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【取材】焚き火台を作り続けて30年。尾上製作所がたどり着いた境地

2020.01.14ノウハウ

今やキャンプシーンでは欠かすことができない焚き火台。主要アウトドアメーカーだけでなく、ガレージブランドからも数多くの焚き火台が売られ、一つに絞るのは難しくなっています。そこで焚き火ギアを作り続けて30年の人気メーカー「尾上製作所(ONOE)」に、商品開発の裏側と焚き火台選びのコツを聞いてきました。

焚き火台選びって難しい…。

多くの焚き火台であふれかえる昨今。形も性能もバラバラで、自分のキャンプスタイルにぴったり合うものを見つけるのは至難の業です。こんな時こそ、焚き火台の専門家に聞くのが一番。兵庫県姫路市を拠点に30年間、ありとあらゆる焚き火台を作ってきた尾上製作所に協力をお願い。同社広報担当の名城嗣明さんに、開発の裏側や、作り手としての選び方の極意、ブランドとしての展望までを語ってもらいました。

「薄いは正義!」焚き火台で大事なたった一つのこと

楽しくないと意味がない

当たり前だけど大事なこととして、名城さんが真っ先に挙げたのは「楽しく焚き火をすること」。虫嫌いなこともあり、もともとキャンプをしていたわけではない名城さん。キャンプ好きではなかった者の立場として、焚き火を楽しむために必要と感じたのは、「焚き火台が軽くて持ち運びやすいことでした」。 重い焚き火台を持ち運んだり、インスタ映えのために長い間スマホをのぞき込むのは苦手な名城さん。「火を眺める」ための焚き火台作りに終始しています。焚き火にかかる準備や持ち運びの手間を最小限に抑えるため、現在の尾上製作所の商品は基本的に薄いことが絶対条件です。「火を眺める前に疲れちゃう、嫌になっちゃうと意味がないですから」と快活に笑いながら話してくれました。

使えないと意味がない

もちろん薄さと軽さは重要ですが、だからと言って耐久性が低かったり、使い勝手がイマイチでは意味がありません。尾上製作所では様々な視点から燃焼テストを行います。テストでは、連続6時間以上火を絶やさずに燃やし続けることを何度も繰り返し、本当に耐えられる薄さかどうか。実際に使ってみて、不便な点はないか徹底的に調査します。類似品や安価な焚き火台が多く出回る中で、「尾上ブランド」が存在するのはそこに理由があります。 「尾上なら安心」。キャンパーにそう思ってもらうため、あえて難燃ウェアなどに手を広げないのが尾上製作所のやり方です。もともとバケツ屋として創業した尾上製作所。金物のノウハウはあれど、ファブリックの知識はないため、ウェアなら必然的に専門の工場に委託することになります。すると価格も上がってしまい、何より尾上のお手製ではなくなってしまいます。名城さんが「餅は餅屋」と言う通り、信頼あるブランドで信頼あるものを手に入れるのが一番と言うわけです。

付加価値がないと意味がない

「商品を開発するときには、必ず付加価値をつけるようにしています」。名のあるブランドの中で最もリーズナブルな価格帯で、その商品をどこまで良いものに、面白いものにできるか。開発にも携わる名城さんは常に考え続けています。「電車の中で手を動かしながら、ああでもないこうでもない…はたから見たらちょっと変な人ですね」と笑いながらも、製品開発に対する熱い想いをのぞかせていました。
尾上製作所の焚き火台は、バーベキューや料理ができるものがほとんど。「焚き火と料理、どっちもできた方がやっぱりうれしいですからね」。キャンプで焚き火人口は広がっているものの、やはり一番売れる商品はバーベキューグリル。「今のキャンプ人気が落ち着いても、引き続き使われる商品作りがしたいですよね」。

プロはどう楽しむ?尾上流・焚き火術を大公開!

