【バンブーシュートのヤバいギア】街でもアウトドアでもギミックが光るマウンテンパーカー
外遊びを楽しみながら提案し続ける。「バンブーシュート」ディレクターが語ったショップとアウトドア
2024.07.30ライフスタイル
東京・中目黒川沿いに店を構えて25年以上。アメリカのアウトドアブランドをメインにセレクトし、独自のシーンを作り上げてきた「バンブーシュート」。オープン当初は店長として現場に立ち、現在はディレクターを務める甲斐一彦さんにお話をうかがいました。多くの人がアウトドアを「着ていた」90年代シーンからアウトドアに「出かける」ようになった2000年代以降、どんなことを考え、実践していたのでしょうか。
制作者
池上隆太
月刊男性ライフスタイル誌編集長を経て、フリーランス。川と滝と海が好き。キャンプで作る無水カレーがカレーのゴールだと信じています。忘れられないキャンプ場は野呂ロッジ、好きな飲み物はお酒、ベストジブリは「海がきこえる」、摂りたい栄養はスルフォラファン。きゅうりが苦手。
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もくじ
バンブーシュート ディレクター 甲斐一彦さん
1973年生まれ。埼玉県出身。1998年からスタートしたショップ「BAMBOO SHOOS(バンブーシュート)」のディレクター。古着店で働いた後、25歳で店長としてオープンから携わる。ショップでの仕事をし始めてから、アウトドアフィールドにも出かけるようになり、現在も山でのアクティビティを楽しんでいる。キャンプをするなら、もっぱら野外の音楽フェス。
「意味」があるデザインの服がかっこいい
――バンブーシュートで仕事するまでもファッションやアウトドアに関わる仕事をしていたのでしょうか?
甲斐一彦さん(以下「甲斐」):店長としてバンブーシュートに入ったのは1998年でした。その前は渋谷の古着屋で働いていたんです。よくフリマとかに参加していて、いわゆるビンテージの古着をいっぱい買っていて。自然と古着のカルチャーに入っていきました。
――当時はどんなトレンドでしたか?
甲斐:ヘビーデューティーといわれる、フィルソンだったり、シエラデザインズであったり、アメカジの文化が流行っていたときですね。その後、GORE‑TEXのようなハイテクな機能を搭載したマーモットとかACGとかが出てきていて…。90年代のおもしろいアウトドアものは今見ても新鮮だと思います。
――甲斐さんが考える古着の魅力とは何でしょうか?
甲斐:ビンテージのディテールって、「意味」がありますよね。例えば、デニムのインディゴには虫よけや蛇よけの意味があったり、チェーンステッチならタフさの担保だったり。軍モノのディテールも全部意味がありますよね。ただ見た目ではなく、そういう意味を持つディテールがデザインとしてかっこいいなと思うんです。
――バンブーシュートでアウトドアブランドをフィーチャーしたのもその流れがあるのでしょうか?
甲斐:たとえば、ラグジュアリーなブランドのダウンジャケットよりも、ザ・ノース・フェイスやフェザードフレンズのようにフィールドで実用的な機能が備えられているダウンメーカーもののほうがいい、って昔、通っていたショップ店員さんに教わりました。
そんな見方でセレクトしていたら、あるお客さんに出会ったんです。「こういうものを売っているってことは、山も行っているの?」という話になりまして。その頃、山には行っていなかったので、「教えてもらえませんか?」とお願いして、クライミングに誘っていただきました。
アウトドアウェアは好きでも、フィールドに出るのはハードルが高かった
――クライミングからアウトドアへ出かけるようになったんですね。
甲斐:ハイキングやキャンプはレジャーとしてなんとなく経験できるじゃないですか。そうではないクライミングはなんかかっこいいな、なんて思いもあったと思います。
その頃の自分にとって、アウトドアブランドは好きでも、アウトドアスポーツは敷居が高かったんですよ。山を登るなら、山岳会のようなものに入るべきなのかとか考えましたし、もちろん山の道で迷ったりだとか、危険なことも頭に浮かびますし。あまり気軽にやれるものではない気がしていたんですね。僕の場合は教えてくれる方に出会えたのでよかったのですが。
――実際に山へ行ってみて、楽しかったですか?
