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アウトドア職業図鑑

日本に生きる「キコリ」のリアル。年収500万、冬場は休職!?【アウトドア職業図鑑】

アウトドアを生業にしているあらゆる職業の人にインタビューする新連載「アウトドア職業図鑑」。第1回は、フリーランスのキコリとして北海道旭川市で活躍する清水省吾さんにフォーカス。荒れた山を3カ所復活させ、山のガイドやコーディネーターとして森と人をつなげたり、地域で木材の需要を循環させたり。愛するコウモリのため、極力「木を切らない」環境保全型の林業を担う、トッププレイヤーの勇姿をたっぷりご覧ください。

アウトドア職業図鑑【001.キコリ(木こり)】

森を守る、フリーランスのキコリが登場!

「大好きなアウトドアを仕事にできたら」。キャンプ好きなら一度は憧れるものですが、実際には「どんな職業があるのか」にはじまり「どうやったらなれるの?」「辛いことはないの?」「ぶっちゃけどのくらい稼げるの?」とわからないことばかり。 そこでhinataでは「アウトドア職業図鑑」と題し、毎月1人ずつ、アウトドアを生業にする人をピックアップ。仕事内容や生活の様子など、インタビューを通して紹介します。 今回登場してもらうのは、フリーランスのキコリ、清水省吾さん。キコリといえば、ざっくり言うと「山で木を切って木材を売る」。いわゆる林業従事者です。「なるべく木を切らない」「木登りも仕事のひとつなのに高所恐怖症」という前代未聞のキコリ、清水さんに、林業のイロハを教えてもらいましょう!
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フリーランス キコリ/里山部代表

清水省吾さん

北海道旭川市在中。環境保全型林業を行う「里山部」代表、北海道自伐型林業推進協議会の副代表理事、オサラッペ・コウモリ研究所の副所長を務める。現在3カ所の山を所有し、高所伐採や森林作業道作りの他、山のトータルコーディネート・ガイド、講師業など「顔の見えるオープンなキコリ」として多岐に渡り活動中。

詳細はこちら:里山部

キコリ5年目の清水省吾さんに徹底インタビュー!

きっかけは、大好きなコウモリを守るため

——キコリになったきっかけは? 清水省吾さん(以下「清水」):コウモリが好きで、大学生時代からコウモリの調査をしていました。そこで、倒木内をねぐらにしているコウモリを守るためには、今の林業では価値のない木も守る必要があると知ったんです。 そこで、コウモリが暮らせて人間にも木材を届けられるような、バランスのとれた環境保全型の林業をしようと決心しました。2014年に山を買い、フリーのキコリをはじめてちょうど5年目になります。
——フリーのキコリとはどんなお仕事なんですか? 清水:一般的な林業は「木を切ることと、木を植えること」になりますが、僕の場合は木を切る仕事はほんのごく一部。キコリと言っても、実は木を切らなくても生きていけるんです。年間10本弱、今年に入ってから、生きている木を伐ったのはまだ2本くらいかな。それも「旭川家具」というブランドですごく素敵なテーブルになっています。

