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アウトドア界で異彩を放つ「JAMおじさん」の正体とは?トレンド追わず、対面にこだわる名店マウンテンジャム
2021.06.30ライフスタイル
トレンドに流されない、アウトドアの名作ギアをすすめてくれる「JAMおじさん」が九州にいるらしい─。アウトドア好きの間に流れる噂を聞きつけ、突き止めたのは、長崎の山中にあるセレクトショップ「マウンテン ジャム」。オープン1年ながらもファンを増やしている「JAMおじさん」の正体とともに、ECではなく、対面販売に注力する店のこだわりを取材しました。
アウトドア好きに愛されるJAMおじさん
JAMおじさん
山口健太さん
長崎のアウトドアセレクトショップ「マウンテンジャム」を営み、陸と海のアウトドアに精通する心優しき店主
本家アンパンマンのジャムおじさんがパン作りに詳しいように、アウトドアの豊富な知識でキャンパーの悩みを解説してくれる「JAMおじさん」。仲間や常連客から親しみを込めてこう呼ばれているのは、長崎県大村市でアウトドアセレクトショップ「マウンテンジャム」を営む山口健太さん(45)です。
約10坪の店舗は、オープンからわずか1年で九州外からも多くのファンが駆けつけるほどに成長。キャンプや登山などのアウトドア好きに愛される理由とともに、普通のアウトドアセレクトショップとは趣を異にする、お店のコンセプトを聞きました。
「JAMおじさん」のきっかけは瀕死の重症
夜道を歩いていたら…
──アウトドア好きの間では、JAMおじさんと親しまれている山口さんですが、そもそもお店を出すきっかけは何だったのでしょうか。
山口:出身は佐賀で、就職で東京に出て、外回りの営業をしていました。それは、三重の伊勢志摩に出張に行ったときのことです。同僚といつもと同じように夜ごはんを食べ終わって歩道を歩いていたら、何かがぶつかった音がしたんですよね。気づいたら、同僚が頭から血を流しながら転がっていました。車は止まっていたのですが、「おい」っていったら逃げていきました。
とりあえず、上司に電話してナンバーを伝えたら、私の意識もそこまで。私も一緒にひかれていたんですね。全身打撲で、あとちょっとで内蔵破裂で死んでいたかもしれない重傷で、1カ月入院しました。のちのち聞いたら、飲酒運転をしていた車で、ボンネットには自分たちの体の形がついていたそうです。
戻った地元で自然の良さを知る
──命を落としてもおかしくなかった経験が、お店の開店にどうつながっていくのでしょうか…。
山口:退院してからも体の調子がしばらくおかしく、東京で一人で暮らすのはきついと思うようになりました。そこで、転職先に選んだのが、家族や友人のいる地元、佐賀に近く、今の店がある長崎県大村市の会社です。
東京の営業時代は土日に休めず、アウトドアを楽しむ時間もありませんでした。故郷で待っていたのは、近場の虚空蔵山(609m)や、穏やかな波の大村湾。今では登山とキャンプのアウトドア歴は20年以上になり、さらに幅を広げ、トレランやMTB、シーカヤック、SUPなどもやっています。
豊かな自然のある故郷の良さにあらためて気づき、「より多くの人にアウトドアで人生を悔いなく楽しんでほしい」と考えるようになしました。そして、「ゆくゆくはお店をやろう」と思うようになったのは自然の流れでした。
──死と隣り合わせた経験があるだけあって、ありとあらゆるアウトドアを全力で楽しんでいますね。
山口:唯一やっていない、いや、あえてやろうとしていないのは釣りです。楽しいのは分かっていますが、義理の父がクルーザー買うほどの釣り好きでして…。妻はお金がかかることを知っているので、無言のプレッシャーもあるような気がします。
山の中に手作りのお店を出したJAMおじさん
自然に囲まれたアウトドア店
──そして2020年6月にお店をオープンしますが、周囲は川と山に囲まれていて、本当にアウトドアショップがあるのか不安になってしまう人もいるのではないでしょうか。
山口:もともとは駅前の地域に住んでいたのですが、長女(18)と次女(15)が小さいころから一緒に登山をしていて、今お店がある大村市萱瀬(かやぜ)地区によく来ていました。「こういうのどかなところ住めたらいいよね」と妻に話していて、子どもたちにのびのび過ごしてもらいたかったので、7年前に移住しました。隣は畑や田んぼで、地域にはコンビニもありません。お店は自宅の敷地内で仲間たちと3年かけて手作りしました。
誰もが驚く立地に勝機あり
──立地的には商売に向かないように思えますが、なぜJAMおじさんは強気にオープンできたのでしょうか。
山口:もちろん商売をやる前には、銀行や商工会議所に相当、指摘されました(笑)。今でもメーカーの方が来てくれるときには「ここでやっているんですか」と驚かれます。でも、アウトドアのセレクトショップは、興味のない人に来てもらうのではなく、好きな人に来てもらうので、地理的なデメリットはないと確信していました。
──さらに、オープンしたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大していた真っ只中です。
山口:本当はもっと早くオープンしたかったのですが、父親の病死などもあって、なかなか準備が進まず、できるタイミングでやるしかない、とオープンしました。お店の話をしていた妻から「食べていけるだけ、できるの?」というプレッシャーはありましたが、お客様や仲間たちの支えで、なんとか営業できています。
