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ゼクーM

最注目ブランド・ゼインアーツの代表が語るキャンプトレンド コロナ禍に支持されるテントの秘密

全国的に有名なアウトドアショップで、注目ブランドとして必ず名前を聞く新生アウトドアブランド「ゼインアーツ」。2020年には主力のワンポールテント「ゼクーM」がグッドデザイン賞を受賞し、その旋風は今年さらに強まりそうな気配です。デザインとコストパフォーマンスに優れたテントを生み出してきた小杉敬社長を取材し、人気テントの開発の裏話とともに、価格にこだわる理由や、今年のトレンド予想を聞きました。

「キャンプをもっと気軽に」

独立できるアウトドアへの貢献

ゼインアーツの小杉さん
── 前職では大手アウトドアメーカーの取締役までつとめ、そのまま残れば今注目のアウトドアブランドで経営の中枢に居続けられることができました。それでもなぜ、ゼインアーツを立ち上げることになったのでしょうか。 小杉:前職では取締役企画本部長として、年間100アイテムをディレクションし、在職中は膨大な製品を生み出してきました。アウトドア業界でいろいろ学ばせてもらって身につけたスキルではありますが、デザイナーとして、一つのブランドで自分のスキルを表現しようとしても、会社の経営方針やブランディング、利益という制約があり、自分が最善と考えるデザインを100%実現できないことにもどかしさを感じていました。それは会社が悪いのではなく、組織の中にいる以上は当然のことです。 自分のイメージと会社の方向性の違いを感じながらそのまま居続けるより、自分でブランドを立ち上げたほうが、より多くのユーザーと業界に貢献できるというはっきりとしたビジョンがありました。
gigi2
── 貢献できるビジョンとは具体的にはどういうことでしょうか。 小杉:価格の面も含め、自分のデザインした製品を使ってキャンプをより身近に楽しく、快適に喜んでもらうイメージですね。前職では知人にも「簡単に手を出せない…」と言われていたこともあり、これまでキャンプをやりたいと思っても二の足を踏んでいた人たちに、より気軽にアプローチできるきっかけを提供していたと思っていました。

「より手頃な価格で、アウトドアに貢献」

ゼインアーツの看板
── それがゼインアーツでの今の行動につながっているわけですね。 小杉:起業前から社会に貢献するものが、会社であると考えていました。「では、果たしてアウトドアに関係する企業が、何に貢献していくのか」と考えたときに、「より手頃な価格で商品を出すことに尽きる」と考えました。 前は大きなブランドにいたので、ビジネスの尺度で考えると、会社である以上、利益を上げる要素も必要です。ただ、ゼインアーツでは、いかに我々の経費を最小にしながら、「より多くの人にアウトドアを楽しんでもらうため、いかに手頃な価格まで下げられるか」を考えています。かつて日本には「いいものを安く=給料を安く」の思想がありました。そこは生産や流通の経費を削減しながら、高い給料水準の雇用を確保しながら、いろんな人を松本に呼び込み、地域活性化することも使命と思っています。

いきなりのヒット作「ゼクーM」誕生秘話

「余計なことはしない」

ゼクーM
── 今年グッドデザイン賞を受賞した人気ワンポールテント「ゼクーM」の定価は7万円台。ほかの同様のテントと比べると半分ほどの価格を実現しています。ゼインアーツの商品はなぜ競合他社よりも安くできるのでしょうか。 小杉:メーカーとして、専門外の余計なことはせず、作って売ることだけにフォーカスしています。なので、直営店を持たないのはもちろん、物流も通販も自分たちではしないことにしています。また経営方針としては投資をせず、売上と利益を作って、繰越金が増えていったら、次の一手をこうじるようにしています。先物買いをせず、手堅い算段に注力しています。
ゼインアーツの小杉さん
国内大手ブランドのユニフレームさんは「いいものを安く作れば、模倣商品もできない」という考え方を実践しており、私も共感しています。お客さんが喜ぶピンポイントを狙っていきながら、良質なものを安く出していけば選んでいただけるというのは、ユニフレームさんに教わった部分でもあります。

ゼクーMの革新性はワンポールの固定観念への挑戦

ゼクーM
── 19年に投入したゼクーMは、ベテランから初心者までを満足させ、その人気は昨年だけでなく、21年も続きそうです。これほどまでに人気となった理由をどのようにみていますか。 小杉:起業の前から、ずっとワンポールテントをやりたいと思っていました。ワンポールテントは、四隅をペグダウンして、ポール1本を立ち上げるだけのシンプルさと、コンパクトさ、軽さが特徴です。だからこそ、それ以上でもなく、誰もさらなる機能を追求していなかったジャンルでした。 デザイナーとして、その誰も手をつけていない領域にフォーカスしたくなるのは必然だったのかもしれません。ファミリーキャンプに一般的なドームテントは、いろいろな機能が追加され、やり尽くしている感はあります。もちろんゼインアーツでも考えていきたいと思っていますが、色々なアイデアが出ていている中で、もう少しレベルの高いところで考えていかないといけません。
作業する小杉さん
しかし、幸運にも、ワンポールの改善を考えている人はほとんどいませんでした。そこに挑戦することが新しいブランドのフレッシュな要素になり、いい題材でした。ワンポールテントは各ブランドから出ていますが、そっけない円錐形のデザインがほとんどで、最初は「デザインという部分で勝負すればやれるだろう」というイメージを描いていました。 ゼインアーツの存在理由「いいものを安く」のコンセプトは、他社と同じデザインを、同じ品質で、安くではありません。ブランドステータスは、金額が高いものほど、いいものという心理が働きます。同じものが安くなったからといって、多くの消費者はブランドとしてみません。そこを超越するのが、デザインです。ぱっとみて「これほしい」と思わせる強い要素。そのすべての考えを具現化したのが、ゼクーMでした。

