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業界人連載

アウトドアとファッションを融合させたブランド「アンドワンダー」デザイナーが語る、ソト遊びとものづくり

アウトドアで役立つ機能性と高いファッション性を掛け合わせた「ならでは」のアイテム展開で、多くのファンを獲得している「アンドワンダー」。創業者であり、デザイナーの池内啓太さんも、当然ながらその2つがルーツになっているそう。そんな池内さんに、ブランドの成り立ちから、アウトドアフィールドでの過ごし方まで、詳しく聞いてみました。

アンドワンダー デザイナー 池内啓太さん

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プロフィール/1978年神奈川県生まれ。多摩美術大学卒業後にコレクションブランドに勤務。2011年には森美穂子さんとともに「アンドワンダー」をスタートさせる。ファッションを出自としながら、旅やキャンプ、登山と、アウトドアアクティビティへの造詣も深く、その両方の知見を生かしたアイテムを展開。ファッションブランドからアウトドアブランドまでコラボレーションも多く、独自のポジションを築いて、注目を集め続けている。

仲間に誘われたキャンプから、アウトドアの世界へ

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――アウトドアやソト遊びに目覚めたきっかけは何でしたか? 池内啓太さん(以下「池内」):20年ぐらい前なんですけど、社会人になって2、3年ぐらいが経った頃に、仲間の中で1人キャンプが好きがいて。みんなをキャンプに連れ出してくれたんですよね。そこからアウトドアの楽しさに目覚めたような気がします。 ――キャンプから始まったんですね。 池内:好きになった理由は2つありまして、1つは学生の頃、バックパックを背負って、海外を旅をしていたことから。新しい景色を見たり、行ったことのない場所へ行くことにすごく興味があったんですよ。でも、働き出すとそんなに長い休みはなかなか取れなくて。そんな中でキャンプに連れていってもらったら、旅に近いものがあったんです。自然の中ですから、日が落ちれば真っ暗になりますし、朝日や夕日など空の色も都会で感じるものとは違ったり。普段の生活とはちょっと違う景色が見られるんですよね。旅のように遠くまで行かなくても、そういう体験ができることに気づいて、好きになりました。 ――もう1つは何だったのでしょう? 池内:道具の楽しさです。初めてキャンプに連れて行ってくれた仲間がかなり経験豊富で、いろいろな道具を見せてくれたんですよ。LEDのライトの光量の違いとか、道具の細かな違いみたいなものを教えていただきました。1枚のタープを広げることで屋根ができて、そこに空間が生まれたりするのも、私からすると新鮮だったんです。そこに当たった雨の水滴が流れる模様がきれいだったり、雨が打つ音も普段ではなかなか感じられないものだったり…。道具を使うことで、自然の中に快適さを生み出せたり、道具そのものも無駄がなくプロダクトとして魅力的だったりして、一気にのめり込んでいった形です。 ――それがアンドワンダーを立ち上げるきっかけになったのでしょうか? 池内:いえ、その頃は純粋に趣味として楽しんでいました。ファッションの仕事をしながら、週末になるとアウトドアで遊ぶいうことを繰り返していて。キャンプは、何もしないで過ごす贅沢さもありますが、たくさん行っていると、時間を持て余すこともあるんですよね。そこで、キャンプ場の近くの山を登り始めて。そうすると、山は山の楽しさがあって、だんだん高い山に登りたくなったんです。週末という週末は、山に向かう生活になりました。軽さにこだわるなど、山ならではの道具への魅力もありますし、標高を上げると見える世界が変わってくるので、これもまた、自分の知らない景色を見られるという楽しさにつながって。

