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スノーピーク副社長に直撃!アーバンアウトドアの先駆けとなったアパレルの舞台裏【ブランドラブ】

2022.07.01ノウハウ

アウトドアブランドに勤める方にブランド愛をうかがう連載企画「ブランドラブ」。第4弾は、「スノーピーク」が展開するアパレルにフォーカス。今回は、スノーピークの副社長を務めながら、自らアパレルのデザインを手掛ける山井梨沙さんに、アパレルを展開した際の裏話など、たくさんお話をうかがってきました!

アーバンアウトドアが流行中

流行中のおしゃれなファッションスタイル「アーバンアウトドア」。街で着ていても傍から見てアウトドアブランドとは分からないほど、おしゃれに着こなせるアパレルが増えてきました。街行く人を見ていても都会的なアウトドアファッションをよく見かけるようになり、アウトドア好きのみならず、幅広い層に浸透してきたことを感じます。
そんなアーバンアウトドアスタイルの先陣を切ったのがスノーピーク。2014年から自然指向のライフスタイルを提案するアパレルを展開しています。
「自らもユーザーである」という創業以来の原点に基づき、自然指向のライフスタイルを提案し、実現することをミッションとして掲げているスノーピーク。そんなスノーピークが展開するアパレルのラインナップは、日常とアウトドアとの境界線をつくらない『HOME⇄TENT』というコンセプトを基に、街でもアウトドアでも着用できる、おしゃれで高機能なものばかり。 今回は、スノーピーク 代表取締役 副社長 CDO でありながら、自らアパレルのデザインを手掛け、プロダクト全般の統括のほか、「LOCAL WEAR」プロジェクトなど、新たな試みも率先して牽引されてる山井梨沙さんにインタビューを敢行。スノーピークのアパレル部門を自ら立ちあげた山井さんの、並々ならぬ想いとこだわりに触れることができました。

アパレルへの徹底したこだわり

「実際に自分で触ってみて、本当に気持ち良いと思えるものしか使ってません」

━━━ 最近、街でもスノーピークのウェアを着ている方をよく見かけるようになりました。ぜひ、手応えなどおうかがいできればと思います! 山井:ありがとうございます。中でも定番になってきたこの「フレキシブルインサレーション」シリーズは、特に街中で見かけるかもしれませんね! ━━━ はい、男女問わず、よく見かけます! 山井:フレキシブルインサレーションシリーズは、とにかく肌触りにこだわっていますし、着回ししやすいのも、男女ともに人気がある理由かもしれません。スノーピークがアパレルを始めた2014年から継続で販売していて、カーディガン、プルオーバーなど、モデルも様々ありますからね。
山井:着てもらえれば分かりますが、裏地の触り心地がとても優れていて、ストレスがないんです。また、ストレッチ性が高いので、着たまま寝袋に入っても苦になりませんし、私自身パジャマ代わりに着ることもあるほどです。 ━━━ 本当だ!すごく軽いし、肌触りも良い!生地にこだわりが感じられますね。
山井:特に着心地にはこだわっています。生地選定の段階から、実際に自分で触ってみて、本当に気持ち良いと思えるものしか使っていません。着心地は、快適さに関わる重要な要素ですからね。

「最初に仕入れてくれたのはアメリカのバイヤーさんだったんですよ」

━━━ 発売当初から、反響は大きかったんですか? 山井:実は、今でこそ受け入れていただいていますが、発売当初は、日本のバイヤーさんからの風当たりが強くて。「スノーピークがアパレルなんて、アークテリクスが鍋を作るようなものでしょ」と言われたこともありました。 ━━━ それは大変でしたね。発売当初は、まだスノーピークはキャンプ用品のブランドだというイメージが強かったのかもしれませんね...。 山井:ただ、自信になったこともあります。スノーピークのアパレルを最初に仕入れてくれたのは、実は、日本ではなく、アメリカのバイヤーさんだったんですよ。アメリカは、新しいブランドだったとしても、フラットに本当に良いものかどうかを評価してくれるので、アメリカのバイヤーさんが買ってくれた時は、「自分の目指している方向は間違っていない」ととても自信になりましたね。

「一般的なアパレルにも使える素材へ落とし込むために2年かかりました」

━━━ 昨年、難燃素材の「テイジンコーネックス・ネオ」を活用した独自素材を開発されましたよね。着想から2年かけたとうかがってとても驚きました! 山井:着想から商品に落とし込むまでには、半年から1年でできるものもあれば、5年10年かかるものもありますね。「テイジンコーネックス・ネオ」は、焚火用のウェアを作りたいって思って帝人さんと共同開発した難燃素材です。当時、難燃性の素材というと消防や工事現場のワークウェアにしか使われていなくて。一般的なアパレルにも使える素材へ落とし込むために、だいたい2年ぐらいかかりました。