エクステンションフレームで居住空間を実現

革新的なワンポールテントのゼクーM
── デザインの追求は、これまでのワンポールテントになかった革新的な快適性にもつながっていきます。 小杉:ワンポールテントの最大のデメリットは、テント内の空間がデッドスペースだらけになるところです。三角形なので、頭にあたる位置より後方がデッドスペースになってしまい、空間の使い方が非効率なテントです。逆に、そこが改善されるポイントであり、ゼインアーツとして勝負できると確信したポイントでした。 ワンポールの設営の簡単さを残しながら、デッドスペースをなくすために、横から見て三角形より、四角形にすれば、デッドスペースになっていた端の高さが確保され、壁ぎりぎりまで座っていても頭が当たらない居住スペースが確保できます。 そこで採用したのが、垂直の壁を形成するための3つの「エクステンションフレーム」です。これによって床面積を大きくせずに、日本のキャンプサイトに合ったサイズ感で、開放感あふれるテントが実現できました。

ゼインアーツが問う「安くていいもの」

ゼクーM
── そして2019年4月に発表すると、キャンプアイテムが高額化する中でも、キャンパーの間に「安くてもいいものがある」という価値観の変化をある程度もたらしました。 小杉:ゼクーMは税抜で8万円を切る価格設定にし、発表の初年度だけで、計画数の6倍を販売しました。何よりも嬉しかったのが、「安くてそれなり」ではなく、「安くて良いもの」を欲している人たちが上級者にも初心者にも多くいたことでした。アウトドアというと、日本では生きるか、死ぬかの登山から派生した限られた人しかできないイメージがいまだ残っていましたが、それを払拭し、気軽にできるように貢献できたのはうれしいですね。 海外ブランドの輸入テントだけでなく、多くの国産メーカーもテントの価格を上げており、最近では20万〜30万円のものがあっても驚かなくなってきました。もちろんそれらは機能的にもデザイン的にも「いいもの」が多いのですが、自分の中では外で使うテントは消耗品という位置づけです。野外で傷つくものに高額出すことに違和感を持っていたのも、この価格設定につながっています。

コンパクトなワンポールテント「ギギ」への展開

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── そしてゼクーMから次のヒット作、デュオキャンパー向けのスモールサイズシェルター「ギギ1」が生まれていきます。 小杉:ゼクーMは4人が過ごせる大きさですが、次に考えていたのは、コンパクトなワンポールテントでした。というのも、自分の周りでも、コンパクトなワンポールテントの所有者が増えていて、それを愛用しているのが、ファミリーキャンプから入り、子どもが成長してからソロや夫婦だけでやる人たちでした。そこの1人ないしは2人でも違和感なく使え、動線の確保も考えたモデルが意外にないことに気づき、まさに「ここですよね?」という感じでリリースし、ありがたいことに、その狙った層に評価されています。
gigi1
ゼクーMはテント内の居住空間をいかに確保するかの答えを出すまでに相当な年月がかかりましたが、エクステンションポールで解決策が見い出せたことで、ギギ1は1週間ぐらいで、同様の仕組みとすることで大枠のデザインは完成しました。ギギ1もワンポールのデッドスペースを克服し、2人用のファニチャーや道具を十分に入れた状態で、さらにコット2台を設置できる空間をも実現しています。 さらに、ワンポールテントでありながら、前後のドアパネルを大きく跳ね上げられ、タープのような開放感を得られるのもおしているポイントです。これだけトランスフォームできるのは、エクステンションポールを採用したからこその副産物でした。