アウトドアで自分たちが着たいものを作る

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自分が着たい服を作るというところから始まった「アンドワンダー」。ブランドが大きくなるにつれて、ものづくりの意識も変化していったという。「今はもう少し、昔よりも立体的になってきました。ショップがあることでお客様の声もたくさんもらえますし、動向が掴めるようになりました。自分たちもイチから新しいものを生み出すだけでなく、10年以上ブランドを続けてきて、出来上がったものに対してのアップデートをさせたり、逆に壊して予想を裏切りたいという感覚もあります」
――山に行き始めて、キャンプと変わったことはありましたか? 池内:山に行くようになってから、着る服の問題が出てきました。アウトドアで必要な機能を兼ね備えた服を、普段の洋服の買い物と同じ感覚、「服が好き」だからこその感覚で探しても、なかなか見つからないんです。一緒に山へ行く仲間たちもクリエイティブ系の職種が多いせいか、私と感覚が近くて「なかなかいいものがないね」という話を常々していて。だったら「自分たちで作ろう」というのがブランドを立ち上げようと思ったきっかけですね。
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――アンドワンダーといえば、バックパックのイメージも強いですよね。 池内:実はアウトドアのブランドを始めようと思ったときには、すでにバックパックの開発は進めていて、何度かサンプルも作っていたんです。それを山に背負って行って、これなら商品として大丈夫なクオリティだと実感して、自分でアウトドアのブランドができると思えたんです。その後、改めてどういうブランドにするかを考えたときに、頭の上から足先までトータルでコーディネートができるようにしたいと。
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「アンドワンダー」の定番となっていたX-PACを採用したバックパックの生地を、今シーズンから100%リサイクルポリエステルのECOPAKに変更。従来の性能をキープしつつ、サステナビリティも備えた。「アウトドア業界全体で環境に優しい素材にシフトをしようとしています。その流れの中で、私たちも軽量さや丈夫さ、防水性が同等のクオリティのものを、環境負荷の少ない素材で作り上げることができました」
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「ポーラテックのフリースは好きでいろいろ買って着ていたんですが、数年前に新しくアルファというシリーズができたんです。適度な暖かさがありながら、行動中も暑くなり過ぎず、という独特な立ち位置の中綿素材なんですが、さらに、アルファダイレクトっていう肌に直接触れる所でも使えるものが開発されて。一般的には表地があって裏にアルファダイレクトを使う用途なのですが、直接見えてOKなら、アルファダイレクト1枚でも服になるんじゃないか、というところで作りました。この素材はスポーティーな印象の衣料を作るメーカーがほとんどですが、あえて街使いしやすい緩いVネックのTシャツ型というのも、ウチらしい解釈だと思います」
――たくさんのアイテムを作ってらっしゃいますが、もし今、アンドワンダーのアイテムの中で1つだけ選ぶとすれば、どれを買われますか? 池内:ポーラテック、アルファダイレクトのプルオーバーですね。1枚でも着られますし、レイヤリングでインナーとしても着られるものです。ドライな着心地で、ほどよい保温性もあり、なおかつファッションとして、素材感の面白さみたいなものもあって。軽くて快適なので、アクティブなシーンでも、街使いでも、重宝します。試してもらえれば、面白い洋服体験ができると思いますよ。

キャンプに1つアクティビティを足す、+αな遊び方を

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――山へ向かうようになってからも、キャンプはしていますか? 池内:子どもができてからは低い山しか行けないので、キャンプに行く機会がすごく増えています。子供が本当に小さいときには、背負って山へ行ってたんですけどね。 ――キャンプ中はどんなことをして過ごしていますか? 池内:去年からはSUPをやっています。子どもが水泳を始めたきっかけで、水に抵抗がなくなったんです。その前は、フォールディング・カヤックをやったりしていました。キャンプだけでなく、何か1つ遊びを加えるような過ごし方をしています。 ――忘れられないアウトドア体験の思い出といえば? 池内:8、9年前だと思いますけど、妻と行ったジョン・ミューア・トレイルでしょうか。カリフォルニアならではの光の色だったり、乾いた土の気配や植生、空気みたいなものを感じながら歩くのはすごく楽しかったです。日本だと、狭い国土の中でぎゅっとそびえ立ってる山が多く、急激な登り下りの移動がメインになります。もちろん、それが日本の山らしさでもあるんですが、アメリカの場合は広くて、縦の移動というより横の移動をしながらずっと先まで歩いていく感じ。いわゆる山登りというよりはトレイル歩きの感覚があって、日本の山とはまた違う楽しみがありました。 ここ5年ほどは、毎年、夏に家族で北海道に行っているんです。去年は道央から入って道東の辺りを回っている中で、15年ぶりくらいに旭岳を登りました。裏旭のテン場に1泊して下りてくるルートだったのですが、雪渓がかなり残っているような場所なので、子どもたちも夏に雪遊びをしてみたり。上に登ってテントで泊まるというのは、初めての経験だったので、新鮮だったようです。

ブランドを展開することも、旅をしている感覚に近い

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――アウトドアの醍醐味は何だと思いますか? 池内:私は街で生活をしているので、都会で息が詰まったようなときに自然の中で景色を見ながら、食べて飲んで…、自然の空気を吸ってリラックスすることが一番の醍醐味なのかなと思います。山の場合は人によってスタイルが違ったり、自然との接し方が変わってくるので、それぞれの楽しみ方があると思いますが。 ――池内さんは山ではどんなスタンスですか? 池内:山が好きなのは、旅が好きだというところから始まっているので、未開の地に足を踏み入れたその先にある景色が見られたりできることが大事。毎年、北海道に行っているのも旅と同じ感覚なんです。全部テント泊しているので、キャンプも楽しみつつ、ですね。そういうふうにミックスして遊ぶのが好きです。 ――好奇心や新鮮さを求めて旅に出ていたんですね。 池内:さらに踏み込むと、ビジネスや会社の運営も、少し近いものがあるかもしれません。自分たちの力でどこまでできるんだろう。目標にしているステージにたどり着いたときに、どんな景色が見えるんだろうとか。とても感覚的な話なんですが、そういう気分をずっと持っていたりします。 ――ビジネスも旅に近いということですね。 池内:はい。あるブランドの方のインタビューで「見たことのない景色が見たい」という言葉を拝見して、自分も同じだなと、すっと腑に落ちたことがあって。きっと動き回って、常に新しいことに挑戦していたい性分なんだと思います。

