「冬キャンプが快楽に変わる!」薪ストーブの選び方。寒さとの攻防戦がついに決着!〜準備編〜
キャンプ場に落ち葉が目立ち始めるころ、続々とあらわれるのが、アウトドアに「はびこる」寒さと戦うキャンパーたち。その中でまん延しているのが、一度その快適さを知ったらやめらない「薪ストーブ」というぬくもりギアだ。「もうテントから出られない!」。愛用者のつぶやきはいまや全国に広がる。そこには「私は大丈夫」という過信が生み出す、手軽さのワナも。薪ストーブ24時。これは薪ストーブの伝道師が、選び方から準備、設営、撤収までの注意点を紹介する記録である。
薪ストーブでついに決着!寒さ攻略に密着
薪ストーブのプロが執念の解説!
キャンプは時代を反映する鏡。コロナ禍の今、今年も冬キャンプがさらに活況を見せようとしている。ただ、人間社会がどうなろうと、やつらだけは変わらない。そう、冬の「寒さ」だ。
しかし、近年の冬のキャンプ場では、テントの外に出した煙突からモクモクと煙を出し、その寒さとの戦いを楽しんでさえいるキャンパーの姿が目立つようになってきた。今や厳冬期の北海道でも、冬キャンプは選ばれし者だけの娯楽ではない。その敷居を低くしたのが、薪ストーブだ。
薪ストーブの熱き男が呼びかける魅力と正しい使用法
多くの薪ストーブの輸入、開発を手掛ける国内代理店アブレイズ(神奈川)。ここに人一倍、キャンパーの薪ストーブの普及と安全な使用の注意喚起に力を注ぐ、熱きキャンパーがいる。牛澤駿介さん。28歳。キャンプ場でオフィスで家で、常に薪ストーブのことを考え続け、その良さを伝えようとするキャンプ業界の若き伝道師だ。
今回は牛澤さんの薪ストーブライフに密着。薪ストーブの選び方から、準備の仕方、設営、撤収のコツまでを聞いた。
【薪ストーブのプロのプロフィール】
牛澤駿介(うしざわ しゅんすけ)さん
アウトドアアパレル会社などを経て、薪ストーブの輸入を手掛けるアウトドア専門商社「アブレイズ」に入社。今年は猛暑日が続く8月からすでに薪ストーブの販売で多忙な日々。最近はテントサウナがブーム。神奈川県出身。
薪ストーブで冬の楽しみ方が変わる!
キャンプ暖房の勢力図に動きあり
冬キャンプの暖房器具といえば、着火と持ち運びが楽な灯油ストーブが定番。しかし、その勢力図に今、変化が起きようとしている。そう、薪ストーブ派の台頭だ。薪ストーブのプロである牛澤さんはその背景について、次のように語る。
牛澤駿介さん(以下、牛沢):薪ストーブは、煙突でテントの外に二酸化炭素を排気しているので、テント内の空気が澄んでいるんですよね。これはアウトドアで家のように快適にこもる冬キャンプならではの『おこもりスタイル』に向いています。何よりも、テントの中で、暖かく火遊びができるというのが、街中では感じられない非日常の世界があり、灯油ストーブでは実現できない魅力です。
焚き火好きが陥りがち。「炎が楽しめない」は思い込みだった!
