ハイテク・アウトドアウェアの始祖、アークテリクスの哲学。
2023.10.03ライフスタイル
キャンパーの生活に欠かせないアウトドアブランドだけど、その実、ブランドの生い立ちだったり、ものづくりの哲学は意外と知らなかったりする。でも背景を知れば知るほど、ギアやウェアに対しての愛着は深まるし、興味がなかったブランドのこともかっこいいと思えたりもする。深掘りをすることで見えてくる、ブランドの魅力を再発見する本連載。Vol.2は、山と街で絶大な支持を得るカナダ発のアウトドアメーカー〈アークテリクス〉。
制作者
キャンプ・アウトドアWebマガジン「hinata」編集部。年間に制作・編集する記事は600以上。著書に『ひなたごはん』(扶桑社ムック)など。
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最高のマテリアルと技術を用いてきた、ハイテク・アウトドアウェアの始祖。
カナダのバンクーバーに本社を置く〈アークテリクス〉。その前身は、クライミングギアを製造・販売するガレージブランド〈ロックソリッド〉だった。ともに、クライマーであったデイブ・レインと友人のジェレミー・ガードによって創業されたそのブランドは、彼ら自身が使いたいクライミングギアを開発し、クライミングの聖地スコーミッシュにて、手売り販売を行うところからスタートする。
アークテリクスの創業者であるデイブ・レイン
右に映るのが、もう一人の創業者であるジェレミー・ガード
「アークテリクス」の誕生
1991年、新たにニック・ジョーンズを迎え、社名を〈アークテリクス〉に変更。ブランドのコンセプトは、「地球上にある最高のマテリアルと最高の技術、そして革新的なデザインによって商品を作り上げること」。改名と同時に生まれた特徴的なロゴマークは、「アーキオプテリクス」と呼ばれる始祖鳥の化石がベース。ブランド名もそれに由来する造語である。
その頃に開発した「ヴェイパーハーネス」は、熟成形3Dフォームがクライマーの体に吸い付くようにフィットする軽量なギアだった。
ハーネスといえば『重くて快適』か『軽くて痛い』の2択だった当時、それは業界に革新をもたらした。使用者からの評価も非常に高く、それが口コミで広がると、瞬く間に多くのクライマーにクオリティが認められ、次第に、ハーネス以外の製品づくりを求められるように。そこから、事業が大きく動き出すことになる。
1994年には、ブランド初のバックパック「BORA BACKPACK」を発表。フレームレスデザインと特殊なベンチレーションシステムを備えたそのバッグは高い評価を受け、1996年には、さらに進化したデザインと機能を備える「BORA 95」を発売。また、同年にはゴアテックスのライセンスを取得し、それにより「ガンマMX」や「アークテリクスシータAR」などの人気製品が誕生することになった。
1998年には、ジャケット「アルファ SV ジャケット」をリリース。これは、悪天候などの厳しいコンディションに長期間耐え、高山環境からも身体を守りながら、軽量かつミニマルなクライミング&アルピニズム用アウターで、ブランド初のジャケットにして最高峰モデルとまで言わしめた。
最大の特徴は、いまでこそあたり前となっている「止水ジップ」を世界で初めて採用したこと。表面をコーティングすることで水の浸入を防ぐというデザイナーの着想を、アメリカのYKK社に持ち込み具現化させたのだった。その画期的なアイデアに、YKK側は特許取得を推奨したものの、「アウトドア業界全体のデザイン性向上を図れれば」と、〈アークテリクス〉はその提案を固辞したという逸話がある。
1999年、バックパック「アロー22」がデビュー。以来、20年以上にわたりブランドのシンボルであり続けるこのバッグは、アウトドア好きのみならず、都市生活者やファッション好きにも広く愛された。ちなみにこの「アロー22」、クライミング用ではなくサイクリング用として開発されたというのは、知る人ぞ知るところ。
ハイテクと環境配慮を両立させ、洗練されたアーバンウェアを送り出す。
2000年代初頭にはGORE-TEX Pro Shellテクノロジーを採用したゴアテックス製品の提供を開始。そして2009年、「都市生活における快適性とデザインを追求したコレクション」である〈アークテリクス ヴェイランス〉が始動。それまでに培った技術やノウハウの全てを注ぎ込み、洗練されたアーバンウェアを打ち出していく。
近年においては、Dope Dye染色方法を使用した製品の開発、カラーサンプル製作の廃止、サーキュラーエコノミーにシフトするプログラムの導入など、環境へのインパクトを考慮した取り組みにも並々ならぬ関心をよせ、積極的にコミットしている。
23年秋冬シーズンには「アルファ SV ジャケット」をリサイクル素材でアップデート。今後も、PFCec Freeの3Lの採用やゴアテックス新素材の使用など、環境への取り組みを引き続き強化していく予定だ。
いまや、アウトドア業界のみならない広い分野で、世界中にファンを抱える〈アークテリクス〉。これからも、創業から変わらず最高の素材と技術を用い、また環境への配慮と技術革新を継続しながら、リーダーシップを執っていくことだろう。
Photo_Shingo Goya /Text_Masahiro Kosaka/Edit_Keisuke Kimura
取材協力:アークテリクス
Outdoor Brand Chronicle
キャンパーの生活に欠かせないアウトドアブランドだけど、その実、ブランドの生い立ちだったり、ものづくりの哲学は意外と知らなかったりする。でも背景を知れば知るほど、ギアやウェアに対しての愛着は深まるし、興味がなかったブランドのことも「かっこいいじゃん」と思ったり。 深掘りをすることで見えてくるブランドの良さを再発見する連載です