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ナムチェバザール

茨城の老舗「ナムチェバザール」は、世界的名品と“どローカル”な掘り出しものが共存する唯一無二のショップでした

全国の人気アウトドアショップのリアルな魅力にせまる「愛せるお店に出会おう」。第3回は、茨城県水戸市にある「Namche Bazar(ナムチェバザール)」。2023年で30周年を迎える老舗です。オーナーの和田さんはお店の枠を超え、トレイルコースの整備を進めるなど精力的に活動中。その原動力となる茨城への「愛」と目指す「未来」を聞きました。

「茨城愛」がすごい!30年続く老舗アウトドアショップ「ナムチェバザール」

ナムチェバザール
JR常磐線水戸駅(茨城県水戸市)からクルマで10分ほどに位置するのが、今回訪れた「ナムチェバザール」。1993年の第1次アウトドアブーム真っ只中に生まれたお店は、2023年で30周年を迎えます。キャンプから登山、トレイルランまで幅広いアクティビティに対応した品ぞろえで、地元のアウトドア好きに長年愛されている老舗ショップです。 長きにわたり日本のアウトドアを支えてきたナムチェバザールが、今取り組んでいるのは県を巻き込んだ新しいトレイルコースの整備。さらに、キャンプ場の運営を行うなど、ショップの枠を超えてアウトドアの楽しさを発信しています。 その活動の原点にあるのは、茨城の「自然と暮らしが融合」した地域性。お店づくりのこだわりから茨城の魅力まで、オーナーの和田幾久郎さんに聞きました。

シアトルで出会った「自然と暮らす」価値観

ナムチェバザール
ーー和田さんとアウトドアの出会いを教えてください。
和田幾久郎さん(以下「和田」):父が高校・大学と山岳部に所属していたこともあり、私も幼いころからよく山に連れられていました。そういう点では、物心ついた時からアウトドアに接していたと言ってもいいかもしれません。
ーーアウトドアが当たり前にある環境だったんですね。
和田:そうなんです。でも、当たり前すぎてその価値にちゃんと気づけていませんでした。
ーーどういうことですか?
和田:高校1年生のとき、アメリカのシアトルへ留学する機会がありました。シアトルの中心街は都会だったので、それがうらやましいと現地の人に伝えると、 「大きい街を見たいなら、ニューヨークやロサンゼルスに行ったほうがいいよ。シアトルには、すぐそばに湖や山などすばらしい場所があり、暮らしの中に自然が溶け込んでいる。シアトルに住む私たちは、その環境を誇りに思っているんだ」 と返ってきました。誰に聞いても同じことを言う。自然とともに暮らすことが、シアトルの人にとっては大きな価値なんだと痛感したんです。
ナムチェバザール
約860㎡ある広大な店舗は2フロア構成。1階は主にキャンプ関連用品、2階はトレイル用品がズラッと並ぶ。テーブルやチェアを広げて実際の使用感もチェックできるのがうれしい
ーー都市と自然がうまく融合しているところだったんですね。
和田:振り返ってみると、私が暮らす茨城の水戸も同じ環境なのではないかと思ったんです。街中に住みながら何不自由なく生活でき、東京に出るのにもそんなに苦ではない。一方で、ほんのちょっとクルマで郊外へ行くと、アウトドアが楽しめる自然がたくさんある。シアトルでの留学を経て、水戸の暮らしを振り返ったとき、この環境はとても豊かなことなんだと思ったんですよ。
ーーシアトルでの暮らしから、水戸の魅力にあらためて気付いたんですね。それでアウトドアショップを開こうと?
和田:いえ、そうではないんです。もともと、私は大学を卒業して商社に勤めており、ゆくゆくは実家を継ごうと考えていました。実家は「祐月」という雛人形屋を営んでおり、創業は明治23年、2023年で133年目を迎える老舗なんです。
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和田:祐月を受け継ぐことで、雛人形という日本の伝統文化を守ろうと考えていました。しかし、それだけではなく、全く別のビジネスで経営を安定させる策も模索中だった。 それが1990年代の初めごろ、バブルが弾け、ちょうど第1次のアウトドアブームが叫ばれていたときです。アウトドアには家族で慣れ親しんでいましたから、何か始められるのではないかと思い立ったんです。

