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特異な山容の甲斐駒ヶ岳

初心者も挑める日本百名山・甲斐駒ヶ岳【オススメの山vol.16】

南アルプスの北端にある甲斐駒ヶ岳(2,695m)。3,000m峰がそびえる南アルプスにあるため、初心者にはハードルが高いと思われがちですが、北沢峠経由のルートを選び、十分な装備で挑めば、無理なく日帰りで登れる山。信仰の山でもある日本百名山の一つで、ほかの南アルプスにはない独特な魅力を登りながら味わえます。

甲斐駒ヶ岳の魅力は?

独特な存在の100名山

甲斐駒ヶ岳の遠望
長野県伊那市と山梨県北杜市にまたがる甲斐駒ヶ岳。駒ヶ岳と名付けられた山が全国約20カ所ある中で、最高峰。その次には、中央アルプスの木曽駒ケ岳(2,956m)が続きます。 山頂部のダイナミックな花崗岩が登頂者の気持ちを駆り立て、大自然にいることを実感させる山容。南アルプスの中でも独特な存在感を放つことから、日本百名山の筆者、故・深田久弥氏が同書の中で、日本十名山を選ぶとしても、甲斐駒ヶ岳を選ぶ、と記しているほどの名峰として知られています。

難易度は?

甲斐駒ヶ岳といえば、日本最大級、約2,200mの標高差を誇る「黒戸尾根コース」。修行のようにつらい登山道がイメージされがち。しかし、交通の便の良い標高2,000mのある北沢峠の登山口から取り付けば、初心者でも日帰りも十分に可能な山です。 この北沢峠を拠点にして、甲斐駒ヶ岳だけでなく、南アルプスの3,000m峰、仙丈ヶ岳(3,033m)のピークハントを楽しむ登山者も少なくありません。ダイナミックな甲斐駒ヶ岳と南アルプスを象徴するような穏やかな仙丈ヶ岳の対比を、登りながら体感できます。 ▼初心者におすすめの仙丈ケ岳についての詳細はこちら

富士山とともに歴史ある霊山

駒ケ岳神社(山梨県北杜市)の公式サイトによると、甲斐駒ヶ岳は、ピラミッド型の特異な山容から、古くから富士山とともに、信仰の対象としてあがめられてきた霊山。 全国に駒ケ岳と名付けられた山が多くある中で、聖徳太子に献上された白馬「天津速駒(あまつはやこま)」がこの山で生まれたことにちなみ、「駒ケ岳」と称されるようになったと言い伝えられています。 甲斐駒ケ岳は江戸時代の文化年間に、信州人で、後の弘幡(こうばん)行者・開山偉力不動尊である権三郎が開いた信仰の山。神木に囲まれた同神社では、毎春に神楽が行われ、信仰する参拝者でにぎやかになります。 駒ケ岳神社とこの霊山を信仰する人たち(講社)の総称が駒ケ岳講。神社の参詣のほか、登拝、修行を目的にしており、江戸の末期から戦前まで活動がもっとも盛んでした。甲斐駒ヶ岳の登山道のいたる所に建立されている石碑、霊神碑から、当時の熱心の信仰の跡がうかがえる山でもあります。

剣のある頂上部

さまざまな鉄剣や石碑をみかけ、神秘性を感じさせるのが黒戸尾根。特に、頂上手前にある岩に刺さった2本剣と、山頂部に鎮座する駒ケ岳神社の奥宮が、険しい道のりを耐え抜いてきた登頂者を荘厳な雰囲気で迎い入れてくれます。達成感とともに、古来の信仰の山であることを強く印象付けるのも、甲斐駒ヶ岳ならではの体験です。