忘れてはならないのが、炎をながめながら暖をとりたい「焚き火派」の存在だ。「日々の疲れの癒やしは、焚き火の観賞にかなわないでしょ」。そんなことを言うキャンパーが多くいるのも、牛澤さんは承知している。
牛澤:確かに、焚き火で温まるのは、人類が歴史とともに親しんできた手段。ただ、キャンプで「温まる」という視点でみると、焚き火はどうしても背中のほうが寒いんですよね。それと、キャンプの醍醐味の一つが、焚き火の観賞ではありますが、最近の薪ストーブでは暖炉のように大きな窓で炎をながめられるモデルが多く出ています。もちろん、煙の匂いがつかないのも薪ストーブならでは。癒やしとぬくもり。この両方を与えてくれるのが、薪ストーブなんです。
「料理」「あたたかさ」「炎の観賞」。重視する軸を決める
国内ポータブル薪ストーブの火付け役「Gストーブ」
▲(左から)ANEVAYのThe Frontier Plus Stove、GストーブのHeat View、WTG(Work Tuff Gear)のWork Tuff Stove500
今やキャンプ向けのポータブル薪ストーブも戦国時代。国内外の多くのブランドがさまざまな種類を展開している。牛澤さんが解説のために持ってきてくれたのは、特徴が異なる3モデル。
その中でも抜群の知名度を誇るのが、ノルウェー発のアウトドアブランドで、国内のポータブル薪ストーブの草分け的存在である「Gストーブ」。とくに、Heat Viewは薪ストーブを考えるときに、必ず選択肢に入ってくるモデルだ。
牛澤:キャンプ市場に薪ストーブがほとんどない段階で、約7年前からアブレイズで取り扱いをしているモデルです。ステンレス製で火が入ると熱で色は変わりますが、へこんだり、変形することはない長年の実績があるからこそ、キャンパーにはおなじみのモデルになっています。
詳細はこちら:
Gストーブを見るサイドのガラス面で心もほっこり
では、Gストーブを買えば、冬キャンプの悩みはすべて解決するのでは──。そう思うのは早計。牛澤さんによると、現在の薪ストーブ事情は、そう簡単ではないらしい。先頭を走るGストーブの姿を捉えた存在こそ、台湾のアウトドアブランド、WTG(Work Tuff Gear)のストーブWork Tuff Stove500だ。
牛澤:
より焚き火的に薪ストーブを選びたい人たちは、フロントとサイドに大きなガラス面のあるモデルを選ぶようになっています。弊社の取り扱いのモデルでみれば、火の温かさを視覚的にも楽しめるWork Tuff Stove 500です。
WTGの詳細はこちら:
Work Tuff Stove 500を見る薪ストーブのプロはココで選ぶ!
牛澤さんが3モデルを持ってきてくれたとはいえ、これは市販されているモデルのごくごく一部。ファミリーやソロ、デュオなどのキャンプスタイルだけでなく、持ち運びが「大型車か軽自動車か」、保管が「一軒家か共同住宅か」などのそれぞれの事情を加味して決める必要がある。
次には、牛澤さんに、選ぶ上でのポイントを聞いた。
「ステンレスですか」「スチールですか」。迷えるキャンパーからの通報への答えとは?
薪ストーブといっても、素材や重さ、大きさ、収納性、燃焼効率など、選ぶポイントはさまざま。自分のキャンプスタイルに必要な要素を見極め、理想の一台を選ぶ必要がある。とはいえ、それが難しいのも事実。本格的な冬の訪れを前に、自分のキャンプスタイルに合った薪ストーブの全貌をつかめないキャンパーが毎夜のように、スマートフォンの前にあふれかえっている。
▲イギリスと発のアウトドアブランド「ANEVAY(アネヴァイ)」は、アフリカなどの発展途上国向けに薪ストーブを開発していたブランド。The Frontier Plus Stoveはスチール製で、スタイリッシュなデザインでテント内をおしゃれに演出
まずは薪ストーブの基礎。「そもそも、どの素材から選べばいいのか、よくわからない」という不満だ。「とりあえず、ステンレスにしておけばOKでしょ」と思ったら、必ずしもそうとは限らない。