アウトドアの「道先案内人」として、道具の魅力とともに“体験する喜び”も発信する

ナムチェバザール
ーー「ナムチェバザール」という店名にはどのような由来が?
和田:「ナムチェバザール」はネパールにある村の名前なんです。そこはエベレストをはじめとしたヒマラヤ登山のガイドとして有名な「シェルパ」族の故郷としても知られています。私たちも茨城の自然やアウトドアの魅力への「道先案内人」になりたいという思いから名付けました。
ーー「道先案内人」、ここに来ればアウトドアの世界へ連れて行ってくれるような、ワクワクした響きがあります!お店に並ぶ道具選びにも、その思いは反映されていますか?
和田:アウトドア用品は厳しい自然から身を守る大切な道具なので、高品質なものは積極的に取り扱うようにしています。例えば、「アークテリクス」。今でこそアウトドアブランドとして高い知名度を誇っていますが、ブランド設立から間もない1990年の半ばごろから、クライミングギアを中心に私の店では扱っていました。 取り扱い始めた当初は価格が高くてなかなか売れませんでした。でも、私からすれば「安い」くらい。カナダの工場まで見学に行き、素材やデザインへの徹底したこだわりを間近で見て、この品質をこの価格で提供できるのは驚異的だと感じたんです。
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和田:日本で取り扱い始めたのは、私のお店が最も早いほうだったのではないかと思います。粘り強く取り扱い続けていた甲斐もあり、2010年代から一気に人気が爆発しましたね。今では、お店に並べるのに十分な在庫を確保するのが難しいくらいです。
ーー最先端で高品質のギアを扱い、お客さんに届けるのは、まさに「道先案内人」!
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サイズも色味も一本一本異なる「火吹き棒」(税込み1,980円〜)
和田:新しいギアだけでなく、地元ならではのものも取り扱っています。例えば、この火吹き棒は、水戸の竹を使って地元の作家さんに作ってもらったものです。一本一本太さも長さも異なり、使うほどに味が出る一点モノです。こういった地元ならではのものも扱うことで、茨城の魅力を発信したいとも思っています。
ーーそういえば、お店にはイベントの写真なども多く飾られていて、お客さんとの距離の近さもうかがえます。
和田:ものを売るだけでなく、買っていただいた道具をどう使えばより楽しめるのかという「ソフト面」も同時に提供したいと考えています。トレッキングツアーやクライミングスクール、カヤックツアーなどさまざまなイベントを開いてきました。さらに、そこへプロの講師を招くことで初心者も楽しめて、上級者にも学びがあるような催しにしています。
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2階フロアには登山やトレイルランなど山に関するギアの数々が。初心者向けから、プロ仕様の高機能なアイテムまで豊富な品ぞろえが魅力!
ーー店内にはアウトドア界の著名人のサインが飾ってありますね!
和田:登山家の三浦雄一郎さんには、お店の周年イベントに毎回お越しいただいています。父が三浦さんの冬山での写真撮影のお手伝いをしていたこともあり、親しく交流させていただいているんです。 また、日本三百名山を人力踏破した田中陽希さんとの2016年のイベントは凄まじかったですよ。500人近くのお客さんが集まり、お店には入りきらないので駐車場を会場にしたのですが、それでも満杯になってしまいました(笑)。
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店内には過去のイベントの模様や交流あるアウトドア著名人のサインが並び、愛されるお店の雰囲気が漂う