「サンプルが上がってきたら、まず自分で着用して生活してみます」

━━━ スノーピークは、社長をはじめ社員自らギアのフィールドテストを行うことで有名ですが、アパレルでもテストのような事をしているのでしょうか? 山井:その点は、ギアと同じ考えです。発売の1年前にサンプルが上がってきたら、まず自分で着て生活してみます。私の場合は出張が多いので、飛行機や新幹線などで移動するときにも、快適性を損なうことがないかなど、四六時中気にしていますね。その甲斐もあってか、お客様から「海外出張へ行くときは、絶対スノーピークのアパレルでないとダメなんです。」という声をいただくこともあり、ありがたい限りです。 ━━━ キャンパーに限らず、幅広い方々が使っているんですね! 山井:最近でも、私が表参道店に顔を出した時に70代の女性がいらっしゃって、「この前買ったズボンがすごく良かったからもう1本ほしいのよ、これを履くと足が楽で。」と言ってくださって。世代を超えてスノーピークのアパレルに良さを感じてもらえているのは、とても愛しいですね。アウトドアにとどまらず、生活を豊かにするお手伝いができているんだなぁと感じて、すごく嬉しかったです。

初期からのコンセプト『HOME⇄TENT』への想い

「自然の素晴らしさやキャンプの可能性を再認識したんです」

━━━ スノーピークのアパレルのコンセプトである『HOME⇄TENT』は、どのような経緯で決まったのでしょう? 山井:このコンセプトは、私の実体験が元になっています。私のキャンプデビューはかなり早くて、父でもある社長が30年前にキャンプ事業を始めたこともあり、ギアのフィールドテストを兼ねて、物心が付く前から毎週末キャンプに連れて行かれていました。「ユーザー目線で、本当に欲しいものをつくる」というのがスノーピークの大事にしている信条なので、それを幼いころから肌で感じてきました。 ━━━ 毎週末!小学生時代などは特に、ゲームで遊びたい年頃だったのでは...? 山井:そうだったかもしれません(笑)。でも、週末のキャンプが家族らしい時間を過ごせる唯一の時間だったので、楽しい思い出ですよ。キャンプ事業を始めた頃の父はすごく忙しくて、平日は家にいないことがほとんどだったので。物心が付いたころには、もはやアウトドアを生活の一部のように感じていましたね。
━━━ アウトドアを生活の一部に感じる幼少期...!ファッションへの興味はいつ頃から? 山井:ファッションへの興味は小学生の頃から持ち始めて、自分で服を作ったりもしていたほどです。ただ、そうこうしているうちに忙しくなってしまい、中学2年生を最後にだんだんとキャンプから足が遠くなっていき...。社会人になってからは、アウトドアから離れてファッション業界へ進んだのですが、繁忙期は翌朝まで働くほど仕事に打ち込んでいました。 ━━━ ファッション業界はやはり大変なんですね...。
山井:人から受けるストレスも強くて、段々と自分の人間性が失われていくのを感じていたんです。そんな時に、スノーピークの本社がキャンプ場を併設した「Headquarters」へと移転し、そこに友人たちを連れてキャンプをしに行くことに。久しぶりに自然の中に身を置いてみたら、身体の中からワーッと元気になるのを感じて。登山などのアウトドアはハードルが高くても、キャンプはみんなが気軽に楽しめますし、自然の素晴らしさやキャンプの可能性を再認識した瞬間だったんです。 ━━━キャンプに行くと、自然の力を痛感しますよね。ストレスも疲れも吹き飛ぶような...! 山井:そうなんです。この経験から、私の大好きなファッションを通して、アウトドアの経験がない人でも、キャンプや自然に近い存在になって欲しいという想いが生まれて、アパレルでは『HOME⇄TENT』というコンセプトを掲げたというわけです。

「街でもアウトドアでも着られる服ならアウトドアがよりライフスタイルに浸透するのでは」

━━━街と自然をつなぐ『HOME⇄TENT』というコンセプトは、スノーピークのアパレル発足当時からお持ちだったんですね! 山井:そうですね。アウトドアから離れて、しばらくファッション業界にいたので、客観的にアウトドア業界を見れたのがすごく良かったなと思います。その当時のアウトドアウェアというと、トレッキングなどのアクティビティを目的としたアイテムがメイン。街で着ることに抵抗がある方も多いだろうと感じるアパレルばかりでした。
━━━ ストリートファッションがよほど好きでないと、普通のアウトドアウェアはアウトドア以外では着ないかもしれませんね...! 山井:例えば、週に5日街で仕事をして、週末はアウトドアに出かける生活を送るとして、その週末のためだけにアウトドアウェアを買うのは生産的じゃないな、と思うんです。普段着る洋服にアウトドアの機能があれば、仕事をする平日も、アウトドアを楽しむ土日も、同じ服で済んでしまうわけですから。そんな街でもアウトドアでも着られる服なら、街だ自然だと境界線を設けてしまうこともなく、アウトドアがよりライフスタイルに浸透するのではないかという想いがあって。それがそのまま『HOME⇄TENT』というコンセプトになっています。 ━━━ たしかに、「アウトドアにはアウトドア専用の服を用意しなければいけない」という固定観念がなくなれば、アウトドアのハードルも低くなるかもしれません。それに、正直、スノーピークのアパレルは少し高価だなと感じていたのですが、休日だけでなく平日も着れるウェアだと思えば、決して高い買い物ではなくなりますね!

