【Akihiro Woodworks】「鹿児島の木」で新しい価値を世界へ届ける木工集団
名前は聞いたことがある、写真や動画で見たこともある…。でも、なかなか実物を手に取れない。そんな「幻のカップ」を知っていますか?その名は「jincup」。鹿児島の木工集団、Akihiro Woodworksがつくっている木彫りのカップです。2007年以来、毎年改良を重ねながら進化しているjincupと、そのつくり手たちの物語を深堀りしてみました。
親子2代で木工作家!地元の人が頼る「秋廣家」
jincupをつくっているAkihiro Woodworks(アキヒロウッドワークス)は、秋廣家の長男アキヒロジンさんと三男の秋廣琢(あきひろたく)さん、そして2人の父である秋廣昇(あきひろのぼる)さんによる木工集団。
とはいえ、昇さんは主に地元の人たちから直接受注して家具や内装をやっていて、ジンさんと琢さんは2008年ごろからカップや彫刻を日本全国や海外へと発信しています。
同じ木工作家ながら、昇さんとは違うスタイルで新しい世界観を切り拓いているジンさんと琢さん。似て非なる道を歩み始めた裏側にはどんな物語があったのでしょうか。
物心ついたときから身近にあった「木工」と「アート」
家具から個人宅の内装まで、全て一人でやってしまうという秋廣家の偉大な父・昇さん
昇さんが家具製作を生業として独立したのが1985年のこと。工場は自宅に隣接しており、毎日そこで仕事をする父の背中を見ながら、ジンさんと琢さんは育ちました。
Akihiro Woodworks アキヒロジンさん
※インスタレーション…場所や空間も作品として体験させる芸術
秋廣琢さんの作品、「ウォールズ」シリーズ。木を画材と見立てて、切ったり貼ったりした独特な雰囲気のあるアート
「何でも自分でやれ!」元請けにこだわった昇さんの教え
それぞれに自分の仕事を抱えながらも、お互いに良き相談相手のジンさん(左)と昇さん(右)
ふたりに背中を見せつつも、特に跡を継がせようといった風もなく、黙々と仕事を受けては家具や店舗、個人宅の内装などをやっていたという昇さん。下請けはせず、仕事は全て直請け。木工職人や内装業としてはめずらしいかもしれません。
Akihiro Woodworks アキヒロジンさん
一時は、ジンさんと琢さんも内装を手掛けていたそう。琢さんのアートを取り入れた木のカウンターがやわらかくも上質感を漂わせる
地元の木を使ってプロダクトをつくりたい!「jincup」の誕生
毎年バージョンアップしながら15年以上つくられてきたjincupと、琢さんが手がける鳥の彫刻「Chicchi(チッチ)」
父親を見ながら仕事を覚えてはいったものの、「いま仕事を発注してくれている人たちは親父のファン。僕らは僕らで違う仕事をつくらなきゃ」と考えていたというジンさん。
そんな中で、2007年にジンさんがお母さんへの誕生日プレゼントとしてつくったのが初代「jincup(ジンカップ)」でした。
「取っ手のあるカップで、再現性のあるものを鹿児島の木でつくりたいなと考えていて、思いついたのがあの形だったんです。外側は家具づくりの、内側は挽き物(ろくろを使った木工品)づくりの技術を使っています」とジンさん。
このjincupが、「一点物」をつくる昇さんとは違って、「再現性のあるプロダクト」という新しい方向性へ踏み出したジンさんと琢さんの一歩でもあったのです。
Akihiro Woodworks アキヒロジンさん
持ちやすい取っ手のデザイン、飲物が垂れにくい縁の形状、香りが立ちやすい形…。毎年改良を重ねながらていねいに彫られるjincupは徐々に認知度を上げ、今では1,500個出荷しても即完売という人気ぶり。アメリカや香港からもオーダーが来るようになり、まさに「幻のカップ」となりました。
jincupが軌道に乗ってからは、使う木材も地元である鹿児島の「タブノキ」に限定。反ったり捩れたりしやすいためにあまり市場では人気がない木ですが、だからこそ有効活用。木の質としては粘りがあり、小さなカップや彫刻を彫るには向いているのだそう。
