キャンプ・アウトドア情報メディア | hinata〜もっとそとが好きになる〜

北海道民がキャンプの重要性に気づいたワケ【ブラックアウトから1年】

2019.10.07ノウハウ

    北海道で震度7の地震を観測し、国内初のブラックアウト(全域停電)が発生してから今月で1年。9日に上陸した台風15号の影響で千葉県を中心に大規模停電が発生するなど、国内各地で自然災害は相次いでいます。アウトドアを通した災害への備えについて、実際に被災した札幌の人気キャンプブロガー大沢孝弘さんと、北海道の有名アウトドア用品店「秀岳荘」の小野浩二社長が「災害はひとごとではない」と話してくれました。

    キャンプ道具だけでなく、知識も役立つ

    妻子と乗り切ったブラックアウト

    「どことなく震災が起きたときの恐怖や教訓が色あせ、風化している気がしています」。hinata編集部の取材に応じてくれたのは、北海道からキャンプ情報を精力的に発信するブログ「忍者タカさんのキャンプ王に!俺はなるっ!」の執筆者、大沢さん(タカさん)。
    2018年9月6日に北海道で初めてとなる震度7を観測、北海道全体の295万戸が停電となり、地域によっては数日間も電気のない生活を強いられました。札幌で妻、長女との停電生活を乗り切った大沢さんが、役立ったキャンプの経験や道具をhinata編集部の石田に教えてくれました。

    軽量化が重要と気づく

    石田:キャンパーなら災害への準備は万端だったのではないでしょうか。 大沢さん:キャンプグッズはいっぱい持っていましたが、想定外のことばかりでした。キャンプに行く予定があったので、車の中にキャンプ道具をすべて入れていました。ただマンションのエレベーターは止まっていたので、15階にある自室と車を階段で往復しました。キャンプ道具は見た目の格好良さを優先してアーミータイプの鉄ケースに道具に入れていたので、私は9階でバテました。キャンプ 道具はいざという時に自力で持ち運ぶため、軽量化が必要であることを痛感しました。

    料理で役立ったキャンプ技術

    石田:タカさんのお宅は非常時に何を食べていたのですか。 大沢さん:我が家の冷蔵庫には冷凍エビとパプリカがあったので、パエリアを作ってみました。考えてみれば、手元にある食材で料理をするということも、キャンプで身につけた技術ですね。 石田:電気がとまって、まず困ったのが冷蔵庫の中の物だったようですね。 大沢さん:北海道は食べ物が豊富だからか、家が広くて冷蔵庫も大きいからなのか、停電時に冷凍庫にあったご馳走をまず食べていた家庭は多かったですね。実際に、停電だけの被害で済んだ地域では、解凍されてしまったカニなど食べていた家もあったようです。
    石田:北海道だからこそ、乗り切れたといった感じでしょうか。首都圏で大規模災害があったと思うと、やはりぞっとしますね。 大沢さん:北海道は屋外での焼肉文化が根付いているので、近所の人を呼んで肉を焼いていた人もいたようです。何も知らない道外の人たちは不謹慎だなんてSNSで批判もしていたのですが、あの状況では仕方なくそうせざる得なかったと思います。 北海道でさえ、スーパーやコンビニからすぐに食べ物がなくなりました。首都圏の人たちはどれだけ自分で食料を備蓄しているのでしょうか。1年前の大地震では山が崩れた地域で亡くなった人も出て残念でしたが、食料面では北海道だったからこそ、停電の危機を切り抜けられたのかもしれません。

    怖がる子供のために明かりが必要

    石田:ところで、今回の停電で一番役に立ったキャンプグッズはなんだったのでしょうか。 大沢さん:やはりLEDライトですね。小学生の娘は一緒にキャンプ に行っていたので不便な生活に慣れていると思っていましたが、夜に真っ暗になる生活を怖がっていたので、明かりが必要でした。最初はガスのランタンを使っていたのですが、ガスは調理にも使うことになるかもしれないので、途中からLEDのランタンに変えました。

    スマートフォンの充電が重要

    石田:3.11から災害時のネットの強さが知られるようになりましたが、今回の停電ではスマートフォンの電池がなくなり、情報源が断たれる人が続出したようですね。 大沢さん:私はポータブル電源を持っていたので、スマートフォンの充電は常に満タンにでき、ライフラインが確保できていることで心に余裕もできました。
スマートフォンの電池がなくなった人は、札幌市内の充電ができる施設に大行列を作っていました。スマートフォンを頼りにする現在は、充電できる環境を整えていくことが重要でした。 それまで一度も使っていなかった太陽光発電の充電器も手元にあり、ライフラインにつながるものは使わないからといって、フリマアプリのメルカリなどで売らなくて良かったと痛感しました。ただネットでは「もっと大きな地震が来る」などのデマが多く、キャンプの時にも使っていた携帯ラジオからの情報を頼りにしていました。

    保冷剤「倍速凍結」で刺身が凍ったままだった!

