【キャンプの極意は天気にあり】気象キャスター・矢澤剛さん伝授!天気の急変を知らせる空のサインを見逃すな
キャンプの行方を大きく左右する天気。当日が近づくにつれ、天気予報の確認に神経を尖らせる方も多いのではないでしょうか。しかし、必ずしも予報通りとはいかないのが、天気の怖さとおもしろさ。今回は気象キャスターとして活躍する矢澤剛さんから、天気の急変に備え、危険から身を守る方法を学びます。キャンプ場選びのポイントや予報の効果的な見方など、全キャンパー必見です!
キャンプ中、空を見上げてみよう!天気のプロに教わるキャンプ術。
気まぐれな天気とうまく付き合いたい!
キャンプ前の恒例と言えば、天気予報とのにらめっこ。キャンプ場のある山あいや海沿いは、街と環境が大きく異なるため、天気にも一層注意したいところですよね。キャンパーなら、誰しも晴天を願うもの。でもせっかくの休日、多少天気が悪くても、「絶対にキャンプがしたい…!」という方も多いのでは?
そんなみなさんに、キャンプ中の天気との向き合い方や、空を見上げる楽しみを紹介するこの企画。気象キャスターとして活躍し、キャンプを愛する「天気のプロ」に、空のいろはを教わります。
今回は、天候の急変に備え、悪天候から身を守る方法を特集。天気とうまく付き合うことで、より安全で快適なキャンプを目指しましょう!
【気象予報士・防災士】矢澤 剛さん
気象予報士・防災士
矢澤剛さん
茨城県守谷市出身。
幼い頃から空を見上げるのが好きだったことから、気象予報士を目指す。
現在、東北・宮城県で気象キャスターとして活躍中。
キャンプをはじめ、アウトドア遊びが趣味。好きな空は夏の入道雲。
――どうして気象予報士になろうと?
矢澤さん:幼い頃から空が好きで、よく眺めていました。中高とハンドボールに打ち込んできたので、スポーツ系の大学に進学することも考えたのですが、理系科目が得意だったこともあり、進路には悩みましたね。きっかけとなったのが『13歳のハローワーク』という本。空が好きな自分には気象予報士という選択肢もあると知り、目指す決意をしたんです。気象を学べる学部に入学し、勉強の末、資格を取得しました。
――「空を見上げるのが好き」というのは、趣味にされているアウトドアにも通じていそうですね。
矢澤さん:空の下で過ごすのは大好きです。特にキャンプは、のんびりと空を見上げて過ごすことができますよね。
――キャンプにはどのくらい行かれるのですか?
矢澤さん:仕事が休みの日を狙って、2週間に1度ほどです。デイキャンプと泊まりのキャンプと、半々の割合で楽しんでいますね。キャンプ好きの仲間たちと過ごす至福の時間です。
キャンプ前、天気予報はどのようにチェックする?
降水確率だけで判断するのは危険。キャンプ場選びはどうすれば?
――早速ですが、天気予報はいつチェックしたら良いのでしょうか。
矢澤さん:ご存じの通り、天気予報の精度は直前になるほど高くなります。週間予報の段階では、主に「天気・気温・降水確率」の大まかな予報しか出ません。時間ごとの細かい天気の変化などは、直前までわからないことが多いんです。予報精度が高くなってくるのはおおよそ3日前なので、その段階で天気が良好そうなキャンプ場を選び、前日や当日にもこまめに予報をチェックして、最終判断するのがベストです。
――天気予報には様々な項目があります。何に注目したら良いのでしょうか?
矢澤さん:私が特に重視するのは、天気と降水確率ですね。ただ降水確率は、捉え方が難しくて。というのも、場所によってかなり変わってくるんです。例えば、「宮城県東部」の降水確率が30%だったとします。これは東部全体の確率なので、一般的に平地よりも雨が降りやすい山間部では、もっと高い確率で雨が降ると考えられます。そこで天気予報を見る時に注意して欲しいのが、週間予報の際の気象予報士の言葉。「~曜日まで雷雨に注意が必要です」や「大気の状態が不安定です」などと言っているのを聞いたら、山あいは特に、悪天候に注意してください。雨雲は山から発生することが多いんです。
降水確率はもちろん参考にしてほしいですが、一概にそれだけで判断するのは危険ですね。
――天気予報を見極めて、キャンプ場を選ぶのが望ましいと。
矢澤さん:雷雨の危険があるようだったら、山の方のキャンプ場は避ける。逆に風が強そうなら、海の近くのキャンプ場は避ける。そうした場所選びが、少なからず効果的だと思っています。
目安は、「風速10m、降水量10mm」
――しかし、人気のキャンプ場は直前予約が難しい場合もありますよね。
矢澤さん:キャンセル料がかかってしまったりと、直前での変更が難しい場合も当然ありますね。キャンプを決行すべきか中止すべきか判断する際は、特に風速と降水量に注意してください。
――風速は、どのくらいになると危険なのですか?
矢澤さん:目安として、風速10mを考えてください。気象庁の基準で言うと、風速10m以上で「やや強い風」という言い方になります。
街路樹の全体が揺れるようなレベルなので、テントを設営するのはかなり難しく危険。
――では、降水量の目安は?