甲斐:体力には自信があったんですが、今までやってきたスポーツとはまったく違うスポーツでした。使う筋肉も違うので、筋肉痛になったり、膝が痛くなったり。ただ、やっぱりそこでしか見られない景色や、そこまで行く行程は面白いと思いましたね。
――山へ行き始めてから、仕事になにか影響はありましたか?
甲斐:自分がいいなと思うものを実際に現場で試していくようになりました。
――実際にフィールドで試して、ちゃんと使えるものか判断していくような…。
甲斐:見た目だけではない機能とか素材を理解していくという具合ですね。
ブランドのバックボーンを意識しながらセレクトを
――クライミングでいうと、ロックスとコラボしたクライミングパンツもリリースされていましたね。
甲斐:そうですね。バンブーシュートはオープン当初からアメリカのアウトドアブランドをセレクトしています。もともと、ワイルドシングスとチャムス、オーバーランド イクイップメントなどをメインに始まりました。
――パタゴニアのイメージもあります。
甲斐:パタゴニアは自分の中でも存在が大きくて。3年ぐらいかけて仕入れられるようになりましたね。
アメリカのアウトドアブランドをそろえながら、このブランドはどういうアウトドアのカテゴリの洋服を作っているのかな、ということを意識していました。
ワイルドシングスだったらクライミングですし、オーバーランド イクイップメントだったらバッグですが、トラベルやハイキングから始まって…みたいなことですね。そういうふうにブランドのバックボーンを楽しむようになったのがバンブーシュートに入ってからです。
30代は考えながら遊ぶ時期だった
――遊び方も変わりましたか?
甲斐:バンブーシュートは僕が25歳のときにオープンしているんですけど、ちょうど都会で遊ぶのも楽しいけど、中目黒といった都心から少し離れている土地柄もあって、自然の中で遊ぶことにも興味が出てきたときでした。
移動は自転車だったり、健康にも気を使い始めた頃です。今思えば30代なんてまだまだ若いんですけどね。いろいろ考えながら遊ぶ時期でした。
自然やアウトドアで過ごすことに興味がわいてきたときに、このお店に入って、この仕事をやるきっかけになったので。とてもタイミングがよかったと思います。
ファッションとアウトドアは、それぞれの延長線上に
――普段のファッションとアウトドアで着る服は違いますか?
甲斐:いえ、自分が普段好きなスタイルと同じスタイルで山に行きます。いつもオーバーサイズのものを着ているので、山に行くからといって、ジャストフィットなものとかを着るわけでもありません。色もそうですね。山だからって派手なもの着るわけじゃなく、街で着ているものと同じ色です。
――アウトドアで遊ぶ中で、印象的な体験はありますか?
甲斐:時間の流れは全然違いますよね。山のほうがゆっくり進むのですが、時間が経つのがしっかりわかるんです。あと何分でどこどこに着くとか、昼ぐらいには山荘に着きたいとか、次の場所に何時までに行きたいとか。時間を意識しながら歩きますよね。あと、日が暮れれば真っ暗ですし。都会だと、日が暮れても電灯や明るいお店もいっぱいあるので、あまり気にならなかったりしますから。
最近は仕事を考えず、ただ山に没頭できるように
――いろいろなアウトドアに触れてきた経験やバンブーシュートでの仕事が、人生に与えた影響はなんでしょうか?