森のストーリーが付加価値となる

清水:というのも、僕が切る木は、1本あたりの単価が普通の林業の20倍くらいの値段で売れるから。大きな市場の中に木材を出すのではなく、お客さんが来るまで木を森に育てて置いておくんです。木は日に日に成長し、太れば太るほど価値も上がるので、今無理に切らなくてもいいい。 市場に出すと「環境保全のためにやっている」という森のストーリーが付加価値になり、作り手もそれに共感し、高くても買ってくださいます。木を切るときは、僕の人件費と木材代を合わせて負担のないように値段の交渉をして、お互い納得したら実行する。「切った本数=売上」という商売にしていないので、圧倒的に環境保全と僕の労力削減になるんですね。
——売り手(キコリ)にとっても、買い手(家具メーカーなど)にとってもWin-Winなんですね!他にはどんなことをしていますか。 清水:所有者に手放されそうになった山を買い取って再生させる、という取り組みをしています。現代では、財産として山を所有していても相続税ばかりかさんでしまい、「お手上げ状態」となっている年配の山所有者が多くいるので、そういう方から安く山を引き取るケースが多いです。 僕は現在、3カ所の山を持っているのですが、それぞれ「木が細すぎる」「道が通っていない」「傾斜が強い」「水はけが悪い」など、林業するのにとってハンディキャップとも言える条件を抱えています。人間にとって都合の良い山だけを利用するのではなく、圧倒的なハンディキャップを背負った山をきちんと引き継ぐのが、僕ら世代の宿命で、これからの林業です。
清水:ハンディキャップを抱えた山というのは、森が混み合っていて、木が腐っているのから曲がっているのから混在していて、見てくれも悪い。普通の林業をしている人から見たら「100%再生不可能だ」と言われるような場所です。でも、そんな絶望的な山を、地域や若者と力を合わせて宝の山、地域資源と再認識できるようにするのが、僕の一番のミッションです。
——絶望的な山が宝の山になるなんて夢のようですが、すごく大変そうです…! 清水:でもやり甲斐はありますよ!正解がない中で、今3パターンのモデルを作っていて、将来的に他のキコリから相談が来たとき、その中から似たような事例として解決策を提案できるようになります。そうやってお金にならなくてもまずは買い取って、アイデアを生かすことで徐々に収入になるように動いています。
清水:一方ハンディキャップを背負っているということは、いろんなことに挑戦できるチャンスでもあるんです。僕はそういった山を、年間3,000円のフリーパスを発券し、ピクニックでもバーベキューでもキャンプでも、好きなことをして楽しんでもらえるよう一般の人に開放しています。 普段は山に入らない人ほど「気持ちいい」とか「気持ち悪い」とか、率直な感性で触れてもらえるので、いろんな人の意見を聞くことで、次の自分の仕事のアイデアが湧いてくるんです。

4人家族の生計を立てる“キコリ業”の内訳

①空と地上の単価の高い仕事で安定収入

——現状、生計はどう立てられているのでしょう?お子さんが2人いて、ご家族を養う収入は得られるのでしょうか。 清水:仕事はいくらでもありますよ!まず、空と地上で単価の高い仕事を得ています。「空」=木に登る仕事。たとえば家に木が倒れて来そうだから、木の先の枝だけ切るとか、いわゆる「高所伐採」は危険が伴うし単価が高い。
地上でいうと、僕は3トンユンボという小さな重機を使い、幅2.5mくらいの軽トラが通れるくらいの森林作業道をつける技術を持っています。町有林の放置されている山に道をつける委託作業、「森林作業道作り」も、特殊な技能なので単価が高いです。

②山コーディネート業

清水:放置されている山に人が入れるようにしたり、林業ができるようにしたり、生物多様性の場にしたり。出てきた材はどういう場所に送り、どういう人たちとコラボして、どんな商品を作った方がいいか、どこに売り出すか。そういったノウハウを共有して、山を起点にしたものづくりをトータルコーディネートをする仕事もしています。

まだまだある!フリーのキコリのお仕事

キコリ
清水:他にも幼稚園や高校の授業、大学の講演などの講師業や、山で林業を学びたい人のためのガイド業も行っています。ガイド業はかなり需要があって、1日平均15,000〜30,000円ぐらいは稼げますね。あとは切った木を薪にして販売したりなど。旭川で薪は飛ぶように売れていて、足りないくらい。薪の売り上げは年間60万くらいになります。 「庭の木を切ってほしい」とか「木に雷が落ちたから今すぐ来てほしい」などの依頼も多々。フリーなので電話一本で呼べる気安さもあり、いろいろな仕事が常に舞い込んできます。

冬の間、キコリ業はおやすみ!