矢澤さん:「1時間に10mmの雨」で、「ザーザー降り」と感じるイメージです。20mmになると、夕立のような土砂降り、30mm以上になると、「激しい雨」で、道路の冠水が起こったり、川の水位が一気に上昇したりします。
キャンプ決行を判断するなら「10mm」以上の雨がひとつの目安。「30mm」以上になると、川沿いのキャンプは非常に危険。命を守るために避難する、という選択肢が出てくるレベルなので、基本的には見送るべきだと思います。
キャンプ中、悪天候に見舞われたら。
天候の急変を察知する
天気予報がどんなに良くても、天候の急変は避けようがありません。特に夏場のキャンプ場では、突然の雨や雷に襲われることもしばしば。
――天候の急変を察知する方法はありますか?
矢澤さん:晴れた暑い日、特に湿度が高く「もわっ」とした日は、午後から天気が崩れることが多いので注意してください。
また、雷の予兆として、「①音が聞こえる ②黒っぽい雲が見えてくる ③急に冷たい風が吹いてくる」の3つがあります。特に音が聞こえたら、もう危険な状況。雷雲がかなり接近しています。「雷の音が聞こえてからの秒数によって危険性を判断する」なんて話もありますが、秒数関係なく、雷の音が聞こえたら避難行動に移ってほしいです。
雷から身を守る術とは
――雷から身を守るにはどうすれば?
矢澤さん:避難法として最も安全なのは、建物、特にコンクリート作りの建物に入ること。もしそういったものがない場合は、応急措置として、車の中に入るのも有効です。車は電気を地面に逃がしてくれるので。
――やはり木の周辺は危険なのでしょうか?
矢澤さん:木に落雷があると、枝を伝って電気が飛んでくることがあります。そのため木の真下からは直ちに離れてください。あくまで最終手段なのですが、他の方法で安全が確保できない場合、木のてっぺんを45度以上の角度で見上げる範囲で、木から4m以上離れたところが「保護範囲」と言われ、その範囲内で姿勢を低くすることが対処法です。
川沿いキャンプでも有効な雨雲レーダー
――雨天時、特に危険なのが川沿いのキャンプですよね。
矢澤さん:自分の真上では雨が降っていなくても、川の上流側で激しい雨が降っている可能性があります。川の水に濁りがある時は、上流でかなり降っていることもあるので、注意してください。小さい川ほど急激に水位が上昇します。
――上流での雨の状況はどのように把握すべきですか?
矢澤さん:電波が通じる場所であれば、「雨雲レーダー」で上流側の天気を確認するのが効果的です。数時間先の雨雲の予測まで見ることができるので、今いる場所と合わせて、上流側の天気を確認してみてください。その点では、事前にキャンプ場周辺の土地勘を持っておくことが大切ですね。
もし電波が通じない場所なら、上流側の空模様を見てみてください。どす黒い雲がかかっていたり、雷の光が見えたりしたら危険信号です。
雲の見分け方をレクチャー!
高く、横に広がる雲に要注意
――雨を降らせる雲と降らせない雲の見分け方はありますか?
矢澤さん:まず、雲の「色」に注目してください。雨雲に覆われると、空は灰色になったり黒っぽくなったりします。明るい雲が弱い雨を降らせることもありますが、ゲリラ豪雨クラスになると、空はどす黒く、暗くなります。
それから、雲の「広がり方」にもヒントがあります。大気は、私たちが暮らす地表から高度約11kmまでの「対流圏」と、その上の「成層圏」などに分けられるのですが、雲が成長できるのは「対流圏」までなんです。そのため、対流圏と成層圏の境界に到達すると、今度は横方向に成長を始めます。高く、横に広がっているのが「積乱雲」で、激しい雨を降らせる雲になります。
――「積乱雲」がゲリラ豪雨を降らせるのですね。
矢澤さん:はい。モクモクとした綿のような「積雲」から、「入道雲」のように発達し、「積乱雲」になるというのが一連の流れです。
天気のプロも実践する、技ありキャンプ術講座
サイトの選び方
矢澤さん:天気が悪くなりそうなときは、安全を考えて川の近くと崖の近くにはテントを張らないようにします。足元が悪くなる土のサイトも避けるのが無難ですね。その意味では、キャンプをする前日や前々日のキャンプ場の天気を調べて、地面状況を確認しておくことも大切です。冬場は、雪が残っているかどうかにも気を配ります。
タープの張り方
矢澤さん:タープを張る時は、太陽の動きを考えてみてください。チェックイン時間がお昼頃のキャンプ場も多いと思いますが、太陽は南から西に傾いていきます。南向きにどーんと張るよりも、少し西に向けて、自分達が作業をするスペースが長く日陰になるようにするとベストです。
紫外線、侮るなかれ
矢澤さん:紫外線は、標高が高くなるほど強くなります。そのため山間部でのキャンプでは、平地以上に紫外線対策に気を配ってください。直射日光だけでなく、照り返しにも注意が必要で、タープの中にいるから大丈夫というわけではありません。曇りの日でも、晴れの日の約60%の紫外線が降り注いでいるとされているので、油断は禁物です。
後編は、空を見上げる「楽しさ」を徹底解剖
人間の思い通りにはいかない天気ですが、天気予報や雨雲レーダーをうまく活用し、正しい知識を持って空を観察することで、危険を回避できます。安全で快適なキャンプを楽しむ人は、空をよく知る人なのかもしれません。
次回(9月18日公開)の後編は、空を見上げる「楽しさ」に注目。気象キャスター矢澤さんイチオシの気象現象や、綺麗な星空や夕焼けを見るためのコツを伝授します。お見逃しなく!