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アウトドア職業図鑑

自然とつながり、自分自身も自由になる!子どもたちの「野遊び先生」の仕事とは【アウトドア職業図鑑003】

「仕事もプライベートも外遊び」なんて生活、とても豊かで楽しそうですが、実現している人を見つけました。しかも、子どもたちと森を歩いたり、道を作ったり、川遊びをしたり。自分も子どものように本気で遊び、思い切り笑う。アウトドアを生業するあらゆる職業の人にインタビューする連載「アウトドア職業図鑑」。第3回は、「自然と人をつなぐ」をミッションに生きる女性の仕事、紹介します。

アウトドア職業図鑑【003.野遊び先生】

OSOTO代表/MOKKI NO MORI 共同代表 渡部由佳さん

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「大好きなアウトドアを仕事にしたい」。キャンプ好きなら、そう願う人は少なくないはず。でも、「趣味を仕事にするにはどうすればいいのか」「アウトドアで本当に食べていけるの?」と一歩踏み出すのは難しいものです。そこでhinataでは「アウトドア職業図鑑」と題し、毎月ひとりずつ、アウトドアを生業にする人をピックアップ。仕事内容やプライベートの様子など、インタビューを通して紹介します。 今回登場してもらうのは、親子で学べる自然体験プログラム「ちきゅうのがっこう」を主催するOSOTOの代表であり、檜原村の会員制アウトドアフィールド「MOKKI NO MORI」共同代表を務める渡部由佳さん。「自然と人をつなぐ」仕事のやりがいや大変さ、檜原村での暮らしや気になる収入面についても教えてもらいました。
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OSOTO代表/MOKKI NO MORI共同代表

渡部由佳さん

「自然の中でこそ本当の自分、本当の笑顔に出会える」ことを子どもたちへ伝えるべく、2018年7月に株式会社OSOTOを設立。檜原村を舞台に、親子向けの自然体験プログラムを展開する「ちきゅうのがっこう」、2021年10月にオープンした会員制アウドアフィールド「MOKKI NO MORI」を中心人物として運用中。

自然と人のつなぎ役が、主な仕事

予約殺到!?親子参加の自然体験プログラム

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——代表を務めるOSOTOでは、今どんなことをしていますか? 渡部由佳さん(以下渡部):メインでやっているのが、親子向けの自然体験や探究学習を目的とした「ちきゅうのがっこう」。市川力さんという、教育本もたくさん出版されている人気の先生と一緒にカリキュラムを組み立てたり、プログラムを企画・実施しています。以前は、不定期でワークショップを開催していましたが、今年の5月から前後期制の年間プログラムにし切り替え、現在前期のプログラムを進行しているところです。
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——ちきゅうのがっこう(以下ちきゅう)のプログラムは、具体的にどのようなことをするのでしょうか 渡部:大きくは3つのプロジェクトがあります。ひとつ目が、自然の中を歩き、自分が出会った興味関心をまとめる「マイ図鑑づくり」。次に家族で春夏秋冬のリズムを感じながら自然に寄りそい、得た気づきを記録する「家族暦づくり」。そして檜原村にみんなで集まり、のこぎりで木を切ったり、泥だらけになりながら作業する「森の道づくり」。それらを同時進行で、まずは半年に渡り行っていきます。
——自分や家族の新しい発見がありそうですね。現在参加されているご家族はどれくらいるのでしょう 渡部:フィールドプログラム5回・オンラインプログラム3回すべて参加の「よりそいプラン」と、都度参加の二形式で運営しています。前者が4組、後者がプログラムの内容によって変動する感じです。 先日、第3回の「森の道づくり」を実施したのですが、日帰りということもあり、スタッフ含め約70名もの人が集まりました。想像以上の参加人数で、急遽予定していた道づくりと前回整備した川の観察に加え、基地作りも増やし、3つのチームに分かれて活動しました。
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——そんなに!当日のオペレーションも大変そうですね。広く告知や宣伝などをされているんですか? 渡部:市川先生の教育方針に興味がある現役教師の方などがお手伝いに来てくださり、スタッフだけで10名はいるので当日の人手は割と足りています。参加者とのやりとりや、事前準備などの雑務はほぼ私ひとりで行うので、それが少し大変ではあります。 宣伝に関しては、有料の広告を出したり、SNSで大量に発信をしているわけではありません。親子参加の自然体験には、それだけでとてもニーズがあるのだと感じています。
▼ちきゅうのがっこう、川遊びワークショップの様子はコチラ

MOKKI NO MORIでは、コミュニケーションと雑用全般担当

——会員制アウトドアフィールド「MOKKI NO MORI」(以下モッキ)は3人で共同代表をされていますよね。渡部さんの役割は? 渡部:まず、他の2人の役割からお伝えすると、東京チェンソーズの青木さんが木こりでもあるので、フィールドの整備をしてくれています。コンポストトイレのお世話や薪を集めたりと、現場担当といった感じです。もうひとりの男性、清田さんはモッキのHP制作や、ロゴのデザインディレクションなどクリエイティブまわりを担当。 モッキのやっていることは原始的ではありますが、より多くの人に届くよう、かっこよくアウトプットしてくれるのが彼の役割です。
渡部:そして、私はその他雑用含めすべてを担当。見学会に来てもらえるようにSNSで発信して集客したり、会員さんのフェイスブックグループにモッキの近況を投稿したり。イベントの企画から告知、当日の現場の仕切りもやります。役割としては、コミュニケーション担当ですかね。あとは会社なので、経理といった事務仕事もあります。
——そうすると、意外とPCの前に座っている時間も多いのでしょうか。 渡部:平日は基本、娘を保育園に預けている9〜16時に集中して事務作業を片づけます。ちきゅうのプログラムもモッキのワークショップも週末開催することが多いので、逆に土日はほとんど外にいますね。