——想像以上に仕事の幅が広くて驚きました。日々フレキシブルなスケジュールで動いていると思うのですが、年間のスケジュールはおおよそ決まっているものなのでしょうか。 清水:冬は雪がハンパなく積もることもあり、ほとんど仕事をしません。夏は休みなく働き、12〜4月は収入がないので、その期間は薪代でしのぎます。平均して、年間の収入は500万円くらいでしょうか。もちろん最初の一年は何もできないから、100万円も稼げなかったです。少しずつ、自分の技術を高めて、単価の高い仕事をどれだけやるかで収入を安定させています。

地域で循環させる、キコリの仕事

キコリ間より、異業種とのコミュニケーションが大事

——収入を上げるのに、努力されたことと思います。お仕事はどうやって増やしていったのでしょう? 清水:一年目に、山でひとりで薪割りしていても誰にも気づかれないことに気がつきました(笑)。そこでSNSをはじめて、「木や薪を売ってますよ」と発信したら、木を欲しがっている人たちが意外にもたくさんいて。カフェのインテリアで使う白樺の細い枝が10本欲しいとか、個人の作家さんの作品の材料にとか、木を小さく細かく、おしゃれに使いたい人たちのニーズを、僕は受けられたんです。 そこから、口コミでお客さんはどんどん増え、テレビや新聞、雑誌に取り上げられてグンと認知度も上がり、何も営業しなくても仕事が入ってくる状況が生まれました。
——清水さんがロールモデルとなって、フリーのキコリが増えるでしょうね。 清水:「自伐型林業=環境保全型林業」を、旭川でやり始めたのは僕が最初なんです。ひとりモデルができることで、みんなのフリーのキコリへの疑問や不安が解消されたと思います。ただこれからは、若手のキコリ同士のコミュニティよりも、地域の製材会社とか、観光客、ものづくりをやっている人たちなど、木を使って生きる異業種とのコミュニケーションが大事になってきます。
清水:先日、建築士さんとタッグを組んだときは、家を建てるのに、なるべく新しく木を伐らずに、家具だけは裏の山の木を使おうとか、僕の山には適した木がないから隣町のキコリに頼もうとか、飛ぶようにアイデアが生まれました。そうやって地域間で仕事を回せるし、地域で木を使って生きている人たちを巻き込んで、情報交換するコミュニティの方が、みんなにとってメリットがありますよね。
——北海道以外でも、清水さんのようなフリーのキコリと、木と関わる人のコミュニティが増えていくといいですね。 清水:札幌や東京からも、デザイナーさんなどが話を聞きに来たりしますよ。いろんな人たちが関わって、産業も環境保全も地域のコミュニティも生まれるような、豊かな林業にしていきたいです。 ただ、地域ごとにしっくりくる林業が理想。東京と旭川ではしっくりくる林業が違います。無理にコミュニティを作るのではなく、若者が自由に山に入り、そこで気づいたことを行動し、受け入れられる地域性が大事なんですよね。プレイヤーが増えれば独自の林業が生まれます。
自分の発想で行動し、自分で解決できる。自分の好きなときに、好きなスタイルで山に入る。フリーの林業のいいところです。全国各地でそうやって生きるプレーヤーが増えて行けば、その地域ごとで刺激になる。そんな状況を作るのが理想的です。
——キコリになる素質があるのは、どのような人ですか? 清水:キコリの仕事には「王道」というものがないので、今までなかったけどやってみようとか、チャレンジ精神がないとまずできません。森が好きで趣味でやるならともかく、きちんとお金を稼ぐとなると、自分のアイデアを生かす行動力が試されます。自分で考えて行動ができ、マルチに自然の中で生きていきたいという人には、向いている職業だと思いますよ。

