込4,950円)。購入するとバッグいっぱいの薪をプレゼント!ちなみに、ロゴの女性は名前を募集中とのこと。
ーー郡山は“薪王国”だったんですね!あ、このバッグは薪専用?
鈴木:はい、オリジナルの薪用バッグです。バッグをお買い上げいただいた際には、ここに薪を満杯に詰めてプレゼントしています(笑)。
ーーロガーズさんならではの太っ腹なサービスですね!
鈴木:薪をガンガン燃やさないと、森は若返っていかないんです。だから、できるだけ多くの方に、たくさん薪を使ってほしいと思っています。
ーー「薪を燃やさないと、森が若返らない」?どういうことですか?
鈴木:東日本大震災の影響もあり、福島の木材を出荷できない時期が続きました。でも、薪に適しているナラやミズナラなどの広葉樹は、切らないと新しい木が成長してこないんです。何年も伐採をできない状況が続いたので、次の木を生やすためにどんどん切っていかないといけないんです。
ロガーズオリジナルの「薪割り台」(税込2,000〜4,000円)。アイアンロゴプレートとハンドル付。もし割れてしまった場合は、木部だけの交換も可能
鈴木:そうなんです。「伐採」って森林を「破壊」するというイメージがありますよね。でも必ずしもそうではなくて、伐採することで質のいい木が育ち、森が生まれ変わっていくんです。だから、どんどん薪を使ってほしい!
ロガーズでは、店頭販売限定ではありますが、約18kgの薪を550円(税込)で売っているんです!これは、一般的なキャンプ場で売っている薪の価格のおよそ4分の1に相当します。
鈴木:福島の森を若返らせるためにも、多くのキャンパーに薪を使ってほしいんです。森林の状態がよくなれば、適正な価格に戻そうとは考えていますが、今はこれくらいやらないとダメだと思っています。もちろん、線量のチェックなども徹底して安全面もまったく問題ありません。ガンガン燃やして焚き火を楽しんでください!
命を無駄にせず、キャンプの価値につなげる
ーーほかにも林業に関わっているからこその取り組みはありますか?
鈴木:「猟」ですね。実はこの前タヌキをさばいたんです(笑)!これがそのときはいだ皮です。
鈴木:いえ、これは猟師さんが獲ったものをいただいて解体したんです。実際に猟をするには免許が必要なので、今は合格目指して勉強中です!
鈴木さんは山での仕事中にクマに遭遇したこともあるそう。クマよけアイテムは林業関係者なら必須の装備!
鈴木:山で仕事をしていると、どうしても動物と関わらざるを得ない。簡単に「害獣」とは呼びたくないですが、シカによる樹木の食害だったり、クマが人を襲ったりなどの被害があると駆除しなければいけなくなります。
そうやって処理された動物をそのまま破棄するのは違うなと思って。木と同じく動物も「山の恵み」ですから、いただいた命をしっかり活用していきたいんです。
このタヌキも実際にいただきました。内臓も含めて全部食べたんですが、めちゃくちゃおいしかったですよ!ハツなんかプリプリの食感で、焼肉店で出てきてもおかしくないウマさでした!
シカやイノシシなど大型の獣を仕留めるナイフもそろう。猟に興味がある人も要チェック
ーーそんなにおいしかったんですか!タヌキの肉…どんな味がするんだろう…
鈴木:実は、2023年の夏に郡山でキャンプ場をオープンしようと計画していて、そこでは近くの山で獲れたジビエを提供できないかと考えているんです。ジビエを提供するにはいろいろなハードルがあるんですが、実現できれば郡山をより体感できるキャンプ場になるのではないかと思っています。実現した際は、ぜひ食べに来てください!
どんなカルチャーも受け入れる「ハッピーな空間」へ
ーー林業を起点にして、さまざまな可能性が広がりそうですね!
鈴木:林業の本場であるオーストリアやドイツに行くと、より強く感じます。向こうでは林業がとても身近で、ロードサイドのコンビニや雑貨店に当たり前のように薪が売っているんです。林業の道具なんかも置いてあり、それを買いに来たついでにコーヒーを飲むというような文化があります。
そこは地元の重要なコミュニティで、新しい出会いが生まれる可能性に満ちている。僕もこのお店をそんな場所にしたくて、カフェを併設したんです。
2階にはカフェスペースが。シカの剥製がひときわ存在感を放ちます
ーーカフェがあることで、キャンパー以外のお客さんも来ているんですか?
鈴木:例えば、近くに大学があるので学生さんもよく来られますよ。アウトドアに触れてこなかったような子が通ってくれて、キャンプや林業に興味をもってくれるようにもなりました。
日本の林業を多くの若い人に担ってもらいたい。そして、キャンプをブームで終わらせずに次世代へも定着させたい。そんな開店当初の思いが届きつつあるように感じています。
普段はカフェには立たない鈴木さんですが、バリスタとしての実力もたしかなもの。2カ月間集中的にラテアートを修行して腕を磨いたそう
ーーキャンプや林業に興味がない人でも気軽に立ち寄れて、その魅力を知るきっかけの場になりますね!
鈴木:ガレージブランドなどギア好きな人はもちろん、先輩のバイクチームが遊びに来てくれたり、アーティストの友だちがイベントを開催したり、その横で大学生がカフェで課題をやっていたり…さまざまなカルチャーの人たちが集まってくれるようになりました。
キャンプに興味がなかった人でも、自分と異質なコミュニティと交わることで刺激を受けて自然と親しんでいく。お互いのスタイルを尊重しながら、みんながハッピーになるような空間。ロガーズギアサプライはそんな場所にしていきたい。
編集部のお買い上げアイテム
普段何気なく使っている薪ですが、鈴木さんのお話を聞き、その背景には産地それぞれがもつ特徴や生産者の思いが詰まっていることを実感しました。
これから薪をくべるときは、その背後にある自然や社会に思いをはせて焚き火に浸ることができそうです。
そんな気づきを与えてくれたロガーズギアサプライで手に入れたのは、ファイヤーサイドの
「アウトドア&ストーブグローブ」(税込6,820円)。焚き火はもちろん、ストーブや暖炉など屋内外問わずに使えるレザーグローブです。薪のプロフェッショナルである鈴木さんもイチオシの逸品。
ロガーズギアサプライなら、キャンプの醍醐味である焚き火をワンランク上げてくれること間違いなし。まずは福島の薪を手に入れて、ガンガン燃やしてみてはいかがでしょう。
撮影/筒浦奨太