焚き火台を作っている数も多ければ、焚き火台を使った回数も数え切れない名城さんに、普段からどのように焚き火を楽しんでいるのか尋ねてみました。

大事なのは非日常感

キャンプの醍醐味でもあり、名城さんも大切にしているのは「非日常感」。薪を割っている時間が何よりも楽しいという名城さんは、薪選びにもちょっぴりこだわりがあります。ホームセンターなどで調達する際、綺麗にカットされた燃えやすい薪ではなく、ゴツゴツした硬めの薪を選びます。選ぶポイントは、「割っていて楽しいかどうか」。柔らかいと割りがいがなく、逆に硬すぎるとなかなか割れないので楽しさが半減してしまうため、ほどよく硬い薪を選ぶそうです。 「薪を無心で割って1時間くらいすると、目の前には薪の山ができているんですね。それを見て悦に浸りながら焚き火を始めます。最近はノコギリも手に入れて、斧で割れない硬い薪も楽しんじゃってます」。

やっぱり不便も楽しみたい

不便さすら楽しんでしまうのがキャンプ。名城さんは「忘れ物を頻繁にしてしまうおっちょこちょいなのですが、そのなかで思いがけないアイディアが浮かぶのが楽しいです。つい最近では、うっかりヤカンを忘れてしまって、考えた挙句、持っていたアルミシートのフチを丸めて、皿状にすることを思いつきました。これでお湯が沸かせ、無事、カップ麺にありつくことができました」。こんな風にアイデアで乗り切ることで、思い出にも残る上、自然とノウハウができるのが最高に楽しいそうです。

こんな注意点も?

楽しいことがいっぱいの焚き火ですが、忘れてはいけないのが、火を扱っているという事実。水の用意は必須です。特に乾燥する秋冬は、焚き火の周りに水をまいた上で、近くにもたっぷりの水を用意するのが名城さんのおすすめ。また尾上製作所のなかでは常識だというのが、焚き火を眺めるときのメガネです。
「特に焚き火好きは近くで火を見たくなってしまうものですが、薪は思いがけずパチン!と勢いよく弾けます。小さくても火の粉が目に入ってしまったら失明は免れません。安物のプラスチックメガネを常備しておくのがベストです」。最後に気をつけたいのが、小さな子供。思いがけない動きも多く、厄介なことに火が好きな子供には、焚き火周りをテーブルで囲んでしまうのがおすすめ。安全に、家族みんなで焚き火を楽しむために必須のアイテムです。

結論!尾上が教える焚き火台を選ぶ3つの基準

焚き火についてたっぷり語っていただいたところで、果たしてどう焚き火台を選べばいいのか。名城さんからのアドバイスを紹介します!

①人数に合わせたものを選ぶべし

テントのように、焚き火台にも推奨人数というものが必ずあります。ソロキャンプ用の焚き火台をファミリーで使うのは無理があるし、反対に大人数用のものを1人で使っているとおっくうになります。結果として、だんだん焚き火が楽しくなくなってきた…となってしまっては元も子もありません。可能な限り、人数に合わせたものを選ぶのがおすすめです。

②料理を作るかどうかで選ぶべし

キャンプ料理ではガスバーナーやコンロしか使わない方は、火を見ることに特化した焚き火台を選んでもいいでしょう。ですが、焚き火台で料理もする場合、きちんとサイズ感や使い勝手を考えなければなりません。料理をするためには炭も用意する必要がある点や、料理中は焚き火が楽しめない点にも注意が必要です。

③組立部品の少ないものを選ぶべし

キャンプでつい多くなるのが失くし物。特に部品の多いキャンプギアは、設営中や撤収の際に落としてそのまま…というパターンもしばしば。焚き火台は、できれば組み立て部品の少ないコンパクトなタイプがおすすめです。部品の買い替えができるものを選ぶのもアリ。

終わりに

尾上製作所が一番大事にするのは、お客さんが実際に見て、触れること。どんな商品も、直に対面しないとわからないことだらけだからです。だからこそ、同社は数多くのイベントに出店し、お客さんと交流する場を多く設けています。「お客さんの声が商品に反映されることもしばしば。だからどんどんブースに来て、話しかけてください!」と名城さん。お客さんの力も借りて、これからも尾上製作所の焚き火台はどんどん磨かれていきそうな予感がします。 公式ショップはこちら:尾上製作所ショップ

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