北沢峠までの交通アクセスに注意

人気の北沢峠への交通アクセス

なだらかで女性的な山である一方、山深くアクセスが不便なところが多い南アルプス。北端に位置する甲斐駒ヶ岳は、北アルプスのような急峻さを持ちながらも、最短コースで登れる北沢峠までは、公共交通機関でのアクセスも比較的容易です。 公共交通機関を利用 【JR中央本線の茅野駅で下車】南アルプスジオライナーで仙流荘前。南アルプス林道バスに乗り換え55分。 詳細はこちら:南アルプスジオライナー 【JR飯田線の伊那市駅で下車】JRバス関東高遠線で高遠駅で、長谷循環バスに乗り換え仙流荘で下車。南アルプス林道バスに乗り換え55分。 詳細はこちら:高遠線(ジェイアールバス関東)の時刻表長谷循環バス 時刻表 【山梨県南アルプス市の市営芦安駐車場前を経由】JR中央本線の甲府駅から、南アルプス林道バスまたは乗合タクシーで広河原まで約1時間。広河原で北沢峠行きの南アルプス市営バスに乗り換え25分。 詳細はこちら:南アルプス市営バス時刻表 マイカーを利用 ※各駐車場から北沢峠まではバス利用。 夜叉神峠登山口駐車場(山梨県南アルプス市):約100台 芦安駐車場(山梨県南アルプス市):約600台 仙流荘無料駐車場(長野県伊那市):約350台 詳細はこちら: 南アルプス登山バス(夜叉神峠、芦安) 南アルプス林道バス(仙流荘) *台風や新型コロナウイルスの影響で運休が決まっているルートがあるため、事前にアクセスの確認を忘れないようにしてください。

上級者向けの黒戸尾根へのアクセス

公共交通機関を利用 JR中央本線・小淵沢駅か長坂駅、日野春駅からタクシーを利用。所要は約20~30分で4,000円前後。 マイカーを利用 山梨県北杜市の「尾白川渓谷登山口」か「横手駒ヶ岳神社登山口」の2カ所に無料の駐車場あり。

登る前の心構え

登山の前と後で楽しめるライブカメラ

山梨県北杜市のゴルフ場「北の杜カントリー倶楽部」はクラブハウスにライブカメラを設置。北杜市観光協会の公式サイトでは、刻々と移り変わる甲斐駒ケ岳の様子を配信しています。南アルプスの中でも珍しい急峻な山容を登る前にみれば、次に向かう気持ちを高めてくれます。 上級者向きの厳冬期にも、雪をたたえた堂々たる姿をながめられるため、ライブカメラの画像をみながら、甲斐駒ヶ岳の頂上を踏んだときの達成感を回想できます。 ライブカメラの配信はこちら:北杜市観光協会

3,000m峰の天気

天候に恵まれた登山
多くの登山者が訪れる登山口のある北沢峠でも、標高は約2,000m。100mで0.6度気温が下がるとされているので、海抜0mの地域と比較して、単純計算で12℃低いことになります。山頂部は夏でも氷点下になることがあり、不測の事態に備えて、ダウンやフリースなどの防寒着は忘れずに持っていきましょう。 天気の確認はこちら: 日本気象協会(tenki.jp) てんきとくらす

花崗岩が特徴の甲斐駒ヶ岳

甲斐駒ヶ岳の特徴といえば、やはり花崗岩です。花崗岩というのは、マグマがゆっくりと冷えて固まった岩石のこと。かなり大きな岩なので、一目でわかっていただけるはず。ちなみに、同じく南アルプスの鳳凰三山も花崗岩が特徴です。 甲斐駒ヶ岳では、ほかの南アルプスの山のように高山植物を見かけることがありません。花崗岩は風化すると小さな粒状になり、流されてしまうので、高山植物がじっくりと育つ環境には適していません。たとえ高山植物がないとしても、真っ白に輝く花崗岩は見る価値があります。

初心者にオススメの最短ルート

北沢峠〜駒津峰〜甲斐駒ヶ岳が定番コース

甲斐駒ヶ岳に登頂するルートで、オススメは、北沢峠から双子山、駒津峰を経由するルート。北沢峠〜駒津峰〜甲斐駒ヶ岳まで往復でも7時間かかるため、できたら仙水小屋や長衛小屋に泊まると、余裕あるスケジュールで登山できます。

北沢峠~双児山~駒津峰(登り2時間50分・下り1時間50分)