購入してからも5年間自然乾燥させてからじゃないと使えないというから、その手間は大変なものです。
コロナ禍に興した「木工インスタレーション」
2020年ごろには、オーダーがどんどん増えるjincupの製作や昇さんから教えてもらって始めた内装の仕事も相まって、仕事が2年分くらい溜まってしまうほど忙しくなっていたのだそう。
そんな中で新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が起き、小売りの現場にも大きな衝撃が走りました。人が動かなくなり、店舗へ行かなくなったために売り上げが激減。アキヒロウッドワークスと付き合いのあるショップからも悲鳴が上がりました。
Akihiro Woodworks アキヒロジンさん
さらにコロナ禍では、「思い切って仕事を手放し、ブランドに専念する方向にシフトチェンジ」もしたというジンさんと琢さん。「身近な山から採れた木を使いこなしてカタチを創り、価値を生み出すことで社会に貢献する」というブランドコンセプトに立ち返り、鹿児島の木に魂を吹き込んで、世界中に届けるという現在のスタイルを確立しました。
地元の陶芸スタジオ「ONE KILN」とコラボした磁器製jincup
ブランドとして新しいチャレンジをする中で、地元の友人であり陶芸作家であるONE KILN(ワンキルン)の城戸雄介さんとのコラボも実現。jincupを波佐見焼の技術で型に落とし込み、磁器の「jincup ceramics(ジンカップ セラミックス)」が誕生しました。
2024年12月、hinataストアでも販売開始。木製jincupとはまた違う魅力を持つ磁器製jincupを紹介します。
【jincup ceramics】プロダクトでありながら一つひとつに個性が宿る
型とは思えない手仕事の表情を見せるjincup ceramics。Lサイズ(左)は280cc、Mサイズ(右)は200cc
乱獲にならない適正な木材の量を守り、一つひとつを手作業でつくるという木製jincupは、生産がオーダーに追い付かない状況がずっと続いていました。
そこで、城戸雄介さんが「何かできることがあれば」と声を掛けてカタチになったのが、ジンさんが彫った型でつくる磁器製のjincup ceramics。型でつくるとはいえ、職人が陶石をトロトロの泥状にしたものを流し込み、一定時間待ってから泥をこぼして厚みを調整する「排泥鋳込み」という技法を採用しています。
泥の切り具合や待ち時間によって厚みや形が少し変わるほか、飲み口も職人が一つひとつ削っているため、再現性がありながら手仕事のぬくもりを感じられるのが魅力。
磁器だとカップ部分が熱くなるため、指が本体に当たらないように取っ手の穴を大きく調整。素材が変わっても使い勝手の良さは細部まで妥協なし
カラーはコバルトとホワイトの2色で、それぞれにMサイズとLサイズを展開。お気に入りの色とサイズを選んでキャンプでのコーヒータイムをより贅沢なものにしてはいかがでしょう。
2025年春には書籍と出版記念モデルのjincupもリリース予定
ブランドを立ち上げた2008年から、精力的にものづくりをしながら駆け続けてきたジンさんと琢さん。
「
つくったもので人が幸せになったり、価値がついて雇用を生み出す社会に貢献したり、ものづくりには魅力が詰まっている。僕らはものづくりが大好きです。それが少しでも伝わればうれしい」とジンさん。
そんな
アキヒロウッドワークスと、2007年に母親へのプレゼントとして産声を上げて以来、毎年進化を重ねてきた
jincupの歴史をまとめた本が2025年3月に発売予定。出版記念モデルとして、母親に贈ったjincupをリモデルした「
jincup MOTHER」とのセットも数量限定で販売されます。
2024年12月現在、先行予約を受け付け中。jincupへの愛着がいっそう湧きそうな渾身の一冊、手に取ってみては。
公式サイトはこちら:
Akihiro Woodworks