    石田:そのほかにも、いろいろな物が役立っていたようですね。 大沢さん:国内ブランド「ロゴス」の保冷剤「倍速凍結」は、クーラーボックスに3つ入れていたので、丸1日たっても刺身が冷凍されたままで、驚きました。ただ1週間も停電が続いていたら、キャンプ道具があっても家族は厳しい状況に追い込まれていたかもしれません。
    マンションの配水も止まったため、サランラップが活躍しました。女性はお風呂に入れないのが辛いと思います。キャンプ で手を洗うのに重宝する携帯シャワーも持っていたので、使う前に電気が復旧しましたが、妻と娘は安心していました。ただ、水が手に入らなかった時のため、体を拭くシートは新しく買い足しました。

    誰もが思う。「まさか自分がこんな目に会うとは」

    石田:キャンプをやっていた事で、災害への心構えができていたことを示しましたね。 大沢さん:キャンプ をやっていて良かったです。ただ、感覚的には年1回のキャンプ だけでは足りない気がします。久しぶりに使う道具の中には、ガスがなかったり、ランタンのホヤが壊れていたりすることもあると思うので、道具の点検も兼ね、春夏秋のキャンプは最低限必要だと思いました。 「まさか自分がこんな目に会うとは」というのが、多くの北海道民の率直な感想です。キャンプで多少の不便な生活でも動じない準備をしたいです。

    「アウトドアで余裕があった常連客たち」

    準備のない人の多さに驚き

    北海道のアウトドア店「秀岳荘」には震災後、普段の客層とは違った多くの人がアウトドア用品を求めて殺到。キャンプや登山に親しむ常連客と接している秀岳荘の小野社長には、普段から不便さに楽しみながら慣れる重要性を再認識したとのことです。

    やっぱりライトと非常食

    石田:北海道のキャンパーや登山者で知らない人はいない秀岳荘ですが、震災後に道内の3店舗はかなり混雑したようですね。 小野社長:震災2日目から店舗を開けました。急激に店内に行列ができるようになったのは、多くの地域で停電が解消された3、4日目でした。特に必要とされていたのが、ヘッドランプと非常食となるアルファ米やレトルト食品です。 電池はホームセンターなどの多くの小売店ですぐなくなったため、1人あたりの本数を制限して販売していました。スノーピークやコールマンのキャンプ コーナーにLEDライトが数百個ありましたが、2〜3日で全て売り切れました。太陽光の充電器も一瞬でなくなり、その後は販売する種類を増やしました。 石田:これだけ全国各地で震災があっても、まだ防災グッズを必要とする人はいたのですね。 小野社長:震災のあった年の売り上げは前年比で3千万円増。売り上げの伸びよりも、これだけ全国各地で災害が続いていても、準備していない人がこんなにも多いのかと驚きました。

    真冬の北海道、真夏の東京だったら・・・

    石田:冬の北海道でないことが不幸中の幸いでした。本州では首都直下地震や南海トラフ地震などの発生が懸念されています。 小野社長:ブラックアウトが発生した9月の北海道は暑くも寒くもない時期で、冷暖房が必要ありませんでした。ただ冬にはマイナス30度以下まで冷える地域もあり、地震が真冬だったら犠牲者は増えていたかもしれません。 震災からしばらくたって危機感を持ち、普段はアウトドアをしないお客さんが冬用のシュラフを買っていくこともありました。東京の場合には、夏に災害で大停電が起きたら、どうなるのでしょうか。エアコンもなく、水もなければすぐ熱中症になります。人口が密集した東京での地震は考えたくもありません。

    「アウトドアで災害に強い人になる」

    石田:キャンプの人気が再び高まっていますが、北海道ブラックアウトでは、あらためてアウトドア、キャンプの意義が見直されたのではないでしょうか。 小野社長:もともと北海道には約300のキャンプ場があり、道民にとってキャンプは身近なレジャーです。アウトドアで自分の道具を生かしながら、災害を乗り切るのは当然として、キャンプや登山などのアウトドアを知っている常連のお客さんたちは、気持ちに余裕があったようです。 アウトドアは不便さを知ることに意義があります。防災のためにキャンプをしているわけではありませんが、キャンプで災害に強い心構えにつながることは、今回の震災でよくわかりました。

    まとめ

    北海道のブラックアウトでは、キャンプや登山などのアウトドアに日頃から親しんでいる人が、心の余裕を持っていたことがよく分かりました。秀岳荘の小野社長は「北海道でキャンプはブームでなく、定着の兆しが見える」とおっしゃっていましたが、他の地域のもっと多くの人にもキャンプの楽しさを知ってもらいながら、いざという時にキャンプの知識や道具で自分や家族を守れるようにしてほしいと感じました。もちろん、災害がないに越したことはありません。

    特集・連載


    あわせて読みたい記事