自然にやさしくあれば、ストレスから解放される

収入と支出のバランスが取れた暮らし

——OSOTOとモッキの収入はそれぞれどれくらいなのでしょう?お答えいただける範囲で… 渡部:面倒なので率直にお答えします(笑)。OSOTOの役員報酬が、創業当時から2万円。モッキは10万円なので、合わせて12万円です。これ1本でやって行くには少々心もとない額ではありますが、ありがたいことに、旦那さんが会社員で収入が安定しているので、家計的には困りません。役員報酬は、もう少し増やしていくことも可能なのですが、必要な分だけ受取り、あとは会社にプールすることにしています。
——都内で、時短勤務しているお母さんの手取り額と同じくらいでしょうか。でも、檜原村なので家賃や住宅ローンなどの負担が少ないとか? 渡部:はい。今住んでいる一軒家は賃貸ですが、庭と離れつきで約4万円です。それでも村の人には高いと言われますが(笑)。夫は週の半分は離れでリモートワークをしていて、昼休みに夫婦で川に下りリフレッシュしたりと、暮らしは快適です。

3.11で自然を守りたいと再認識

——以前の行政書士という堅めのお仕事から、現在の自然をテーマにしたお仕事をされるきっかけは何だったのでしょう 渡部:昔から波乗りが趣味で、福島の海にも夫婦でよく出かけていたのですが、特別な場所だったいわきの海岸も3.11で大きな被害を受けて。慣れ親しんだ自然の遊び場が、永遠ではなくなる瞬間を目の当たりにして、失う悲しみと同時に、守りたいという気持ちが芽生えました。
渡部:そのとき、自然と人とがもっと繋がるべきだ、とも感じたんです。小さなことでも繋がれば、自ずと「守りたい」「大切にしたい」という気持ちが生まれると思って。そういった意味では、ちきゅうもモッキも同じ「自然と人をつなげたい」というのが根本にありますね。
——「自然と人をつなげる」。身近なようで、とてつもなく壮大な気もします。やりがいのあるお仕事だと思いますが、困難に感じることはありますか? 渡部:自然を相手にしているので、どうしても不測の事態に見舞われたり、怪我のリスクはつきものです。ちきゅうのプログラムやモッキのワークショップを行うとき、スタッフにこう言うんです。「リスクをゼロにする方法がひとつだけあります」。
渡部:それは「やらない」という選択。怪我や事故などのリスクをゼロにするには、実施しなければいいんです。でも、私たちはやりたい。参加するみなさんにも、チャレンジしてほしい気持ちがあるので、リスクを取りつつもどううまく提供していくか。バランスが難しいところですし、それは毎度悩みますね。

「なんとなく、とりあえず、ひたすらに」。Feel度Walkしよう

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——「我が子にさせたい自然体験とは?」をテーマにされていますが、自身のお子さんの成長のご様子はいかがでしょう。ママのお仕事への理解はありますか? 渡部:ちきゅうのプログラムに参加させたりしているので、なんとなくはわかっていると思います。ただわりとインドア派で、私が期待したほどには、野生化はしていないですね(笑)。強いていうなら、「センス・オブ・ワンダー」は強いかなと。
ちきゅうに、「フィールドワーク」にかけて“Feel度 walk(フィールドウォーク)”というプログラムがあります。自然でも町の中でも、感度を上げて歩き、何気ない風景や景色から不思議だなとか、おもしろいなとか、嫌だなとか。そういった感覚を受け取る時間を大切にしよう、というものです。娘は地面にいる小さな虫をしゃがみこんでじっと見ていたり、穴があったらのぞき込んでみたり。Feel度(感度)は高いな、と親ながらに感じます。
——都会で生活していると、五感が鈍る感覚はありますね。最近は、幼児期に視力の落ちる子が多くて驚きます。 渡部:喧騒の中にいると、余計な音を聴き入れないように聴覚が閉じていくのかもしれません。都会から来た親子が、檜原村で過ごしていると、五感がどんどん開いていくのがわかります。数日いると、帰るころには表情も変わっていて。年間を通してちきゅうのプログラムに参加すれば、違いがハッキリすると思いますよ。

自然が先生。他人の評価は気にしない!

——自然に関わることや、アウトドアを仕事にする秘訣はなんでしょうか。 渡部:私の場合、プライオリティが高いのは、とにかく「自然を守りたい」「自然と共にありたい」それと、「自然を大事にしてくれる人を育てたい」ということ。それが軸にあるので、他人のことや、人からの評価は気になりません。子どもたちにも、いつも「自然が一番の先生!」と教えています。
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自然は言葉を発してはくれないけど、自然が「うれしい」と感じることを1つひとつやっていけたらいいなと思っています。そう思うと、ストレスから解放されます。アウトドアが本当に好きってそういうことでないでしょうか。そういう人なら、きっと無理なくアウトドアを仕事にして、楽しく生きていけますよ。

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「大好きなアウトドアを仕事にできたら」。キャンプ好きなら一度は憧れるものですが、実際には「どんな職業があるのか」にはじまり「どうやったらなれるの?」「辛いことはないの?」「ぶっちゃけどのくらい稼げるの?」とわからないことばかり。 そこでhinataでは「アウトドア職業図鑑」と題し、毎回1人ずつ、アウトドアを生業にする人をピックアップ。仕事内容や生活の様子など、インタビューを通して紹介します。



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