茨城の魅力をアップデートする「県北ロングトレイル」

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ーートレイルランにも力を入れているようですね?
和田:個人的にもトレイルランが大好きで、15年近く楽しんでいます。私が始めた当初は、トレイルランという言葉はまだありませんでした。日本のトレイルラン黎明期から携わっていたこともあり、多くの有名選手もお店を訪れてくれています。 今はトレイルランだけでなく、トレッキングにも力を入れています。特にトレッキングツアーは好評で、多くの方が参加してくださるナムチェバザールの恒例イベントになっています。
ナムチェバザール
数々の有名トレイルランナーも来店
ーーナムチェバザールのお客さんには、トレッキングの人気が高いんですね!その魅力とは?
和田:トレッキングは、他のアクティビティと組み合わせられるのが魅力ですね。トレッキングを行いながらキャンプをしたり、自転車に乗ったりと、他のアクティビティとの相乗効果で楽しさが倍増するんです。
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トレイルランやロングトレイルハイクにもおすすめのシューズ「スポルティバ カラカル」(税込み20,900円)。ミドルからロングディスタンスまで対応したオールラウンドなモデル
和田:第1次アウトドアブームと比べ、今のアウトドアブームはアクティビティを組み合わせて楽しむ人が増えてきたと思います。そういった点でもトレッキングは“今っぽい”と言えるかもしれません。
ーー茨城にはトレッキングを楽しめる場所が多いんですか?
和田:個人的に、茨城はトレッキングに最適な場所だと思っています。茨城には標高があまり高くない里山が多く、歩いてめぐるにはぴったりです。 そこで、日立、髙萩、北茨城、大子、常陸太田、常陸大宮の6市町からなる県北部のエリアをつなぎ「茨城県北ロングトレイル」というコースをつくるプロジェクトを進めています。全長320kmからなるトレイルの途中にはキャンプ、サウナ、自転車や星空を観察するスターゲイジングなどを行えるスポットがあります。 それに加え、何百年と続く里山文化がいまだに根付いており、トレッキングをしながその文化に触れることができます。トレッキングを中心にさまざまアクティビティを複合的に楽しめて、日本の素晴らしい歴史や文化を体験できるのは、「唯一無二」の環境です。
ーー茨城が日本に誇るアウトドアスポットになりそうですね!
和田:正直、茨城には有名な観光資源はありませんが、里山を歩き、そこで見る風景や地元の人との交流などは他では体験できない“観光資源”だと思っています。 2020年に本格的にプロジェクトがスタートし、まだまだやらなければいけないことはたくさんです。でも、ありがたいことに、県やお客さんも含めて多くの方がサポートしてくださり完成に向けて順調に進んでいます。2023年4月現在では100kmまで整備が完了しました。
ナムチェバザール
スタッフによる「地域密着型」の情報も満載!
ーー地元愛あふれる、スケールの大きなプロジェクトに期待が高まります!
和田:県北ロングトレイル以外にも、「OKUKUJI BASE CAMP」というキャンプ場を奥久慈エリアにつくりました。ここはソロキャンプをベースにしたキャンプ場で、ワーケーションスペースも併設しており、自然を感じながら仕事もできる新たなライフスタイルの提案も目指しています。 平日にワーケーションでキャンプをし、週末には県北ロングトレイルで汗を流す、というような日常とアウトドアがシームレスにつながるような楽しみ方をしてもらいたいですね。
ーーキャンプ場まで運営されているとは…ナムチェバザールを中心に、茨城のアウトドアが盛り上がってますね!
和田:アウトドアを楽しむのに、茨城は本当に最高の場所なんです。私が子どものころから遊び場としていたこの環境を、もっと多くの人にも体験したもらいたい。 そのための「道先案内人」としての役割を果たせるように、お店だけにとどまらない活動を続けていきます。そして、シアトルのように、茨城が「自然と暮らしが融合」した場所として、より多くの人が誇りを持って住める環境にしたいですね。

編集部のお買い上げアイテム

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スノーピーク 焚火台SR(税込み19,800円)
いち早くアークテリクスに目を付け、トレイルランという言葉がない時期からそのアクティビティを楽しむ。自らが、アウトドアの最新情報を仕入れて、それを世の中へ発信する和田さんの姿は、店名の通り「道先案内人」です。また、県北ロングトレイルの整備をし、トレッキングから茨城の可能性を拓く姿勢は、アウトドアと地元を心から愛しているからこそだと感じました。 そんな和田さんに「案内」してもらったのは、スノーピークの「焚火台SR」。ソロにちょうどいいサイズで折りたたみもしやすく、焼き網などをおけば調理にも向いています。安定感も抜群で、組み立てればびくともしません。スノーピーク定番の「焚火台」と差をつけたい人にもおすすめです。 いつものキャンプがマンネリ化してしまった人は、キャンプ+トレッキングという合わせ技に挑戦してみるのはいかがでしょう。茨城県北ロングトレイルなら、新しいキャンプの楽しみ方が見つかるはず。そのときは、ナムチェバザールにも立ち寄って、茨城アウトドアの「案内」を受けてみてください!
【基本情報】 住所:茨城県水戸市末広町2-2-7 電話番号:029-231-8848 営業時間:平日11:00〜20:00/土日祝日10:00〜20:00 定休日:水曜日 詳細はこちら:ナムチェバザール Instagramはこちら: @namchebazar
撮影/筒浦奨太

愛せるお店と出会おう。

全国の人気アウトドアショップのリアルな魅力にせまるインタビュー連載。オーナーの店づくりへのこだわりや、アウトドアに対する想いを聞き、つい訪れたくなる、ずっと通いたくなる理由を探ります。


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