「お客様と直接お話するのが、一番想いが伝わりますから」

━━━ 新しい挑戦の多い山井さんですが、コンセプトや想いを広げるために、現在取り組んでいることや、これから取り組もうと考えていることはありますか? 山井:今年は、北海道から九州まで全国の店舗を周ろうと思っています。今までもできるだけ店舗に顔を出して、お客様とコミュニケーションをとるようにしていましたが、それをさらに強化しようと!やはり、お客様と直接お話するのが、一番想いが伝わりますから。 ━━━ それは、すごいですね!山井さんが店舗にいたら、絶対びっくりします!(笑) 山井:スノーピークが、スノーピークウェイを毎年必ず行っているように、お客様の生の声を聞いたり、ブランドの芯をしっかり伝えていくことが大事だと思っているので。少しずつでも、輪を広げていければいいなと思っています。

スノーピークが展開するアパレルのこれから

「日本のアウトドアブランドとしてあり続けたい」

━━━ キャンパーからの信頼度が高いスノーピーク。それだけに、「スノーピーク」というブランドを背負ったアパレル展開は、プレッシャーを感じたりしなかったんですか? 山井:不思議とプレッシャーは感じませんでした。「アウトドアをしたことがない人に、アパレルを通じて野遊びの素晴らしさを伝えたい」という使命が明確に自分の中にあったことと、自分がやりたいこと=スノーピークがやるべきことだったので、自然と受け入れられたのかもしれません。
━━━ 今回のインタビューの中でも様々なこだわりを感じましたが、他にも大事にしていることがあれば、教えてください! 山井:そうですね、「日本のアウトドアブランドとしてあり続けること」は今後も大事にしたいと思っています。例えば、欧米のアウトドアというと、ホテル代がもったいないからテント泊をするといったスタイルで、日本とは違い、目的がレジャーではないんです。そんな中、スノーピークが作ってきたのは目的がレジャーにある、日本のアウトドア文化。違う文化だからこそ、それぞれの文化に無理に合わせるのではなく、スノーピークのアパレルを通して、日本の文化を世界に発信していきたいですね。 ━━━ 今後は海外にも力を入れていく予定なのですか? 山井:そうですね。スノーピークとしては、海外はもう10年以上展開していますが、ファミリーキャンプだとか、自然を通してのコミュニティーをより浸透させるために、スノーピーク全体で、これからはもっと海外にも力を入れていこうと考えています。実は、今年は社長がアメリカに拠点を移すんです。それだけ、本腰を入れるということです。 ━━━ そうなんですか!?これは、「Snow Peak USA」にも期待大ですね!

「デザイナーとして関わるのは、2020年春夏が最後になるかもしれません」

━━━ 先程、1年前にサンプルが上がってテストをするとおっしゃっていましたが、今はまさに2020年春夏のアパレルをテストしているんですか? 山井:まさにそうです!実は、私がメインのデザイナーとして関わるのは、この2020年春夏が最後になるかもしれません。 ━━━え!!そうなんですか!?
山井:今年1月から副社長になりましたし、社長もアメリカに行ってしまうので...。スノーピークのDNAを残したまま、デザインは他の若いデザイナーに任せて、私は会社の未来を創る仕事をしていく予定です。ただ、デザインをすることは自分の中で一番好きなことですし、思い入れのあるローカルウェアやアウトドアキモノなどに関しては、今後もできるだけ頑張っていこうと思っています。 ━━━ 2020年春夏に、どんなアイテムが並ぶのか必見ですね。最後に読者の皆さんに伝えたいことはありますか? 山井:すでにアウトドアの魅力を知っている方が多いと思うので、「アウトドアの楽しさをもっと周りに伝えてほしい」ですね。純粋に楽しいということを周りに伝えてほしい。そうすることで、たくさんの方の人生がアウトドアによって豊かになっていくんじゃないかと考えています!

まとめ

ブランドラブ第4弾は、スノーピーク副社長を務めながらも、アパレルのメインデザイナーとして活躍する山井梨沙さんのブランド愛をうかがいました。海外にも力を入れていくスノーピークと、今後のアパレルコレクションが楽しみですね!第5弾のブランドラブではどのブランドの、どのようなお話をうかがうことができるのでしょうか。次回もお楽しみに!


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