アウトドアを
楽しむことが、
自然を大切にすることに
繋がっていく。

「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。」

これは、2018年に発表された〈パタゴニア〉のミッション・ステートメントだ。

1957年、イヴォン・シュイナードはカリフォルニアのバーバンクにある両親の家の裏庭でクライミングギアの自作を始める。当時、クライマーたちは「ピトン」という金具(「ペグ」や「ハーケン」とも呼ばれる)を打ち込んで、岩登りを行っていた。しかし、自らが作っていた道具が環境に負荷をかけていたことを知り、岩を傷つけることのないクライミング・ギアの開発に乗り出す。同時に、クリーン・クライミングを提唱した。

〈パタゴニア〉は環境保護活動に注力する会社として知られているが、設立当初はアウトドア・アクティビティを心から愛する者たちの集まりで、崇高な環境主義者の集いというわけでもなかった。ただ、自分たちは自然が好きでずっと遊んでいたいのに、自分たちが遊ぶことで大好きな自然を傷つけていることに気づいてしまった。だからこそ、自らの手で守っていこうと心に誓う。そうして、1973年にベンチュラの廃業した食肉加工工場をオフィス、倉庫、直営店に改装。パタゴニア社が設立される。

〈パタゴニア〉の歴史はアウトドア・ウェアの歴史でもある。いまや当たり前となったレイヤリングというコンセプトを導入したのも、〈パタゴニア〉が最初だった。と同時に、環境問題を顕在化させるための歴史でもあり、1985には、毎年税引き前利益の10%(後には年間売上の1%)を世界の自然環境の保護/回復のために寄付する「10%寄付プログラム」をスタート。同年には、いまも愛され続ける「シンチラ・フリース」や「キャプリーン・ベースレイヤー」など、数多くのアイテムも発表された。

©2023 Pata gonia, Inc.

92年には「内部環境アセスメント・プログラムがスタート」し、翌年にはリサイクルしたペットボトルから再生ポリエステルを作り出し、PCRシンチラ・フリース素材に採用。96年に一般的な栽培法のコットンの使用を中止。すべてのコットン製品をオーガニックコットン100%に切り替えている。当時、Tシャツは〈パタゴニア〉のなかでも大きなシェアを誇る製品だった。なのだが、それまで自分たちが採用してきたコットンがいかに農薬まみれで、自然を破壊し、生産者も蝕んでいたかを知った結果、半分以上の生産ラインを止めてしまう。

たとえ儲かるのだとしても、それが人や環境に負荷を掛けるのならばストップする――。イヴォンがピトン事業から撤退したように、〈パタゴニア〉は常に最善を尽くすことを大命題としている。それでも、事業が停滞することなく成長を遂げる理由は、常に「本当に必要な製品」を開発し続けるからだろう。一時はアウトドアシーン以外のラインを増やすことで裾野を広げ、会社としても急成長を遂げた。ユニークなのは、そうして得た資金で国立公園を買い戻したり、気候変動に関するアプローチに活用したりする点だろう。

今回、話を聞いたPR・ロジャースさんは、「製品はメッセージを伝えるためのツールなんです。〈パタゴニア〉は、環境問題を解決するためのツールとして製品を製造・販売しています。その売り上げの一部は環境問題に対して大きな役割を果たすことになります」と、自社の哲学を話してくれた。

「キャンプなど自然が好きな人たちに、自分たちが使っている製品のフットプリントを知ってほしいです。豊かな自然は永遠に続くわけではなく、自分たちの行動を変えなければいけない部分もあります。私たちも製品を通して、そのメッセージをきちんと伝えていきたいと思います」

最近では漁網をアップサイクルした生地「ネットプラス」も多くの製品に使われている。これまで、400トンもの漁網を回収し、アップサイクルしてきた。Jürgen Westermeyer© 2023 Patagonia, Inc.

〈パタゴニア〉では人気のある製品でも多くは作らず、結果的にすぐに売り切れてしまうこともあるという。

「本当に必要なひとに買っていただき、長く使ってほしいです。物を生み出すというのは、同時にゴミを生み出すことでもありますから。そのバランスを取りながら、急成長を目指すのではなく、環境に配慮したよりよいビジネスを続けていきます」

Amy Kumler©2023Patagonia,Inc
パタゴニアの食品部門の「パタゴニア プロビジョンズ」で屈指の人気を誇るビール。原材料であるカーンザは、地中およそ3.6メートルまで根を張り、炭素を吸収してくれる。

ウェアでいえば、強制給餌やライブ・プラッキングが行われていない鳥まで追跡可能にしたトレーサブル・ダウンの採用や、深刻化する海洋プラスチック問題に実践的なソリューションを示すための新素材を共同開発。2025年までに、石油を原料とするバージン繊維を製品から排除し、環境に望ましい素材のみを使用することを目指すなど、常に刷新を続けている。近年はオーガニックフードのコレクション「パタゴニア プロビジョンズ」にも注力。

今後もキャンプやアウトドア・アクティビティをたのしむのなら、
ぜひ〈パタゴニア〉のメッセージにも耳を傾けたい。

取材協力:Patagonia