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ユニフレームがSNS展開しない理由。謎多き大手ブランドを直撃【アウトドア王国・新潟を探るvol.1】

多くのアウトドアブランドが拠点を構える新潟県の燕三条地区。その代表格の一つが、堅実でコストパフォーマンスに優れた商品を多く生み出している「ユニフレーム」です。「SNSの展開や直販もしない」という独自の戦略を貫きながらも、国内のキャンパーから高い信頼を得ている同ブランド。その背景には、燕三条が育んだものづくりにかける情熱がありました。

「広告宣伝は最小にし、SNSもやらない」

広告宣伝は最小にし、SNSの展開や直販はしないー。独自の戦略を貫く国内大手アウトドアブランド「ユニフレーム」。「気づいたらユニフレームの商品をけっこう持っていた」というキャンパーも多いと思いますが、消費者と商品以外で接点が少ない謎の多いブランドでもあります。hinata編集部は新潟県燕市の本社に赴き、ユニフレーム事業を統括する田瀬明彦部長に取材。製造業の街「燕三条」で培われたものづくりへの思いについて語ってもらいました。

「良いものが安ければ勝手に売れていく」

編集部:商品の価格に転嫁しないために宣伝をしないのは理解できるのですが、アウトドアブランドには珍しく、SNSも展開していません。 田瀬さん:ユニフレームが突き詰めようとしているのは、「品質」「価格」「供給」の3本柱です。営業の担当者には言いにくいのですが、商品は良いものが安ければ勝手に売れていくと思っています。この3本柱を実現するために資金と人員を集中的に投下し、逆にいうと、それ以外はやらないと決めています。 SNSを展開しようとすれば、担当者を置かなければいけません。あまり知られていませんが、ユニフレームは、ざるなどの業務用の調理器具を製造する「新越ワークス」の中にある一つの事業部で、従業員数は新潟で26人、東京で4人。SNSに人を割く余裕があるならば、その人件費の代わりに金型などに資金を投入し、喜ばれる商品を多く提供したいです。
編集部:Facebookのアカウントがあったような気もします。 田瀬さん:あれは我々とは関係のない偽物です(笑)。インスタグラムもツイッターもやっていません。SNSで煽っても、その商品の実力値は分からず、消費者のためにはなりません。確かに、弊社の商品を楽しみにしているファンにとってはサービスが良くないと分かってはいますが、良い商品を安く届けるためと理解してほしいです。

販売店で説明を受けて買ってほしい

編集部:自社販売をしていないのも同じ理由でしょうか。 田瀬さん:メーカーなら自社でも通販などで直販するのが普通ですよね。うちはあくまで製造業なので、不得意なことをして経費をかけるような中途半端なことはしません。ただ、これにはもう一つ大きな理由があって、ユニフレームが重視しているのが、販売店で説明を聞きながら商品を買ってほしいからです。ネットではなく、商品について詳しい店員から説明を受け、良いところ、弱点も説明してもらって納得した上で買ってほしいと考えています。

1万円以下が1軍

編集部:商品ラインナップには便利な調理器具や小物が多く、他のブランドとは一線を画しています。 田瀬さん:普通のメーカーは金額が高いテントのようなものをフラッグシップにしていますよね。ただユニフレームは1万円以下の小物が主力。1万円以下の商品を「雑貨」と呼んでいるのですが、とにかくそれに注力しています。これはお父さんが奥さんの許可なしでも買えると想定した値段でもあり、宣伝しなくて自動的に売れます。 (カタログを開きながら)例えば、パンや餅が焼けるこの「マルチロースター」。定価は2,343円。これはユニフレームでは1軍です。他の総合アウトドアブランドでは3軍の扱いでしょう。他社と競合するテントのように、宣伝しないと売れないものは主力と考えてはいません。

販売当初は赤字商品も!

編集部:確かに、ユニフレームといえば、「安くて質が良い」とキャンパーから支持を得ています。それはどうして実現できるのでしょうか。 田瀬さん:僕らは商品の売れ筋の金額から決めています。「だいたい5,000円以下だね」とか。投入時には赤字のものもありますよ。利益率の計算なんてしません(笑)。 赤字の商品が出てきてからが本番です。常に材料を変えたり、工程を改善しています。金型を新しくすれば工程が減ると分かれば、そこに資金を集中的に投じます。それはコストではありません。改善によって「まあまあの値段」まで持っていかないと、会社は強くなりません。この甲斐もあって、2019年の営業利益は過去最高となる見通しです。 おそらくですが、今の他のアウトドアブランドの値段の設定はコストの足し算で、結果、商品が高くなっている場合が多いと思います。ユニフレームはどこまで下げられるかの引き算です。あまり他社の参考にはならないと思いますね。