やはりできるだけ「切らない」のが理想

顔の見える、オープンなキコリ

——多岐にわたるお仕事の中で、やり甲斐や楽しいと感じるのはどんなときでしょうか。 清水:森で出会った人が森に関わってくれることですかね。自然を介して、たくさんの人とつながれるのはうれしいことです。そういった意味では顔の見える、オープンなキコリとして活動できるガイドだったり、自分の山を貸し出す仕事かな。
とくに印象に残っているのは、自分のガイドを受けた女性のお客さんが、今の仕事のパートナーになったこと。彼女は夏休みに、東京から旅行で北海道を訪れたとき僕の山に遊びにきて、キコリになることを決めました。毎年夏の期間だけ北海道に来て、高所恐怖症の僕に代わって木登りの仕事をし、おかげで僕は安心して地上の仕事ができます。
——高所恐怖症でいらしたのですか!そのパートナーの存在は心強いですね。逆に、嫌な仕事、本当はやりたくない仕事ってなんでしょう。 清水:コウモリ保全のために、できれば木を切りたくないです。どうすれば切らなくていいかいつも考えています。もちろん環境のために木を切ることが必要な場合もありますけどね。

子どもの情操教育に山はもってこい

山との対話で感情にメリハリがつく

——ふたりの息子さんを小さなころから山に連れていかれていますが、たくましく育っている実感はありますか? 清水:9歳の長男は1歳のころから山に連れて行っています。天気がよければ保育園帰りに毎日山へ直行し、夕方まで遊んで帰ってくる。そうやって幼少期を過ごしたおかげで、彼は山に詳しく、喜怒哀楽にメリハリがついたと思います。 たとえばカエルを触って気持ちよかったのか、気持ち悪かったというのも、ダイレクトに自分に跳ね返ってくる気づきと発見です。親がやらせるのでなく、自分で好きなようにやってごらんと言い、あとは見守るだけで、勝手に何かを持ち帰ってきてくれるんですよね。
清水:山での時間は、人間の感情を構成する上で、とても大事な要素が詰まっていると思っていて。今自分が生きている地域と自然環境から、「楽しい」や「怖い」といった、親が教えられないことを全部吸収できるのは、貴重な体験だなと感じています。
——他人に左右されない、芯のしっかりした子になりそうですね。都会で育つ子どもたちも、やはり時折自然に触れ合うことは、心身の成長につながりますね。 清水:はい。ただ、僕も年に一度くらいは都会に行きたい気持ちもありますよ。いろんな人たちと会って刺激を受けられるのが、都会の魅力ですよね。なので、山でわいわい友達と遊ぶのがベストなのかなあ。都会の遊びも森の遊びも両方必要なんだと思います。
——子どもにとっても、友達から受ける刺激は原動力になりますものね。近い将来、やりたいことはなんですか。 清水:早くキコリをやめたいです(笑)。僕がやめたときが、一番安心できる林業の世界があるはずなので。するべきことは仲間集めですかね。田舎で暮らしたい、山をいじりたいという人がいたら、その人が動けるようにサポートしたいです。木が育つのは500年とか、圧倒的に長い年月が必要なので、到底一人では継続できるわけがない。
山が荒れ果てたときは、人が入って林産物を出せばいいけど、僕の山のようにあらかたきれいになったところは、もうするべきことがほとんどない。次の自分のやりたい仕事を見つけて、休日は林業、平日は別の仕事みたいな働き方にシフトしていくと思っています。そんなふうにマルチな働き方ができる社会が、普通になればいいですね。

アウトドア職業図鑑

「大好きなアウトドアを仕事にできたら」。キャンプ好きなら一度は憧れるものですが、実際には「どんな職業があるのか」にはじまり「どうやったらなれるの?」「辛いことはないの?」「ぶっちゃけどのくらい稼げるの?」とわからないことばかり。 そこでhinataでは「アウトドア職業図鑑」と題し、毎回1人ずつ、アウトドアを生業にする人をピックアップ。仕事内容や生活の様子など、インタビューを通して紹介します。



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