極私的名作道具

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キャンパーなら誰しも、昔から愛用している道具のひとつやふたつある。どんなトレンドが押し寄せようと、誰からもわかってもらえなかったとしても、その道具が愛おしくたまらないのだ。そんな、極私的な名作道具を賢人たちに紹介してもらう連載企画。Vol.1は、スタイリストの平健一さんが登場です。

Vol.1 平健一 (スタイリスト)

プロフィール

平 健一/スタイリスト

Instagram:@runrun1980

文化服装学院スタイリスト科卒業後、スタイリスト・シガアキオ氏に師事。2007年に独立。現在は雑誌、広告、カタログでのスタイリングのみならず、アウトドアブランドの監修やオリジナルブランドの企画・製作までをマルチにこなす。2021年には自身のブランド〈TSPEC GEAR〉をローンチ。

GRIP SWANY:G-1 ワークグローブの始祖にして、完成形。

〈グリップスワニー(GRIP SWANY)〉の「G-1」は、アメリカで170年以上前に作られた、ワークグローブ界のオリジネーター。同じくらいの歴史を持つアメリカのワークウエアといえば、〈リーバイス〉くらいのものです。
この「G-1」にはじまり、その後「G-2」、「G-3」などバージョンアップされてきた〈グリップスワニー〉のグローブですが、ファーストモデルの人気はなかなか衰えなくて、いまじゃ手に入りにくいキャンプ道具のひとつ。

大きな特徴は、ケブラー糸というハイテク繊維が縫い糸に使われていること。強度と耐熱・耐摩耗性がとにかく高くて、ほつれたら無料で修理してくれるんですが、まず、ほつれないですよ。もちろん、ハードな牛革も魅力。薪割りのとき、ペグを打つとき、刃物を使った作業のとき、石を運ぶとき、焚き火台を出したり片付けたりするとき、と、キャンプでは本当に最初から最後までずっと使っています。場面によって使い分ける必要を感じなくて、そんなオールマイティなところも好きですね。いつもは〈シュイナード イクイップメント〉のゴツいカラビナをつけてパンツのベルトループに引っ掛けていたり、大きめのポケットにぐさっと差したりして行動しています。

自分が使っているのは、ちょっと大きめのLサイズ。大きめの方が、なんとなく安心っていうのもあるし、貸したときに誰でも使いやすいっていうのもあります。それと、「G-1」だけでも4、5組持っていて、いつも車に載っけているんです。アウトドアでの撮影の仕事が多いので、そういうとき、スタッフさんとかに貸してあげられるようにね。

一番古いものだと、かれこれ10年くらい使ってるんじゃないですかね。かなり、いい味出てますよ。この味わいは、オリジネーターだからこそ出せる特別なものだと思っています。ぼく、アパレルでもキャンプ道具でも、とにかくそれを最初に作ったブランドが好きなんです。とはいえ、他のいろんなメーカーのものを使ってみないことには、その本当のよさは語れないので、ワークグローブだけでもいろいろと使ってみましたよ。単純に「何でも使ってみたがり」みたいなところもあるんですけど(笑)。でも結局、いつも「G−1」に戻ってしまうんです。
好き過ぎて、以前、別注も作らせてもらったことがあるんです。あるテレビ局で、通販番組みたいな企画をやったとき、「G-1」の手の平側をオールスウェードにさせてもらって。だけど、オリジナル自体がこれ以上なく完成されたものだから、いじれるところが本当になくて…。

とにかく、キャンプ中のどんな場面でも使えて、オリジネーターであるがゆえのタフネスや味わいがあることが、ぼくが〈グリップスワニー〉の「G-1」を愛する理由です。たくさんのキャンプ道具を持っていますけど、これだけは必ず持っていきます。ズシッと重量もあるところなんかも大好きなんです。これぞ、一生モノの“道具”だと思います。

About GRIP SWANY「G-1」

1848年、ゴールドラッシュで一攫千金を狙う採掘者に向けて開発された、ワークグローブの始祖。使いほどに手に馴染む牛革、538℃までの耐熱性があり剛鉄の5倍の強度をもつ縫い糸(糸はほつれにくさをとことん追究された。その自信のあらわれとして、永久保証がつく)、灯りが少ない場所で落としても見つけやすいように考えられた「スワニーイエロー」がアイコン。1985年4月からは、日本国内での生産がスタート。日本人の骨格にフィットするよう、裁断型や革の仕上げが調整される。メンテナンスは、ミンクオイルを塗り込む程度でOK。撥水性、耐久性が増し、汚れを落とす効果もある。

Instagram:@gripswany

Illustration:Rui Nakamura

Text:Masahiro Kosaka

Edit:Marugoshi Kimura