まずは、北沢峠から駒津峰までのコースから。標高約2,000mの北沢峠のこもれび山荘の脇を通って、いよいよ登山がスタート。原生林の中をジグザグに登り、高度を稼ぐこと約2時間。標高2,649mの双児山の頂上の下に着いたころに、ようやく視界が開けてきます。 双児山山頂では、南東側の展望はお見逃しなく。ここから甲斐駒ケ岳は、とてもキレイで感動します! 双児山でひと休みしたところで、ハイマツ帯の中を下り、また登り返して樹林帯を抜けると、展望が開け背丈の低いハイマツ帯の中の登りが駒津峰まで。景色を眺めながらの登りなので、さほど疲れも感じないかもしれません。ただ、このコースには、水場がないので要注意。出発前に、十分な水を準備しておきましょう。

水場のある北沢峠〜仙水小屋〜駒津峰もほぼ同じ時間

一方、水場があるコースならば、北沢峠~仙水小屋~仙水峠~駒津峰のコース。駒津峰までの登りは2時間50分、下り2時間5分と双児山経由ルートとさほど時間は変わりません。 北沢峠バス停から10分ほど林道を歩いたら、側道入口から南アルプス市の長衛小屋方面へ。この小屋の裏にかかる橋をわたって、仙水峠に向かいます。その後は樹林帯の登りがしばらく続き、仙水小屋前の登山道沿いにある水場で水の補給をしてから、樹林帯の中を登り、高度をグングンあげていきます。
ごろごろした岩の中を登り、仙水峠(2,264m)に到着。ここからは、針葉樹林帯の中の登りが続き、ハイマツ帯を抜けると、ようやく展望が開けてきます。駒津峰山頂までもう一息ですが、浮石が多いので、足元に注意しながらガレ場を登る必要があります。

駒津峰~甲斐駒ヶ岳(往復で約2時間)

駒津峰から甲斐駒ヶ岳までは、岩稜の直登と砂地の巻き道の2ルートがあります。直登ルートは赤ペンキでマークもつけられているので、道に迷う心配はなく、鎖場もありません。 駒津峰からハイマツ帯の中を進むうちに、やせ尾根になっていきます。といっても、尾根の両側はそこまでスパッときれ落ちていないので、慎重に通過すれば問題ありません。小さなアップダウンを繰り返して、ようやく小ピークにたちます。甲斐駒ケ岳まで、もうすぐ。
小ピークから下ったら、いったん稜線から外れ、樹林帯の中に入ります。数メートルほど岩下りがありますが、ここも問題なし。ステップもホールドもしっかりあるので、難易度は高くありません。掴むところも足を置くところもあるから、初心者でも大丈夫。 さらに降りてから登り返すと、再び稜線へ出て、大きな岩石の六法石が出現。これを右から巻いて少し登ったら、直登ルートと巻き道ルートの分岐です。この分岐をそのまま直進すると、岩稜の登り。最初の約15分の登りが、一番キツいかもしれません。 その後は、傾斜は緩くなります。最後に花崗岩の中をひと登りすると、ついに甲斐駒ヶ岳山頂です。
甲斐駒ヶ岳山頂からの景色は、圧巻の一言。南アルプスはもちろんのこと、八ヶ岳や中央アルプスの雄大な景色が広がり、一瞬にして疲れもふきとびます。しばし絶景をお楽しみください。駒津峰までのルートは、巻き道ルートにしてもいいし、行きと同じように直登ルートでもお好きな方を選べます。

いつかは挑戦したい黒戸尾根

日本三大急登の一つとされる黒戸尾根。標高差は2,200m。山頂まで約17kmある登山道のコースタイムは、往復で約15時間。北沢峠の倍あります。初心者がいつかは挑戦したい健脚者向けのルートです。

健脚者向けロングコースの黒戸尾根

黒戸尾根への入り口は、山梨県北杜市の「尾白川渓谷登山口」か「横手駒ヶ岳神社登山口」の2カ所。無料駐車場もあるため、マイカーでのアクセスという点では、マイカーが規制されている北沢峠よりも良いです。 ロングコースだけでなく、高度感のあるはしごや鎖が続く5合目〜7合目が核心部。健脚の上級登山者やトレイルランナーは日帰りもしていますが。7合目で七丈小屋で一泊するのが安心。日没、日の出をながめながらゆったりできます。