甲斐:バンブーシュートをやらせてもらったきっかけが、アウトドア、外遊びにハマるきっかけですからね。
物の良さを伝えるために山に行って、山で遊んで。そうやって山で過ごすことが、ここ3、4年でようやく趣味に変わってきましたね。
――それまでは純粋に山を楽しむというより、仕事のことも考えざるを得なかったということですね。
甲斐:お店を開けて3年から5年ぐらいは、そのとき流行っているものを置けばよかったんです。でも、時が経てば流れも変わってくるわけですよね。
そもそもバンブーシュートができたときは、アウトドアをするのではなくて、着ていることがかっこよかった時代なんです。パタゴニアの年代ものを着ているとか、めずらしい色のものを着ているとか、白タグを持っているとか。それがだんだん変わってきて、アウトドアがファッションとしては受け入れられなくなった後が大変でした。
――どう対応されたんでしょうか?
甲斐:誰それ構わず物を売るのではなくて、ちゃんとハイキングだったり、アウトドアをしている人たちに洋服を届けないと先がないなと思ったんです。だから、自分でも山を登ったり、いろいろなことをしましたね。
山に向かい、山を意識したラインナップを
――登山もクライミングと同時に始めたんですか?
甲斐:山を登るのがおもしろくなったのはわりと後のほうですね。店舗でゴーライトというブランドの取り扱いが決まったときに「トレイルランニングやアドベンチャーレースというカルチャーに基づくブランドだよ」ということで「じゃあ、山を走ってみよう」とトレランにも挑戦しました。全然走れなかったんですけどね(笑)。
そこから、ちゃんとハイキングもしようと思って、お店でお客さんを募って、ツアーも始めました。
――ツアーではどんな山を登ったんですか?
甲斐:最初は奥多摩の川苔山だったと思います。ちょっと集めすぎて、30人ぐらいで山を登ったんですよ。そうしたら、それぞれのペースがあるから、全然下山できなくて。帰りは真っ暗でしたね(笑)。でも、そうやって、なんとなく山に軸足を置きながら見せ続けてかないといけないという思いがあって。それが15年ぐらい前ですかね。
――お店で扱う商品も山寄りに?
甲斐:けっこう山のものをそろえていたのが2014、15年ぐらいでしょうか。大きめのバックパックだったり、ガス缶とかバーナー、寝袋やテントなども販売していました。
――オリジナルの服も製作されていましたよね。
甲斐:そうですね。自分たちが着たい普段着をテーマにつくり始めたのが2017年からでした。
キャンプブームは意識せず、変わらないスタンスで
――コロナ禍はキャンプブーム到来の時期でもあったと思いますが、そのシーンをどう見ていらしたのですか?
甲斐:お店でキャンプ用品をたくさん扱っているわけではないので、あまりうまく言えませんが、キャンプ場の予約が取れないとか、隣のテントが近いなとか、どんどん新しいキャンプブランドが出てきたりとか、そういうところで盛り上がってるな、と感じていました。
――山だけでなく、キャンプもされるんですね。
甲斐:音楽フェスが好きなので、朝霧ジャムみたいなキャンプインフェスに出かけてキャンプすることはあります。ただ、テントで寝るのもそんなに得意じゃなくて。あとは虫が苦手で(笑)。行くなら虫が出ないなるべく寒いときがいいのかも。焚き火やキャンプ飯をつくるのは好きですよ。
おもしろいものや外遊びをどんどん提案をしていきたい
――現在も山には行かれるんですか?
甲斐:行っています。でも、節目みたいなときがあって。3年前、友人と奥穂高岳に登ったんですよ。仕事やお店のことは関係なく、ふと「山に行きたいな」と。
行ってみたら、やっぱりおもしろかったんですよ。クライミングをしたり、トレランもやってみたり。昔やっていたことが今またおもしろく感じて。今はその延長線上のテンションで過ごしています。
だから、この春から「山登りのための」洋服を、少しずつでいいからつくっていこうと動き出していて。BAMBOO SHOOTS MOUNTAIN JOURNEYというページで、その経過を伝えています。
今後のキャンプやアウトドアシーンへの思いを教えてください。
甲斐:もっともっと盛り上がって行けるよう、おもしろいものや外遊びをどんどん提案をしていきたいですね。
撮影/薮内 努
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