アウトドア経験による機能性と、服好きだからこそのこだわり

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――登山やキャンプ、旅の体験が仕事としてのものづくりに生きることはありますか。 池内:アウトドア用のアクティブな服とキャンプでも街でも着やすいライフスタイルの服と両方展開していますが、フィールドで必要な機能というのは、やはりアウトドアの経験がないと作れないと思っています。また、機能的な服を作りたいというほかに、やはりファッションとしての側面も大事にしていて。お客様によってはアウトドアで遊ばず、ファッションとしてアウトドアのテクニカルなものを取り入れたい方だったり、トレンドとして取り入れている方がたくさんいらっしゃいます。私たちも山に登れる、フィールドで使える機能は担保しながらも、「洋服が好き」である私たちらしい、ファッションやモードに対する進化みたいなものも、常に意識しています。 ――機能性と高いファッション性をマストにしているのは、アンドワンダーならではですね。 池内:もともとはファッションのデザインをやっていた自分たちが、アウトドアが好きだということから、アウトドアに向けて商品を作っていったので。ファッションは自分たちの血肉みたいなものでして、結果的に欠かせないものになっています。
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東京・MIYASHITA PARKに構える店内には、開店した瞬間から新作をチェックしに来たお客さんが入店するほどの注目度。「東京と大阪、名古屋に直営のショップがあり、アンドワンダーの世界観を感じてもらえる環境が作れたと思っていますので、今後は海外店舗も視野に入れたいですね」
――現在のアウトドア人気をどう感じていますか? 池内:新しく始めてくれた方が増えたなら、うれしいことだと思います。街でお金を使って過ごすこととは違う、本質的な楽しさが自然の中にはあると思っていて。街のことは移り行くこともありますが、自然はある意味、普遍的なものだとも思うんです。そこへ週末に出掛けることで、日々の生活が豊かになるのを、私自身が感じられたように、多くの人にアウトドアの喜びを知ってもらいたいという気持ちはありますね。 ――アンドワンダーでも、アウトドアの入り口となるような活動をしていますね。 池内:「ハイキングクラブ」というお客さんと山に一緒に行くイベントを開催しています。「興味はあるけれども、行ったことがない」「どうしたらいいのか分からない」という人を後押しできれば、という気持ちで始めました。私たちの立ち位置は独特かもしれませんが、比較的ファッションに寄っている方々が、アンドワンダーをきっかけにアウトドアに少しでも興味を持ってもらえたらうれしいなとは思っています。

変わらない自然の中で「どう遊ぶか」という切り口が楽しみの幅を広げる

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――ブランドスタートから10年を超えて、これからの展望を教えてください 池内:私たちのようにファッションをベースとするアウトドアブランドは、世界で見てもそれほど多くないと思います。将来は世界の主要都市にもショップを展開して、私たちのブランドのファンを増やすことができたら…、と夢見ています。 ――今後、よりアウトドアを楽しむために提案をするとしたら…? 池内:山もフィールドもずっと変わらないので、そこで遊び方の切り口をどうするか、ということかなと。ブランドの提案とは少し違うかもしれませんが、個人的には、旅とミックスするのも面白いと思います。積載量の問題もあって、飛行機でキャンプに行く方ってほとんどいないですよね。バックパッカーだったら、普通のことなんですけど、キャンプとなると、皆さん意外とやらないんですよ。でも、実はキャンプでもうまくできると思うんです。私の場合、コンパクトにまとめるキャンプ道具はある程度決まっていて。家族4人で超過料金のかからない80kgと、燃料など載せられない荷物を事前にボストンバッグ一つの郵送で収まります。飛行機で行った先でレンタカー使ったりして、陸走で行くいつものフィールドから飛び出すと、まったく違う景色が見られると思います。実際に私も今年の夏は利尻島や礼文島など、フェリーで渡りながら、旅とキャンプをしました。そういう遊び方をすると、楽しみの幅も広がると思いますよ。

ファッション性を備えたアウトドアアイテム

撮影/薮内 努(TAKIBI)

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