甲斐駒ヶ岳の山小屋

北沢峠には多くの山荘があり、甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳の起点として利用する登山者が多いです。予約が必要な山小屋がほとんどなので、行く前に空きを確認してください。黒戸尾根では七丈小屋がロングコースを行く登山者を支えています。

北沢峠:こもれび山荘(旧長衛荘)

北沢峠の周辺では一番大きい山小屋。長野、山梨両林道バスの終点で、甲斐駒ケ岳と仙丈ケ岳登山の拠点になる。収容人数は110人で、要予約。 【基本情報】 電話:現地080-8760-4367(期間中8:30~17:30) 営業期間:4月25日~11月3日(予約開始2月1日 午前8時30分~)、年末年始営業12月25日~1月10日 料金:素泊まり(寝具無し) 5,500円〜/泊 詳細はこちら:北沢峠こもれび山荘

北沢峠:仙水小屋

北沢峠から約1時間弱。針葉樹の中にあるこぢんまりとした小屋。完全予約制で、すし詰めにならず、ゆったりと宿泊できる。北沢の源流から引いている水場もあります。収容人数30人で要予約。キャンプ指定地は11張分。 【基本情報】 電話:期間中・現地 080-5076-5494、期間外0551-28-8173 営業期間:要問い合わせ 料金:要問い合わせ

北沢峠:南アルプス市長衛小屋

2013年シーズンにリニューアルオープン。木造2階建ての小屋にはシャワールームや男女別のトイレ、登山装備の乾燥コーナーなどがあり、充実した施設を誇る。収容人数56人で、要予約。小屋の前は100張のキャンプ指定地があります。 【基本情報】 電話:現地090-2227-0360、期間外090-8485-2967 営業期間:4月下旬~5月上旬(素泊まりのみ)、6月中旬~11月上旬、年末年始(素泊まりのみ) 料金: [寝具付素泊]6,200円〜/泊 [幕営]:1人800円/泊

黒戸尾根:七丈小屋

黒戸尾根に唯一ある山小屋。標高2,400メートルの七合目にあります。通年で営業し、食事の提供も。ロングルートでのテント泊でも重要な拠点。収容人数は約50人。 【基本情報】 電話:090-3226-2967 営業期間:通年 料金(一般): [素泊り(寝具付)]4,600円〜 / 泊 [テント泊管理料]600円 / 泊 詳細はこちら:七丈小屋

翌日は仙丈ヶ岳のピークにも

日本百名山にも選ばれている仙丈ヶ岳(3,033m)。厳しい山容の甲斐駒ヶ岳に対して、全体的になだらかで女性的な印象を受ける山です。甲斐駒ヶ岳とセットで8の字形に歩くことも可能で、初心者の初めての3,000m峰への挑戦としては無理のない山。 6合目を越えたあたりから、南アルプスの山々や富士山を眺めながら気持ちの良い登山が楽しめます。トイレは北沢峠と仙丈小屋にあり、同小屋には売店もあって水も補充できるので安心。

甲斐駒ヶ岳で登る上の注意点

甲斐駒ヶ岳に向かう登山道
台風や新型コロナウイルスの影響を受け、山小屋や、北沢峠までの公共交通機関が営業を自粛していたり、縮小していたりする場合があります。登山に行く前には、山小屋や各バス会社の公式ページなどを確認し、営業や登山道の状況を確認してから、甲斐駒ヶ岳に向かうことをおすすめします。

おわりに

甲斐駒ヶ岳は、バリエーションに富んだルートです。岩場もあれば、樹林帯の中の急登りや稜線歩きも、そして展望も楽しめるとあって、登山の楽しみをぎゅっと凝縮しているのが甲斐駒ヶ岳。ここは南アルプスの中でも比較的アクセスしやすいので、南アルプスデビューにはもってこいです。


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