九州では機能性とファッション製のあるアイテムを充実させることで需要があると思っていました。九州全域はもちろん、山口、島根からも車を運転して来てくれる人もいます。
「トレンドは追わない」に、共感を得るJAMおじさん
トレンドは気にせず、自然を大事にするブランド
出典:Instagram(@mountain.jam819)
▲いらなくなった服をリサイクルして作られるBRINGのボディを採用したオリジナルTシャツ
──遠方からもファンがくるのは、JAMおじさんの人柄はもちろん、こだわりのラインナップにもあるようですね。
山口:結局、アウトドア好きは、自然がないと、遊べません。今は各メーカーが、サステナビリティ(持続可能性)といって、リサイクルや環境に配慮した製造方法に取り組んでいます。当店でも、真剣に環境保護に取り組んでいるブランドを中心に選んでいます。
環境を意識したアウトドアブランドの先駆けと言えば、まず多くの人が思い浮かぶのが、「パタゴニア」。マウンテンジャムでは、米国で存在感を高めているソルトレイクシティ生まれのアウトドアギアブランド「Cotopaxi(コトパクシ)」も取り扱っています。他社工場で生まれた残布を使ったバッグが有名で、カラフルなデザインが日本でも注目され始めています。
環境を意識した流れは、国内でも活発化しています。服をリサイクルしたサステナブル素材を使った国内アウトドアアパレルブランド「BRING」も、最近はおもしろいデザインのものが多く、ぜひ手にとってみてほしいですね。店に置くものは、別にトレンドを意識していません。基本的に「いいものは残っていく」と考えています。
店頭販売に力を入れるワケ
──山の中にあるので、てっきり地理的なハンディも関係ないECに力を入れていると思いきや、対面での販売がほとんどなのも驚きです。
山口:ECは僕も便利で使っていますけど、アウトドアのちゃんとした知識がある人間が見れば、ウェブにさまよっている情報には正しくないもの多くありますよね。買い手が間違った情報を信じたり、解釈を間違えたりして、本当はいいものなのに、「使えない」という烙印を押して広めてしまうのは残念です。
ウェブの記事やYouTubeなどいろいろなギアのレビューが出ていますが、家族構成やスタイルが違えば、メリット、デメリットも違ってきます。「間違ったギアでキャンプが全然楽しくない」となってほしくないわけです。
シンボルマークがかっこいい
出典:Instagram(@mountain.jam819)
▲柄にマウンテンジャムのロゴが入った、BABACHOの多喜火鉈のオリジナルモデル
──お店のクマのマークもかっこいいですね。
山口:カリフォル二ア州旗のクマをオマージュし、クマの中で僕がいる大村市かやぜ地区の等高線をイメージしています。長崎、佐賀の境にある多良岳(983m)や経ヶ岳(1,076m)も入れました。最近ではBABACHOの多喜火鉈なんかも、象牙職人の方にこのロゴを入れてもらって販売しており、多くの問い合わせがくるほどの人気です。マークにこだわったかいがありました。
JAM METAL#001
──最近では、北海道発のアウトドアガレージブランド、トリパスプロダクツと組んで多機能な五徳「JAM METAL#001」を発売し、マウンテンジャムの名前が一躍全国区になりました。
山口:焚き火に鉄板をのせると、炎が消えてしまうので、炎をみながら料理できるような五徳を考えていました。トリパスさんに連絡して、最初は「鉄板はいろいろありますよね…」という反応だったのですが、手書きした図面をみてもらったら、担当者の方から「これはすごい」と言っていただいて、すぐに製品化してもらいました。全国各地からの問い合わせが凄いので、こちらはECで販売し、おかげさまですぐに完売する人気です。
▼JAM METAL#001の機能の詳細と説明動画はこちら
JAMおじさんの今後の展開は?
──オープンから1年がたち、ここまで順調にファンを増やしてきました。次の展開についてはどのように考えているのでしょうか。
山口:アウトドアを楽しむ入り口がキャンプと思っています。そこで自然の良さ、楽しさを分かって、登山やSUPなどの次のアクティビティにつなげてほしいですね。生死の淵をさまよったことのあるアウトドア人間としては、「もっと人生を楽しんだほうがいい!」と思っています。
新型コロナウイルスの感染拡大も落ち着いたら、登山イベントもやっていこうと思っています。プロショップというと敷居が高く、一見さんお断りの雰囲気がありますよね。でも、うちは初心者でも入りやすいお店にしていきたいです。現在はメーカーの生産が追いつかないので待ってもらうギアもありますが、初心者からマニアの方まで満足するラインナップを充実させ、九州のアウトドアを盛り上げていければと思っています。
JAMおじさんはアウトドア愛にあふれる店主だった
アウトドアセレクトショップ「マウンテンジャム」のJAMおじさんこと、山口さん。取材して分かったのは、自然豊かな地域でお店を営むからこそ、アウトドア好きと地球に優しい素顔でした。さらに、九州外から駆けつける人がいるのも納得のセレクト。hinataでは今後も、全国的に注目されている「JAMおじさん」が選ぶこだわりのギアを紹介していきます。
【基本情報】
店名:マウンテンジャム
住所:長崎県大村市田下町468-5
電話:090-6426-6307
営業時間:平日12:00〜19:00、土日祝日11:00〜19:00
定休日:不定休
ショップの詳細はこちら:
MOUNTAIN JAM公式サイト
Instagram公式アカウント