キャンプから派生したアクティビティを楽しめるギアを

小杉さん
── 小杉さんは北アルプスを目の前にのぞむ長野県松本市に移住したことからも分かる通り、キャンプだけでなく、「山の人」でもありますね。 小杉:このアウトドア業界にいる以上、業界全体の活性化に協力したいと思っています。キャンプはこの数年で人口が増え続けていますが、同じアウトドアでも、登山は山ガールブームがあったものの、愛好者の人口が減り続けています。山に入る人が減ると、山の道は荒れ、さらに人が入らなくなる悪循環に陥り、地方に人が向かわなくなってしまいます。だからこそ、登山道の維持や保全をしていくには、ある程度の愛好者の人口とそこに落ちるお金が必要です。そのためにも、登山方面も活性化させなければいけないと思っています。その登山向けのテントもゼクーMのような革新的なアイデアとデザインを構想しているので、ぜひ楽しみにしていてください
ゼクーM
── 登山以外にもいろいろな展開を考えていますね。 小杉:登山だけでなく、SUP(スタンド・アップパドルボード)やMTBなど、アクティビティを付随させたキャンプだけで完結しないスタイルをギアで表現したいです。 キャンプはアウトドアの導入としては年齢や体力に関係なく楽しめますが、キャンプだけでは、見えたり、楽しんだりする自然の世界に限界があります。それは私自身も登山やバックカントリースキー、沢登りを楽しんでいるからこそ、強く確信しています。雪山を登っているときの神々しい純白に覆われた世界や、沢の遡行での水の力で岩が削られている神秘的な景色など、単純に美しい世界を共有したいという感動とともに、人間は生かされているんだなと生の喜びが心底感じられます。 アウトドアをより深く知って楽しむには、このコロナでキャンプを通してアウトドアを知った方たちが、日中はテントから離れ、キャンプを拠点にしたアウトドアの楽しみ方を見つけてほしいとも思っています。ゼインアーツとしても、快適なギアだけでなく、より多くの自然の美しさをもっと深く知ってもらうお手伝いがしたいですね。

アフターコロナのキャンプ人気の鍵とは?

コロナでキャンプ人気の真実

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── さて、2020年にキャンプ人気はさらに高まりましたが、コロナ後も持続する、落ち込むとさまざまな意見が出ています。 小杉:新型コロナウイルスの感染拡大で、密にならないキャンプが注目され、野外で安全に家族単位で楽しめるキャンプの人気が出ているのは大歓迎です。実際に、取引のある店舗からは「いくらテントがあっても足りない」という状況も聞きましたし、実際にゼインアーツもその需要の恩恵があった一社です。 キャンプ業界が今、新型コロナウイルスの影響で盛り上がっているのは事実です。新型コロナウイルスがあって私の周囲の関係者からは「このまま5年ぐらいは安泰だろう」という意見も聞きますが、楽観はしていません。キャンプを生涯の趣味としている人はたくさんいると思いますが、やはりコロナの終息で止めていく人がいるのは避けられません。
ゼインアーツのロゴ
果たして今年になるのかは未知数ですが、いずれはワクチンが簡単に受けられるようになり、感染も沈静化していきます。そこで、これまで多くの人が我慢していた海外旅行やライブが、いよいよ再び活発化するのは明らかですよね。それはそれとして、「アウトドアはいいよね」って、心の底から思ってもらえるように、メーカーとしては、「なんでもいいや」と使い捨ての感覚で買ってもらうのではなく、アウトドアをより深く楽しめるしっかりとした商品作りが今以上に必要になります。もちろん、音楽フェスも活発になるとみられ、そこを通したアウトドアへの注目も期待しています。

今春に「これだ」と思ったら即決を!

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── とりあえず、2021年はしばらくコロナの終息が見通せないですが、キャンプ人気の継続をあらわすかのように、まだまだ品薄のアイテムが多くあります。 小杉:余談かもしれませんが、中国やベトナムのアウトドア用品の製造工場がどこも生産が手一杯になっており、すでに2020年から各メーカーは作りたくても作れない状況になっています。新商品の投入の以前に、現行ラインナップの生産でいっぱいいっぱいで、さらにトレンドを反映したアイテムをすぐに生産できるのか、という不安の声も聞きます。 こうした事情から、今春の各ブランドの製品は、売り切れても年内に再生産できず、翌年まで品薄になるアイテムが増えるとみられます。キャンパーの皆さんは、この春にギアをながめていて「これだ」と思ったら、迷わず買ったほうがいいですよ(笑)。さらに、このアウトドア人気が続けば、2022年はもっと買えなくなることも予想されるので、即断、即決をおすすめします

今後は「ミニマルなかっこ良さ」の提唱

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── 今後のキャンプのトレンドをどのようにみているでしょうか? 小杉:今はInstagramがあり、グランピングだけでなく、キャンプでもデコレーションの世界が強まっています。自慢のアイテムを配置して、それを見ながら酒を飲むのを楽しむ人もいますよね。設営した充実感に喜びを感じるのもそれはキャンプの一つのスタイルとして魅力的ですが、自然を楽しむアウトドアの観点でいうと、本質から少しずれているような気がしています。Instagramで見せる世界観がいつまで続くかもわからず、そこに照準は定められません。
逆に、そのカウンターカルチャーとして、自然を目でみて楽しむための道具は最小でよく、いかにお金をかけず、ミニマルにかっこよくアレンジするか、つまり、アウトドアの楽しみは考え方次第であることを提唱していきたいです。 ゼインアーツとしても、今のトレンドに寄り添いながら、未来を感じさせるデザインで、ライトウエイトでコンパクトなアイテムを作り続け、皆さんのアウトドアの世界をさらに広げられるアイテムを出していきます。もちろん、2021年以降も「もっと安くていいものあるじゃん」という価値観を、時間かけながら構築していきます。

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