牛澤:蓄熱性は、スチール(鉄)の方が高いです。つまり、それだけ放射される熱があるので、本体から暖かさを感じやすくなっています。ただ、夜露や雨に濡れるアウトドアでは、さびやすく、メンテナンスが必要なので、最初の一台にはステンレスが選ばれる傾向にはあります。
煙突の素材はスムーズな排気にも影響
▲薪ストーブの定番とされるステンレス製の「Gストーブ」
牛澤さんによると、スチール製の方がステンレス製より温度自体は高くなるが、上がるまでに時間がかかる。ステンレスは温度が上がりやすいため、炉内の温度が400~500度まで比較的早く上がるので、煙突での排気もスムーズだ。
牛澤:薪ストーブは、煙突の付け根部分が一番温度が高くなります。ステンレスの温度が高くなりやすいというのは、煙突の温度も高くなりやすいということ。あたたかい空気が上がるドラフト(上昇気流)現象がおこりやすく、スムーズに煙を排出しながら、十分な空気を燃焼室にもたらします。
2kg強の薪ストーブも存在
スチール製は、煙突温度が上がるまで時間がかかる。特に、寒さの厳しい北海道や東北地方、甲信越や本州山間部では、煙突の温度が上がる時間に影響を受けやすいので、立ち上がりに少しコツがいるという。
牛澤:スチール製の方が熱伝導率自体はいいのですが、寒い季節は外気の影響を受けやすく、煙突の温度が上がりにくいです。もちろん、家庭用の薪ストーブのように本体や炉、煙突の直径も大きいものであれば、炉内で燃やされる火力も高いので、煙突も高温を維持しやすくなります。ただ、効率的な燃焼という点では、全体的に本体や煙突が大きくなってしまうのが難点です。
さらに、素材の違いについて、牛澤さんはこう続ける。
牛澤:煙突の温度が低いことでタールやススが付着しやすくなってしまうこともあり、素材の違いは薪ストーブ選びで無視できません。スチール、ステンレスと紹介してきましたが、軽さを重視したい人ならチタン。Pomolyという国外ブランドやテンマクデザインが重さ2キロ強のものを出しています。
軽いチタンの薪ストーブは、バックパッキングスタイルのキャンプや、北欧ではノルディックスキーをしてキャンプをするときに使う人がいるそうだ。
牛澤:国内でその持ち運びやすさと薪ストーブのあたたかさを遺憾なく発揮できる場所は北海道ぐらい…。ただ、本州でもコンパクトさを重視するツーリングのキャンパーには最適な選択肢かもしれません。
大きさと収納性
灯油ストーブにはない煙突があるだけに、なんとなく収納性や持ち運びが大変そうなイメージを持たれがちな薪ストーブ。収納する様子をみれば、意外とコンパクトにおさまることが分かる。
牛澤:基本的には本体に煙突が収納できるものがほとんど。大きさは一般的な円筒形の灯油ストーブとほとんどかわらないので、オートキャンプでの持ち運びに困ることはありません。ただ、一般的にキャンプ場で販売されている長さ40cmぐらいの薪がすっぽり入る長さは必須です。理想的には、広葉樹の直径15cm前後のものが入る余裕があるといいですね。
▲同じ広葉樹の薪を入れたときの違い。上がGストーブ
▲下がWTGのWork Tuff Stove 500
GストーブとWTGで炉の大きさを比べてみる牛澤さん。Gストーブの炉内がギリギリで、ほとんどいじる余裕はない。これに対し、WTGはまだ半分ほどの余裕がある。薪割りの手間もなくなる点は、大きな薪ストーブに分がありそうだ。
そのぬくもりと癒やし、焚き火台以上。
サイドの窓で暖炉気分
Work Tuff Stove 500の説明で、窓の癒やしについて説明してきたが、窓ガラスには注意すべき点もある。
牛澤:窓は、北海道のキャンパーが厳冬期に使用し、外と炉内の気温差があり過ぎて割れてしまう事例が報告されています。扱いはデリケートになりますが、Work Tuff Stove 500のサイドに採用しているガラスは水に濡れても割れない特別な仕様で、ストーブ天板の調理でも安心。ガラスの耐久性もよくみて選ぶようにしましょう。
もちろん、ガラスは炎の観賞以外のメリットも。
牛澤:ガラス素材はよりダイレクトに放射熱を感じられます。ちなみに、窓は、すすがついて炎が見られなくなると思っている人もいますが、炉内の炎で焼かれるので、その問題はありません。
二次燃焼の波が薪ストーブにも到来!