マーケティングなしでヒット商品を連発する理由

新商品が売れるまでには5年

編集部:ユニフレームの製品は焚き火台の「ファイアグリル」や、卓上で 使える炭焼きグリル「ユニセラ」など、投入から20年以上たっても人気のロングセラー商品が多いですね。 田瀬さん:ファイアグリルは1998年から販売していて、サイズも変わってません。ロングセラーが多いのは、宣伝もしないので、発売直後から売れることはなく、売れるまでに5年ぐらいかかるからです。他のブランドは新商品を出したら普通、宣伝しますよね。SNSやインフルエンサーを使えばいっときは売れるのは分かっていますが、それが続くとは思っていません。僕らは品質と価格、供給を目指せば売れていくと信じていて、実際に2011年から右肩上がりで売り上げは増え、それが最近になってやっと証明できるようになりました。

究極は名前なしで売れること

編集部:使い勝手が良い調理器具や小物で、よくよく見たらユニフレーム商品だったことが多くあります。 田瀬さん:ヒット作の「ファイアグリル」にしても、ブランドや商品の名前が入っていません。我々はユニフレームというブランドには、あまり興味がありません。品質の良さで選んでもらえれば、別に名前はどうでもいいです。 実は、だいたいの主要アウトドアブランドの製造のお手伝いはしていますけど、究極は名前なしでも売れていくことを目指しています。新商品の投入前からブランディングに力を入れるメーカーも多いですが、ユニフレームのブランディングは、お客さんが決めることです。逆にいうと、同じ新潟に拠点のあるスノーピークさんのような洗練されたブランディングを我々は真似できません。

マーケティングせずにヒット商品を連発

編集部: 開発担当者もおらず、マーケティングもしていないとも聞きましたが、それでも多くの新作とヒット商品を出しています。 田瀬さん:品番でいうと50~60点は毎年新しく出していますが、1つの商品の生存率は平均5年ぐらい。お客さんからの問い合わせの6〜7割が「廃盤になったのか」「どこで買えるのですか」というものです。我々がほしいものを妥協せずに作ることで、キャンパーに評価されているものを出して問い合わせをいただいているのはうれしい限りです。それでも新商品の3分の1は消えていきます。 正直、「これが売れる」というのは、よくわかりません。洗い物や運搬用の容器である「フィールドキャリングシンク」も、梱包の箱が大きすぎ、倉庫で場所をとっていたので販売を止めようとしていました。ただ営業マンが「勘弁してくれ」ということで残したのですが、またちょっと販売したらなぜか売れ始めました。だいたい一生懸命やったのはだめで、ふらっと出したものが売れますよね。

キャンプで使える羽釜や枝が折れる斧…

*写真上の赤いバーナーは台湾限定モデルで、国内販売はなし
編集部:最近はキャンプで使える羽釜が人気になっています。これも田瀬さんの発案なのですね。 田瀬さん:新潟の別の企業が作っていた羽釜がいいなと思って、自分でもキャンプで2、3年は使っていました。ただ羽釜のつばを受けとめる商品がないので、商品化を見送っていました。 それが社内にいたある日、小枝や落ち葉で使える焚き火台「ネイチャーストーブ ラージ」になんとなく入れてみたら、たまたまぴったり。「これで羽釜として成立するかな」という軽い気持ちで出したら、けっこう売れました。ただ我々は想定してなかったのですが、最近はバーナーに載せる使い方をする人が多いですね。
私も昔、インテリアの会社でデザインの基礎を学んでいたこともあって、アイデアに困ったことはありません。斧も安いものがAmazonで多く売られていますが、ユニフレームの「燕三条乃斧」は、枝や薪をテコの原理で折れる機能を独自につけています。ユニフレームの関心はこれまでにない商品です。

ぶれずにファミリー向け商品を燕三条で

編集部:最後に、燕三条でもの作りにこだわるユニフレームのさらなる目標を教えてください。 田瀬さん:模倣も多くあるので、とにかく模倣されない技術や仕組みのある商品を出していきたいです。何よりも、模倣されても負けないようにしています。最近は海外でコピーを生産するのも高くなりました。品質と価格と供給を徹底し、良いものが安ければ負けません。「ちょっと高くても、良いものならユニフレームでいいかな」ぐらいでやっていこうと思います。それはこれからも、半径5~6km以内でほしいものを作ってもらえる燕三条だからこそ実現できると思っています。 今後も主な対象はファミリーキャンプです。ここをブレずにやっていきたいと思っています。日本のキャンプシーンではメーカーやアイテムがキャンプの表舞台に出ている印象が強いですが、本当に自然を楽しんでもらうためにも、キャンプ道具を作る我々は裏方で良いと思っています。

取材を終えて

徹底したものづくりへのこだわりで、安くて良いものを提供し続けるユニフレーム。あくまで裏方に徹し、キャンプで純粋に自然を楽しんでほしいという強い思いを感じました。さらに、その思いを実現できるのは、金物や刃物などの工場が多く集まる新潟県燕三条だからこそ。hinata編集部はモノづくりの街から生まれたアウトドアブランドを連載し、国内ブランドの動向やアウトドア業界の最新トレンドを紹介していきます。


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