▲Gストーブの一般的な薪ストーブの炉内。底は丸みがあるので、空気の流れが妨げられないような構造になっている
焚き火台では一般的になった「二次燃焼」。一次燃焼で燃えきらなかった煙(可燃ガス)を高温の空気(酸素)で燃やし、薪の完全な燃焼につなげる構造だ。薪ストーブでもその波が来ている。先述したWork Tuff Stove500もその代表的なモデルの一つ。
牛澤:Work Tuff Stove500は、炉内で二次燃焼を起こす独自の構造のため、薪の燃焼効率がよく、より高温になります。最近はキャンプ人気で薪の価格が高くなっていることや、乾燥が不完全な薪が増えていることを考えると、二次燃焼も判断のポイントになっています。煙や残る灰の量も少ないので、お手入れが楽なのが特徴です。
快適さを決めるのは本体より「煙突」?
煙突は「自立」する厚みを選ぶ
煙突は伸ばさないと、温かい空気が上がるドラフト現象がうまく起こらないのは上述の通り。
牛澤:安価なモデルには、ペラペラな素材の自立しない煙突があります。つまり、それだけ煙突が短くなってしまいます。煙突を伸ばさないと、ドラフト現象がうまく起きないので、本体だけでなく、実際に厚みのあり、煙突だけで自立するぐらい頑丈なものを選ぶようにします。煙突は細すぎると煙が外に出ない「逆噴射」が起こりやすいので、直径6.5cmより大きいものを選びたいところです。手前味噌ながら、Gストーブはちょうど6.5cm。これぐらいなら慣れていなくても燃焼がうまくいきます。
テントは煙突の穴があっても火気厳禁??
▲ヘルスポートの薪ストーブ幕の定番バランゲルドーム。中央に薪ストーブを配置することで、全体にあたたかさを感じられる
牛澤さんは今回、ノルウェー発の高品質ブランド「ヘルスポート」のバランゲルドームを使用。玉ねぎ型のテントの頂上部から出た煙突が、冬キャンプでは圧倒的な貫禄を示している。
牛澤:メーカーによっては、煙突を入れるとしか考えられない穴を配置しながらも、火気の使用が禁止されているものもあるので、注意が必要です。ほとんどの人がテント内で使っているのが現状ですが、基本的には自己責任での使用となります。難燃素材のテントであっても、燃えない、穴が空かないというわけではないので、過信は禁物。寝ながら使っている人も多くいますが、幕に引火してやけどをした事例もあります。寝るときは使わないのはもちろん、一酸化炭素チェッカーも忘れないようにしましょう。
煙突ガードプロテクターは必須
本体と煙突のほか、幕を守るために重要な役割を果たすのが、煙突プロテクター。牛澤さんは、愛幕の保護以外にも、意外な用途があることを教えてくれた。
牛澤:テントに触れる部分はメッシュ状の煙突プロテクターをつけます。これをつければ、接する部分が「ほのかにあたたかい」と感じるぐらいで、テントの生地が守られます。ファミリーキャンパーでは、小さな子どもが触ってしまわないように、煙突プロテクターを煙突の下部から装着する人も増えていますよ。
オプションで選ぶ薪ストーブ
▲Gストーブ専用のケトル。一番あたたかい煙突付近で、天板を邪魔せずに配置できる
▲Gストーブ専用のトースター。煙突の間に設置すると、コンビニのパンも絶品ベーカリーの味!
薪ストーブは、冬キャンプの楽しみの幅を広げてくれるオプションの充実度でみるのも重要だ。
牛澤:Gストーブが長年人気なのは、そのオプションの豊富さにもあります。煙突部分の熱を利用したトースターのほか、煙突の半円に沿ったケトルなどを展開。灯油ストーブ同様、常にお湯がある状態でキャンプが楽しめるので、お湯割りで体の中から温まれます。
寒い季節が楽しくなる。薪ストーブの「戻れない世界」へ!
空間全体を柔らかくあたためてくれる「薪ストーブ」。癒やしの暖房の良さを知っていても、そのためだけに家を購入したり、移住したりするのは、現実的ではない人がほとんど。だからこそ、キャンプでの薪ストーブがその夢をかなえてくれる。
次回、牛澤さんが設営から撤収までの意外なコツを紹介。一度知ったら、もう戻れない薪ストーブの世界。そこに待っているのは、寒い季節が楽しくなってしまう「ぬくもり中毒」だ!